第2話 その5
楽しくも恥ずかしかった勉強会を終えて、僕は午後からまたドラスト8の世界に飛び込んだ。
今は勇者キョウと、猫の耳と尻尾を持つ盗賊の少女ミョウとのふたり旅だ。
なぜか妹と同じ名前の仲間というのは気恥ずかしい。
名前を変えてみようと試行錯誤して見たけど、結局、全部無駄に終わっている。
とりあえず、先に進むことに決めた僕こと勇者のキョウは、ミョウの提案で仲間を集める事に。
仲間を求めて旅をしていると、リムターと名乗る王国騎士が追っ手として現れる。
二人は何とか逃げ延びる事に成功。
そして、ミョウが所属していた山賊のアジトへ立ち寄るも、何と勇者とミョウはお尋ね者として賞金が掛けられており、今度は山賊たちに襲われてしまう。
何とか、山賊の頭領アクニを撃破し逃げる事には成功したが、結局勇者と盗賊の二人パーティーのままだ。
そんな時、ミョウが話しかけてくる。
「なあ、お前は誰か味方になってくれそうな人いないのかよ。例えば、育ててくれた人とかいるんだろ?」
ゲームならではのヒントを言ってくれるミョウ。
勇者キョウにとって頼れるところは一つしかない。
そこへ向かう事にした。
久々に帰ってきたオイッタの屋敷は、前と同じようで変わりはなかった。
屋敷の中に入ると、使用人と共にルーナが出迎えてくれる。
「キョウ帰ってきたのね。お帰りなさい無事でよかった……ところでそちらの方は?」
「ボクはミョウ。捕まってるコイツを助けてやって、今は一緒に旅をしているところ」
「捕まった? キョウ。一体何があったんですか? 噂で聞いたのですが、お尋ね者になってしまったとか……」
キョウはルーナに今まで起きた事を話した。
「そんな……あなたのお父様がなぜそんな事を? とりあえず部屋で休んでください。ミョウさんもどうぞ」
「ありがと。こんなでっけー屋敷初めて入ったな。いいお宝ありそう……」
そんな盗賊らしい事を言いながらミョウは屋敷の中を歩いている。
ルーナに連れられて二人が部屋に向かっていると、部屋の一つから声が聞こえてきた。
「……ルーナ。誰か来たのかな?」
「お父様。起きているみたいね。二人ともお父様に会ってあげて」
ルーナは扉を開けて二人を招き入れる。
その部屋のベッドには、勇者を育て上げたオイッタが横になっていた。
旅に出た時と比べて、オイッタはとても弱っているように見えた。
「おお……キョウよ。久しぶりだな。そちらの方は恋人かな?」
「ち、違うよ! キョウとボクはそんな仲じゃない……ごにょごにょ」
必死に隠してつもりのようだが、勇者の事が好きなのバレバレだな
「……お父様。彼女はミョウさん。捕らえられていたキョウを助けてくれたそうです。決して恋人ではないです。ね? ミョウさん」
ルーナは身も凍るような目でミョウを睨みつけた。
「……はい。恋人ではないです」
「そうか。だが君は恩人には違いない。彼を助けてくれてありがとう……ゴホゴホ!」
「お父様! 大丈夫ですか? しっかり」
使用人が部屋に入ってきて、オイッタに薬を飲ませる。
何とか落ち着いたようで、オイッタは眠っているようだ。
キョウ達三人は部屋を出ていた。
「貴方が旅に出てから、お父様は突然倒れられたんです」
「治るの?」
ミョウの問いかけにルーナは首を横に振る。
「いえ。お父様はどうやら長い間病に侵されていたみたいで私に隠していたんです。
けれど貴方が旅に行った直後に倒れて……私も協力したいのですが……父の事を置いて行くわけにはいかないのです」
どうやらオイッタは不治の病に侵されているようだ。
「とりあえず二人とも部屋で休んでください」
キョウ達はルーナとオイッタの厚意に甘えて、空き部屋に一泊する事になった。
その夜の事。
キョウの部屋にノックをして入ってきたのはミョウだ。
「何だよその顔は……ハッ! 別にお前を襲いににきたわけじゃないからな!」
そんな事は僕も勇者も分かっています。
「コホン。この後どうする? ここにいても迷惑になるだけだと思うんだ」
ミョウはこの後どうするか相談する為に、勇者の部屋に来たみたい。
「ボクから見ても、ここの人たちは、とってもいい人だと思うんだよね。だから巻き込んじゃう前に、この屋敷を出た方がいいと思う。
だから今夜一晩泊まって、明日の朝二人に言って、出て行こうぜ?」
キョウは頷いた。
「よし! それで決まりな。そうと決まったら、早く寝ないとな。ここのベッドはフカフカで最高だから少しでも堪能しておかないと。
当分まともな寝床で寝れなくなるからな。じゃあ、おやすみ」
ミョウが部屋を出てキョウも目を閉じる。
ここしばらくは野宿で、いつ襲われるか気が気ではなかった。けど今は安心して眠れる。
そう思うと、キョウはすぐ夢の世界へ。
束の間の平和な夜が明けた。
「キョウ。起きろ!」
昨夜とは一転して、慌てた様子でノックもせずにミョウが入って来た。
「大変だ。王国の奴らに、ここの場所がバレたみたいだ! 屋敷が囲まれてる!」
ベッドから飛び起きたキョウは、ミョウの後を追って屋敷の玄関に行く。
そこには使用人やルーナの姿があった。
「あっキョウ。ミョウさん。どうやら二人を匿ってるのがバレてしまったみたいです! 」
いつもは落ち着いているルーナもこういう事態を受けて慌てふためいているようだ。
「ちょっと落ち着きなよ。ルーナが慌ててたら周りも不安になっちゃうよ」
ミョウがルーナを落ち着かせている。
そのおかげかルーナは少し冷静になれたようだ。
「ありがとうございますミョウさん。少し落ち着く事が出来ました」
「良かった。それで兵士達は何処に?」
「王国の兵士達は玄関の前にいます……」
「勇者を騙るキョウと盗賊のミョウに告げる!」
外からキョウ達のことを名指しする声が聞こえて来た。
屋敷を囲む兵士達の隊長のようだ。
「あれは! キョウあいつ、リムターとか言う奴だ。ここまで追って来たんだよ」
屋敷の外にいるリムターが声を張り上げる。
「今すぐその屋敷から出てこい! ルーナ様を人質に取るなど、人の道を踏み外した外道が!」
「なんかいつも以上に暑苦しいな」
ミョウの言った通り、リムターは熱血漢なのだが、今はさらに暑苦しさが増している。
「ルーナ様に傷ひとつ付けてみろ! 貴様らを八つ裂きにしてやる!」
このリムターという騎士はオイッタの弟子の一人で、ルーナの事を密かに想っている。
しかし本人は隠しているつもりでも、周りには全く隠せていなかった。
「ルーナ。あの熱血騎士と知り合いなの?」
「は、はい。リムターは悪い人ではないのですが、どうも周りが見えなくなるみたいで……」
リムターの身体は赤い炎が燃え上がっていた。
「どうするんだよ。キョウ……あっ!」
振り向いたミョウが驚いた声を上げる。
現れたのは、ルーナの父オイッタだった。
「お父様。動いては駄目です!」
オイッタは鎧を着ていて剣を腰に下げて、半ば引きずように歩いてくる。
止める使用人達を退けて、オイッタは外に出ようとする。それをルーナが前に立って止める。
「ゴホゴホ。どきなさい……ルーナ」
「何を言っているのですか? お父様。一人で行ってもどうにもなりません」
「病で弱ったワシに出来ることはこれしかないんだ。ルーナ」
オイッタはキョウの方を振り返る。
「キョウよ。ワシのわがままを聞いてくれないか。娘を連れてここから逃げてくれ」
「お父様!」
「ここにいるよりも、ルーナはお主と共に行動した方が良いのだ。頼む」
勇者は深く頷いた。
「うむ。娘を頼むぞ。ルーナよ」
「お父様。私はここから離れません」
「駄目だ。彼と一緒に行きなさい」
「けれどお父様を残して……」
「いいんだ。ワシがここまで生きてきたのはこの為だったんだ。さあ行きなさい。そしてお前の力で勇者を助けるのだ」
「……はいお父様。ルーナは勇者様と共に行きます。行きましょうキョウ」
使用人達は既に逃げ、残っていたキョウとミョウ。そしてルーナの三人も裏から脱出した。
三人の脱出を見送ったオイッタは外に出て、リムター達の前に立ちふさがる。
「貴方はオイッタ師匠!」
「追っ手が弟子のリムターだとはな。だがここは、ゴホゴホ。通さん」
「師匠。退いてください。貴方が匿っているのは勇者を騙る偽者なのです!」
「違うぞリムター。嘘を言って皆を騙しているのは国王の方だ。彼こそが本物の勇者なのだ!」
「国王が嘘を言っている? そんな訳あるはずが……」
迷うリムターに副官のタシオンが近づく。
「隊長。貴方は王の言うことより、こいつの言う事を信じるのですか? 」
「! そんな事は、王の命令は絶対……だ」
「ならば、さっさと偽勇者を追わなければなりません」
「分かっている。師匠、そこを退いてください!」
「勇者を追うと言うのなら、私を倒してからにするんだな!」
オイッタはそう言うが、彼が満足に戦えないのは誰の目にも明らかだった。
「師匠。その身体では戦えるはずがありません。お願いです退いてください」
「いいや退かんぞ」
その直後、タシオンがオイッタを斬る。
「し、師匠!」
オイッタはその場に崩れ落ちた。
「偽勇者に加担した者は私が成敗した。皆の者屋敷に入るぞ。偽勇者と盗賊を捕らえるのだ!」
「「「はっ!」」」
タシオンの命令を受けて、兵士たちが屋敷の中に踏み込む。
リムターは師匠の亡骸の前で立ち尽くしていた。
「隊長」
「……何故、何故斬ったのだ。師匠は戦える身体ではなかったのに……」
「しかし武装して我々に剣を向け、罪人を匿っていました。立派な重罪人です」
「貴様! だからと言って問答無用で殺すのか?」
「我々が追うのは、村を一つ滅ぼし、勇者の名を語る極悪人です。そいつに協力する奴は皆同罪です」
リムターはぐうの音もですに師匠の傍に膝をつく。
「貴方はもう隊長として、いえ王国の騎士としてふさわしくないようですね」
副官は兵士を呼んで、リムターを拘束してしまうのだった。
場面は逃げる勇者達が焚き火を囲んでいるところだ。
何とか逃げる事には成功したが、これからどうするか、誰も何も思いつかない。
「今は考えてもいい案は出なそうだし。夜も遅い。今日はもう寝ようよ」
ミョウの提案で、三人は横になる。
少しして、ルーナは起きて一人森の奥へ。
気づいたキョウは彼女の後を追う。
ルーナは森で一人佇んでいた。
「あっ。すいません起こしてしまいましたか?」
無口なキョウは何も言わずに、彼女の隣へ。
「どうしても眠れなくて。少し歩けば、眠くなるかなと思ったんですが、駄目みたいです」
ルーナが顔を上げる。
「見てくださいキョウ。星が綺麗ですよ」
空は満天の星空だった。
「そういえば、一度キョウと一緒に夜、屋敷を抜け出したこと覚えてます? その時、森の中で、同じ様に星を眺めてましたよね。
それで、帰ったらお父様に見つかってしまって……ふふ、すごい怒られたのを覚えています」
ルーナの目から涙が溢れる。
「すいません。泣いている時ではないのは分かっています。けど、ちょっとだけ、ちょっとでいいので側にいてください……」
ルーナが満足するまで、キョウは隣で座っていた。
その寄り添う二人を、ミョウは木の陰から、こっそり覗いていた。
「はあーボク何でこんな事してるんだろう。二人が何してたってボクには関係ない……関係ないはずなのにな……」
ミョウはそのまま、気づかれない様にキャンプに戻っていくのだった。
「キョウ。ミョウさん起きてください」
二人が目を覚ますと、そこには昨夜と違って、元気一杯なルーナの姿があった。
「今日はとてもいい天気ですよ。二人共、早く準備を済ませてください」
昨日の夜。いっぱい泣いた事で、気持ちの整理がついた様だ。
こうして魔法使いのルーナが仲間になった。
ルーナは打たれ弱い代わりに、攻撃、回復、補助の三種の魔法が使える。
なので、いかにルーナが倒されずに戦いを進められるかで、戦闘の難易度はかなり変わってくるのだ。
そして便利な魔法を使えるという性能以上に大事なのは、彼女がエンディングで、勇者と結婚する相手なのだ。
これはしっかり守らなければ!
そんなことを考えていたら、ミョウに釘を刺される。
「おいキョウ。ルーナが美人で見とれるのは分かるけど、ボクがいることも忘れないでよ」
ルーナの提案で、次の目的地は北にあるチューケーの町に決定した。
その為に、ここから西の街道を目指し、街道に出たら北に向かう。
のだが、僕は無料の回復地点であるキャンプがあることをいい事に、その周りをぐるぐる移動する。
目的はもちろんレベルアップの為だ。
この後のチューケーの町では、ボス戦が待っている。
その為に三人に経験値を稼がせていた。
先頭になったら、まずは動きの早いミョウが、砂で目潰ししたり、縄を使って相手の動きを遅くさせる。
次にルーナが補助魔法で、味方のステータスを上げて、キョウが攻撃して敵を倒す。
敵の数が多ければ、ルーナの攻撃魔法で一網打尽。
これを繰り返す事で、三人は順調にレベルアップ。
三人のレベルは二十を超えていた。
これで次のボスに負けることはなくなったはずだ。
キョウ達三人は、森を抜けて西の街道に出る。
するとイベントが発生。
まるで、タイミングを計っていたかの様に一台の荷馬車が南からやってきた。
「隠れよう」
ミョウの提案にルーナは食い下がる。
「待って下さい」
「忘れたの? ボク達お尋ね者だよ」
「あの人は悪い人には見えません。私に任せて下さい」
そう言って、ルーナは一人で街道に出てしまう。
「あっちょっと……何してるんだよ。あのお嬢様は……」
ルーナは真っ直ぐ荷馬車を操る御者の前へ。
キョウとミョウが固唾を飲んで見守る中、話を終えたらしいルーナがこっちに手を振る。
「どうやら大丈夫みたい。行こうキョウ」
二人も街道に出て、荷馬車の元へ。
「キョウ。こちらの親切な方がチューケーの町まで乗せて言ってくれるそうです」
「おう。三人共早く乗りな……ボウズ大丈夫だ役人に差し出したりなんかしないよ」
「だといいけど、あとボクはボウズじゃない!女だから!」
第2話 その6に続く。