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第2話 その4

一緒に脱出した盗賊の少女に身ぐるみ剥がされたところでセーブをした僕は、中断する事なくそのまま続けてドラスト8を進める事にした。

今日は、このまま夜更かしかな。

さてとゲーム画面では、森の中で縄を解こうともがくキョウがいた。

不幸中の幸いと言うべきか、縄はそこまで強く締まっていなかった。

何とか解いて、盗賊の少女を追いかける。

日は沈んであたりは闇に包まれている。

追いつくまでは敵が出てこないので、逃げた東の方角に向かって真っ直ぐキョウを進ませる。

しばらく進んだ時だった。

「きゃああああー」

悲鳴だ。キョウがその声がしたところに急ぐと、そこには一人の少女がいた。

あの盗賊の少女だ。

その目の前には巨大なモンスターが立っている。

「くっ。何でこんなところに、こんなデカイ奴がいるんだよ」

どうやら少女はモンスターと鉢合わせしてここまで逃げて来たが追いつかれてしまったようだ。

よく見ると猫のような耳と尻尾が生えている

「あっお前は……」

追いかけて来たキョウに気づいたようだ。

「お願いだ。助けて……助けてニャ!」

アレ? リメイク版ではここで選択肢が出る筈だけど出ないな。それにちょっとセリフも違うような? まあいいか。

巨大モンスターが少女に迫り、キョウもまた少女の方に駆ける。

「これを使って!」

少女が剣と盾を投げる。元々キョウの持ち物なんだけどね。

それを装備して、少女を守るようにモンスターの前に立つ。

そこで戦闘開始。


現れたのはボスモンスターのトロルだ。

灰色の皮膚に、間抜けそうな顔。動きも遅いが、注意しなければいけないのはその力だ。

手に持つ棍棒から繰り出される一撃は当たりどころが悪いと一撃でやられてしまう。

しばらくは勇者一人でこいつと戦う。

もし急所に当たったらゲームオーバーなので、まずは防御を選択。

そうすればトロルの攻撃が急所に当たる事はない。

トロルが棍棒を振り下ろす。

盾でガード。ダメージを受けたが、まだまだ余裕だ。

僕はそのまま、キョウを防御状態に維持させる。

トロルの攻撃。ミス。

こっちのターンだ。

「キョウ。ボクも手伝うニャ!」

なんと盗賊の少女が加勢してくれるようだ。

少女は防御力が低いが高い素早さのおかげで、トロルの攻撃は当たらない。

まず、彼女の特技である砂かけを選択した。

トロルの目に砂が入り、命中率ダウン。

ただでさえ低いやつの命中率が下がり、これでようやく反撃できる。

僕はキョウの防御を解いて攻撃。

トロルも攻撃してくるが、全て外れだ。

このままキョウは攻撃させて、盗賊の少女には絡め縄で動きを遅くし、命中率が回復したら、すぐさま砂かけを繰り返す。

そしてキョウの十回目の攻撃がヒットしてトロルは倒れた。

二人はお金と経験値を手に入れて、レベルアップ。


トロルを倒した二人は焚き火を囲んでいた。

そこで盗賊の少女が口を開く。いつの間にか耳と尻尾は引っ込んでいた。

「あ、ありがとな。ボクの事を助けてくれて……」

少女は話し続ける。

「なあ、何でボクの事助けてくれたんだ? お前のこと騙して、装備も盗んだのに……おいダンマリかよ!」

こういう時でも勇者は無口のようだ。

「まあいいや。ボクも手伝ってやるよ。危険なのは知ってるよ。

王国を敵に回すんだろ? そりゃかなり危険だろうけど、王国にあるお宝が手に入るかもしれないじゃん。

それをもらってたっぷり儲けさせてもらうよ」

少女はそう言って横になる。

「……そうだ。ボクの名前言ってなかった……」

まあ、リメイク版をプレイした僕はもう知っている。

彼女は、ルクレア族で名前はルクス……。

「ボクはルクレア族のミョウっていうんだ」

ミョウ! 僕はその名を聞いて驚いた。

あれ? ルクスじゃなかったっけ? それにミョウって妹と同じ名前だ。

よく見るとドット絵も黒髪のショートカットで何処と無く似てる気がする。唯の偶然だろうか?

そんなことを思っていると、まだまだミョウの話は続く。

「さっき見たと思うけど、ボク達ルクレア族は大人になると、猫みたいな耳と尻尾が生えるんだ」

そうこのゲームに出てくるルクレア族は、猫の耳と尻尾を持つ種族だ。

いつもは彼女達が唯一覚える変身魔法で、姿を人間に変えているけど、それが解けると、さっきのように耳と尻尾が出てきて語尾にニャがつくようになる。

この姿が可愛いんだけど、本人達は恥ずかしいのか、隠したいみたい。

「ボク達が生きていくためには、人間の姿と同じ方がいいのさ」

ルクレア族は人里離れたところに暮らしていることが多く、なかなか人前に姿を現さない。

というよりも、実際は会った事あるんだろうけど、魔法で姿を変えているから、分からないのだ。

「じゃあおやすみ。キョウ。ボクが女の子だからって襲うなよ。後悔するからな?」

そんな物騒なことを言って、盗賊の少女ミョウは眠りにつく。

勇者キョウも眠ったところで、僕はセーブをしてゲームを終了。

じゃあ、僕も寝ようかな……なんて寝れるか!

僕はスマホを起動してネットでドラスト8の事を検索。

盗賊の少女の事を調べるが、名前はオリジナル版もリメイク版も、僕も知っているルクスだ。

何で僕がプレイしているゲームだけ、妹と同じ名前なんだ。

夜更かしで、上手く働かない頭を何とか回転させながら検索していくが、何も引っかからない。

「駄目だ。何も分からないや」

気づけば、窓の外は明るくなっていた。夜が明けていたのだ。

僕はそのままベッドに倒れこんで、夢も見ないで眠る。

起きたら、おやつの時間になっていた。


僕は起きてすぐに、再びネットでドラスト8を検索していた。

けど、何で盗賊の少女の名前が変更になっているのか今だに分からなかった。

「うーん。名前変更機能でもあるのかな。それで父さんが変えたとか……そんな訳ないか」

父さんのデータならともかく、今やってるのは最初から始めた僕のデータだ。

何で僕のデータの名前まで変更になってるのか説明がつかない。

僕は何気なくパッケージを眺める。

何か、書いてあるかと思ったが何も見つからない。

「ん? そういえば……」

パッケージを見ていてあることに気づいた。そうタイトルだ。

今、僕がやっているドラッヘストーリー8は世界で八名しか持ってないと言われているスペシャル版だ。

僕はネットでドラスト8スペシャル版と入力する。

「出てきた……」

やっとスペシャル版の情報が現れた。

調べると、父さんが言っていた通りに、抽選で八名にしか当たらなかったスペシャル版らしい。

しかし肝心の内容のことはどこにも書いてない。

持ってる人が少なすぎて情報がないのだ。

結局、何も分からないまま、その日は終わってしまった。


次の日。今日も起きてすぐゲーム。とはいかないんだな。これが。

「強介さん。どうです? 問題解けそうですか?」

今僕は、午前中いっぱいを使って夏休みの宿題を消化していた。

いつもなら絶対やらないんだけど、今年は撫子さんもいるので、一緒にやることになったのだ。

「強介さん。聞こえていますか?」

「うん聞こえているよ」

「良かった。返事がないから唯のしかばねかと思いましたよ」

撫子さんはそんな有名RPGのネタでボケてくる。

「ははは。まだ生きてるよ」

実際は、自力で問題を解こうとして、頭をフル回転させたら、オーバーヒートしてドロドロに解ける寸前だった。

まさしく、しかばねになる寸前かな。

「良かったまだ生きてるみたいですね。どの問題が解けないのですか?」

「これなんだけど……」

僕は撫子さんに自分が解けない問題を見せる。

「ちょっと借りますね……んーと」

撫子さんはシャーペンを唇に当てて考えている。

僕の彼女はそんな仕草も可愛いな。

「何ですか。ジロジロ見て」

「な、何でもない」

見つめていた事を指摘されて、僕は慌てて視線をそらして話題もそらす。

「問題解けた?」

「ふふ。はい解けましたよ」

「えっ、もう解けたの?」

一時間悩んでも答えが出なかったのに撫子さんは数分で解いてしまったようだ。

「はい。ここをこうして……その後こうすればいいんです」

「はー、なるほど……」

撫子さんの分かりやすい解説に僕は唯々納得するしかなかった。

「撫子さんが先生やってくれればいいのにな。そしたら成績も今よりもっと良くなると思うんだけどな」

「んーそうですね。やっぱり遠慮しておきます」

「何で?」

撫子さんは僕の耳元に顔を寄せる。

彼女の髪からいい香りが僕の鼻をくすぐった。

「だって、他の生徒の人たちを無視して、大好きな強介さんだけを贔屓してしまいますから」

そんな事を言われてしまったら僕の顔はゆでダコみたいに真っ赤になってしまう。

撫子さんは余裕たっぷりに笑って僕を見ている。

僕も何か言わないと!

「やっぱり撫子さんは先生にならなくていいよ」

「? 何でですか?」

「大好きな人を独り占めしたいから。他の人には触れさせない!」

それを聞いた撫子さん。顔が真っ赤だ。

「そんなこと言われて恥ずかしいですけど……とても嬉しいです」

赤くなった顔を伏せて、手をモジモジさせる撫子さん。

僕も自分の言ったことで、また恥ずかしくなってリビングで二人モジモジしていた。

「二人のラブラブでリビングの気温が上がってるわ。羨ましいわね〜」

「「わっ!」」

その声で僕と撫子さんは我に帰る。

声の主は母さんだ。

「あらあら。お邪魔だったかしら?」

「そんな事ないよ母さん。そろそろ終わりにしようか?」

「は、はい。片付けますね」

僕と撫子さんは慌ててテーブルからいろんなものを落としながら片付けて部屋に戻った。


第2話 その5に続く。

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