第2話 その6
三人は馬車に揺られて、チューケーの町に到着した。
町には、王国の兵士達が沢山いて、忙しく動き回っていた。
「ボク達を探しているのかな? いや違うみたいだ。ちょっと様子を見てくる」
ミョウは荷馬車から降りると、人混みが集まる広場をこっそりと偵察しに行った。
「二人共お待たせ」
荷台で待つ二人の元にミョウが戻ってきた。
「どうやら中央の広場で罪人を処刑しようとしているみたい」
口を開いたのはルーナで、キョウは相変わらず無口だ。
「なんて非道い事を……ミョウさん。一体誰が処刑されようとしているのですか?」
「うん。王国の騎士で、名前はえーと、キョウほらアイツだよ。ボク達を追いかけてきたあの暑苦しいやつ」
「まさか……リムターですか?」
「そうそうリムター。そいつが処刑されるみたいだよ」
「助けないと!」
「ルーナ待ってよ。あいつはボク達を追ってた敵だよ。何で処刑されるかは知らないけど、助ける義理なんて無いよ」
「いいえ。彼はとても立派な騎士です。きっと誰かに騙されていたんです。話せばきっと私たちの味方になってくれます」
「どうするんだよキョウ。助けに行くの?」
ここで選択肢が出て僕は「はい」を選択。
「キョウが言うならしょうがないか。じゃあ熱血騎士救出作戦開始だね」
場面は替わり町の広場だ。
普段なら人々が行き交う広場には、木で作られた処刑台が鎮座している。
その処刑台にリムターと副官のタシオンがいる。
周りには多数の町の人が見物していた。
その中にキョウ達三人の姿もある。
彼らはボロいフードを頭から被り、顔を隠していた。
広場にタシオンの声が響き渡る。
「聞け! この男リムターは王の命に背き、大罪人である勇者を騙る偽物に与した」
タシオンの演説は続く。
「リムターは偽勇者を匿う罪人を庇い我々の邪魔をしたのだ。そんな奴を生かしておいてもいいのだろうか? 否、断じて否である!」
タシオンは自分の言葉に酔っているようだった。
「二度と裏切り者が現れないように、見せしめとしてここで、この男を処刑する!」
つまり、リムターの処刑は王国に裏切ればどうなるかを教える為の生贄であった。
「このままではリムターが処刑されてしまいます。早く彼を助けないと!」
「分かってるよルーナ落ち着いて。二人共さっきボクが言った通りに行動してね」
そう言い残して、ミョウは処刑台の方に近づく。
処刑台は兵士達が周りにいて、気づかれずに近づくのは難しそうだ。
だからミョウは自分の能力を解放して、チャンスを待った。
キョウとルーナも準備のためにこの場を離れる。
リムターの首に縄がかけられる。
「罪人リムター。何か言い残すことはあるか?」
「…………」
「無いなら結構……では刑を執行する!」
タシオンの合図で黒い覆面をかぶった死刑執行人がレバーを引いた。
ガタンという音とともに、リムターの足元の床が下に開き、足場を失った身体が下に落ち、彼の首を締め付ける。
「今ニャ!」
それを見て、ミョウは走り出す。
道を塞ごうとする兵士の間をすり抜け、リムターの首を絞めるロープを素早く切断した。
「ゴホ! ゲホ!」
地面に落ちたリムターは空気を求めて激しく咳き込む。
「ゲホゲホ……お前は勇者と共にいた……」
「話は後ニャ。ここから逃げるのニャ」
ミョウな語尾がニャになっていて、シリアスな場面なはずなのに何とも微笑ましい。
「に、逃げると言ってもどうやって?」
ミョウは被っていたフードを外す。
頭には黒い猫耳が生えていた。
その耳をピコピコと動かす。
「来たニャ。あれだニャ!」
ミョウが指差したの方向から、嘶きと地を蹴る激しい足音が聞こえてくる。
荷馬車が広場にやって来た。それを操るのはもちろんキョウ。後ろにはルーナも乗っている。
荷馬車に轢かれたくない人々は逃げ惑う。
兵士達も止める術がなく、自分の身を守るので精一杯。
この荷馬車は、この町まで乗せてくれたおじさんの物だ。
事情を話したら快く貸してくれたのだ。
荷馬車が、処刑台の横に止まる。
「行くニャ。ついて来いニャ」
「ああ、分かった」
ミョウとリムターが乗ったのを確認して荷馬車が動き出す。
このまま脱出成功かと思われたその時、馬に矢が突き刺さる。
怪我した馬は走れず、馬車は止まってしまう。
「逃しはしないぞ。偽勇者一味。そしてリムター」
矢を放ったのはタシオンだった。彼は持っているクロスボウを捨てて、腰の鞘からサーベルを抜き放つ。
勇者キョウが一番最初に現れタシオンと対峙する。
「こうなったら戦うしかないニャ」
ミョウが荷台から降りる。
頭からは猫耳、腰からは尻尾が生え、ルクレア族そのままの姿だ。
「ルクレア族か?貴様らみたいな、ひ弱な種族が我々に楯突くのか?」
「黙れニャ! 本気を出したボクをなめるニャよ!」
「キョウ。ミョウさん。私も一緒に戦います」
「ルーナ」
「私の魔法はとても役に立つんです。それにあのタシオンという人は、とても嫌な感じがします。私にはまるで悪魔のようなものに見えるのです」
「悪魔かどうかは分からないけど、あいつは嫌な奴ニャ。友達も一人もいないに決まってるニャ」
ミョウ達の話を聞いていたタシオンが怒りで持っているサーベルを震わせる。
「き、貴様ら! 俺を馬鹿にするな!」
その一言の直後。戦いが始まった。
タシオンと兵士が四人になぜか死刑執行人まで戦闘に参加している。
まずはセオリー通りに、ルーナで味方のステータスを上げて行く。
今回からミョウの新たな特技にゃんこモードが解禁。
これを使うと、隠していた猫耳と尻尾が現れステータスが全体的に上昇。特に素早さと急所に当たる確率が高くなるので、うまくいけばボスも瞬殺できるのだ。
しかし一つ問題がある。
戦闘画面は敵の姿は表示されているのだが、味方は名前とステータスだけしか表示されないのだ。
できれば猫耳と尻尾がついた状態のミョウが見たいな。
あっ、妹の方じゃないよ。うーん名前が一緒だと色々ややこしくなるな。
そんなことを考えていると、敵のターンになった。
タシオンは持っているサーベルで二回攻撃してくる。
二回ともキョウに当たるが、そこまでのダメージはない。
兵士四人の攻撃もそこまで痛くはない。
問題は死刑執行人だ。
命中率が低いくせに、たまにこちらの急所に当ててくる。
今もキョウがソレをくらってライフが一気に半分になってしまった。
僕は自分のターンが来ると同時に、ルーナの回復魔法でキョウの傷を癒す。
そしてキョウで執行人を攻撃。体格がいいだけあって、なかなか倒れない。
ここは一番急所に当てられるミョウに任せることにした。
ミョウの攻撃。死刑執行人の急所を突く。
死刑執行人は倒れた。
おお、何とミョウの一撃で倒しちゃったよ。
リメイク版だと中々こうはいかないんだけどね。
そのあとは、ルーナの範囲魔法で兵士をまとめて倒し、残ったタシオンは三人で集中攻撃して撃破。
第一段階は僕たちの勝利だ。
「ぐわあぁあああ」
タシオンが叫びながら倒れる。
「やったニャ?」
「まだです。あの人から黒い炎が出て来ます!」
「黒い炎? ボクには見えないけどニャ」
そう話していると、タシオンが立ち上がる。
「なっ!」
「姿が変わってるニャ!」
二人が驚くのも無理はない。
鎧はそのままだが、人間だった面影はなく、皮膚は黒くなり、瞳は黄色く光り口は大きく裂け牙が覗く醜い化け物になっていたのだ。
「よくも、美しい俺の顔に傷をつけたな! こうなればこの町の人間ごと、勇者どもを皆殺しにしてやる!」
本性を現したタシオンが闇魔法を唱える。
それは魔王か、その配下にしか扱えない魔法だった。
「死ねぇえええっ!勇者!」
タシオンが闇の塊を投げつける。
それは人間一人がスッポリ入ってしまうほどの大きさで、とても避けられるものではなかった。
「うおおおおおお!」
その時、勇者の前に立ち、闇魔法を防ぐ者が現れた。
「リムター!」
それは処刑される寸前にキョウ達に助けられたあの熱血騎士だ。
やっと、回復し動けるようになったので、近くに落ちていた剣と盾を拾い、闇魔法を受け止めていた。
「馬鹿な、俺の魔法が人間ごときに防げるものか!」
闇の塊が炸裂し、キョウ達は衝撃で目を閉じる。
瞼を開くと、そこにはボロボロになりながらも闇魔法を防いだリムターが立っていた。
「な、何だと! 俺の魔法を防いだのか!」
「タシオン。貴様の本気はこんなものか?」
「がああ! リムターに勇者ども!まとめて俺の闇魔法で消し飛ばしてやる!」
「キョウ。俺も戦うぞ。共にあの化け物を倒すんだ!」
第二回戦開始!
化け物タシオンは闇魔法を使う。もちろんそれは強力なのだが、こっちにも今回から加わった新たな仲間リムターがいる。
リムターは防御力が高く、仲間を守る特技、揺るがぬ盾を持っている。
これを使うことで、敵の攻撃を全て受け止めることが出来るのだ。
早速揺るがぬ盾を発動。
リムターは盾を構えて身構える。
化け物タシオンのターン。ルーナを狙って闇魔法を投げつけて来た。
リムターが身体を張って防ぐ。彼はダメージを受けたが、ルーナは無傷だ。
敵の攻撃はリムターが防いでくれるので、ルーナは彼の回復に専念させて、キョウとミョウで化け物タシオンを攻撃する。
ある程度ダメージを与えると、化け物タシオンは自分の身体を分裂させる。
二体の分裂タシオンは魔法は使わないが直接攻撃をして来る。
だが全ての攻撃はリムターが受け止める。
その間に化け物タシオン本体を攻撃。
そしてミョウが急所を突いた後のキョウの攻撃が決め手になった。
化け物タシオンは倒れ、分裂タシオンも倒れる。
勇者達の勝利だ。
「何ということだ。俺が負けるとは……」
「人間に化けた悪魔め覚悟!」
リムターが化け物タシオンにトドメを刺す。
「ギャアアァァアアア……魔王様お許しを……」
化け物タシオンはそう捨て台詞を残して消滅した。
「魔王がこの事件の黒幕か……!」
リムターは広場を後にしようとする。
「待ちなさいリムターどこへ行こうとするのですか?」
彼を引き止めたのはルーナだ。
「ルーナ様。助けて頂きありがとうございます。自分はこのまま王国に行きます。そして王に真実を問い質さないといけません!」
「そんなことをしても無駄です」
「何故ですかルーナ様!」
「ロワイ王国の兵士にまで魔王の手下が潜んでいるということは、十中八九、王も操られているのでしょう。
今、貴方が行っても殺されるだけです」
「……では自分はどうすればいいのですか」
「簡単な事です。勇者と共に行きましょう」
「彼と共に旅をせよと?」
「そうです。キョウはこの世界の希望。彼なら魔王も倒す事が出来るのです」
「…………」
ルーナの力強い言葉にリムターは言葉を失う。
「貴方の力を私たちに貸してくださいリムター」
「自分は騙されたとはいえ、貴女や勇者達に剣を向けてしまった。そんな自分が仲間になど……」
「おい熱血騎士」
煮え切らない態度をとるリムターに業を煮やしたのか、ミョウが口を挟む。
すでに猫耳と尻尾は隠している。
「そのでかい図体が役に立つのはどっちかよく考えろよ。
一人で王国に向かって死にに行くのか。それとも、勇者を守る盾として僕達の旅に同行するのかどっちかをね」
リムターは胸の前で拳を作る。
「分かりましたルーナ様。自分は我が身に変えて勇者キョウとその仲間達を守る盾となりましょう」
「ありがとうございますリムター。けれど死ぬ事は許しませんからね」
「心得ました。肝に命じておきます」
リムターはキョウの元へ。
「自分の名前はリムター。勇者キョウよ。お前を守る盾として自分を仲間に加えてくれ」
キョウは手を差し出し、リムターはその手を取る。
こうして新たに熱血騎士リムターが仲間になったのだった。
第2話 その7に続く。