第2話 その3
主人公の悲劇を見てからセーブをして一度中断した僕は、夕飯を食べて寝る準備をしてからゲームを再開した。
勇者キョウを助けてくれた老騎士の名前はオイッタという。
彼の家でキョウは成長し、剣技などを習う。
そこでキョウは魔法の才能があることも判明。
オイッタの厳しくも有意義な訓練のおかげでキョウはメキメキと腕を上げていく。
主人公が強くなる目的はもちろん一つ。村を襲った犯人を捜すためだ。
老騎士オイッタに助けられ、彼の元で修行して十年後が経ち、キョウも十六歳になっていた。
屋敷の前で彼はオイッタとその娘に見送られている。
「お前はこの十年でとても強くなった。しかし油断してはいけないよ」
オイッタの隣の少女もキョウに話しかけて来た。
「キョウ。無理しないで。いつでもここに帰って来ていいからね」
彼女はオイッタの娘である青いロングヘアを持つルーナ。
彼女の事は僕も知っている。後々仲間になるヒロインの一人だ。
優秀な魔法使いで、キョウに魔法を教えたのも彼女だ。
「ちょっとぐらいなら大丈夫とか思わずに、怪我したらすぐ回復魔法使ってね」
リメイク版と同じくルーナはすごい心配性だ。
まあ、それだけ主人公であるキョウの事を思っての事なんだけど。
キョウは二人に見送られて、王国に向かう旅に出た。
敵を倒しながら王国へ続く森に差し掛かるキョウ。
敵は弱いから大した事はないから無視してもいいんだけど、僕はここで敵と戦いまくっていた。
レベルアップさせてキョウの能力を上げるためである。
序盤は強い敵は出てこないので、無視してもいいのだが、レベルが10以下の時は少ない経験値でレベルアップできるというボーナスが付いている。
それを利用して、後々(あとあと)楽になる様に僕はレベルを上げ続けていた。
戦闘はコマンド選択型のオーソドックスなものだ。
今はおもちゃのスライムのような敵と戦っている。
僕が「こうげき」コマンドを選択すると、キョウが持っている剣で攻撃しスライムを撃破した。
お金と経験値をもらってレベルアップ。
ダメージを受けて死にそうになったら、急いでオイッタの屋敷に戻りベッドで寝て全回復。そしてまた戦闘を繰り返す。
僕はレベルが10になったところで満足し、キョウを王国の城下町に向かわせた。
武器屋で武器と防具を買い揃え、それを装備してから城の中へ。
お城では皆から歓迎されて玉座の間に通される。
そこには玉座に鎮座する王と、彼を守る兵士たちが脇を固めていた。
王が口を開く。
「お主はあの村の生き残りだそうだな。何用でここまで来たのだ?」
キョウは自分の村を襲った犯人を探して、ここまで来た事を告げる。
「それは大変だったな。その犯人探し。ワシも力を貸そうぞ」
そう言うと、王は兵たちを下がらせ、代わりに奥から一人の男性が現れた。
彼は背中に剣を背負っていて、どうやら戦士のようだ。
何と、キョウの父であるハウザーが現れたのだ。
「王よ。お呼びですか?」
「ハウザーよ。この者を知っておるか?」
「ん? この若者は……貴様か勇者を騙る偽者は!」
近づいて来たハウザーは、いきなりキョウに剣を突きつける。
ハウザーは目の前にいるのが息子だとは分からないらしい。
「偽者よ。よくも私の村を滅ぼし、家族を殺してくれたな。許さんぞ!」
父に剣を向けられて動くこともできず、キョウは捕らえられてしまった。
捕まってしまったキョウは、村を滅ぼした罪人として牢屋にぶち込まれていた。
地下牢には多数の牢獄があるが、ほとんどは人間の骨みたいなのが散らばっている。
けどキョウの目の前の牢には、まだ生きている人がいた。
「おい、おい。お前起きてるんだろ?」
誰かが話しかけてくる。どうやら牢屋の向こう側からのようだ。
鉄格子に近づくと、向かい側の牢にいる人がこっちを見ていた。
黒髪でショートカットの少女のようだ。
「お前。何したんだよ。ボクと同じく盗みをしくじったのか?」
どうやら少女は盗賊らしい。
キョウは自分が濡れ衣で、捕らえられてしまった事を話した。
「なるほど。そりゃ災難だったね……そうだ。お前。剣の扱いはうまいか?」
ここで、「はい」「いいえ」 の選択肢が出たので、僕は「はい」を選択する前に「いいえ」を選択してみた。
「じゃあ、一生ここで暮らせばいいじゃん? せっかく脱出できるかもしれないのになー。まっ、気が変わったら話しかけてくれ」
この少女はどうやら、キョウを利用しようと考えてるみたい。
そう分かっていても、脱出するには「はい」を選択するしかないので僕は素直に「はい」を選択した。
「素直にそう言えよ。脱出方法を教える前にこの扉の鍵を外すから」
そう言って少女は床に倒れこむ。直後に看守役の兵士がやって来た。
どうやら食事を持って来たようだ。
「飯だぞ……おいどうした?」
看守が倒れている少女に気づく。
「おい。仮病は止めろ……本当に苦しいのか?」
どうやら看守は少女が本当に苦しんでいると思ったみたいで鍵を開けて中に入る。
かなりのお人好しだな。
そのお人好しの看守は倒れてうずくまり、こちらに背中を向けている少女に近づく。
「おい……ぐっ」
いきなり看守が倒れる。どうやら少女が看守を気絶させたようだ。
「ふん。どんな男も弱点を突けば雑魚同然だな」
一体どこを突いたのか、何となくわかるけど、考えないでおこう。
少女は、奪った鍵で僕の牢の扉も開けてくれる。
「よし。ここから地下水路に下りるぞ。その前にボク達の装備を取り戻そう」
キョウと少女は自分の武器を取り戻した。
キョウには剣と盾を、少女には短剣を装備させる。
準備完了した二人は地下水路に下りていく。
地下水路に下りると、盗賊の少女が話しかけてくる。
「ここにはモンスターがウヨウヨいるんだ。そこでお前の出番だ。ボクが道案内するから、お前は戦闘になったら役に立ってもらうからな!」
つまりこの少女はキョウを盾にしたいみたい。
「何だよ文句あるのか……無いなら行くぞ」
ここで文句を言っても話は進まない。
少女が先に行くので、僕はキョウを操作して後をつけて行く。
すると早速モンスターが現れて戦闘開始。
少女も参加するが、短剣では中々ダメージを与えられない。
だがそれは分かっていたので、レベルを上げていい装備を持っているキョウでバッサバッサと敵を倒して行く。
盗賊の少女はダメージを与えるよりも、特技である絡め縄をメインで使う。
これは相手の素早さを下げる技だ。
これで相手の行動順を遅くして、攻撃される前にキョウがトドメを刺す。
このパターンを使う事で、難なく地下水路を脱出した。
地下水路を脱出するとそこは王国の南に広がる森。
つまり僕がレベルアップで使っていた所だった。
「無事に脱出出来たな。サンキュー……そういえば名前聞いてなかったな」
キョウは盗賊の少女に自分の名前を名乗る。
「キョウか……? どこかで聞いたような……?」
少女は初対面の筈なのに、キョウの事を知っているようだ。
「……まあいいや。キョウ、サンキューな。助かったぜ……ん? ボクの名前? ああ、ごめん言ってなかったな……」
盗賊の少女はそこで言葉を区切り、キョウから数歩離れる。
「ボクの名前は……教えないよ!」
少女はいきなり特技の絡め縄を発動。キョウの両足に縄が絡みついて転んでしまう。
「へへっ、もーらい」
何と盗賊の少女はキョウの持ち物全てを奪った!
「悪いね。当面の宿代にさせてもらうよ。じゃあね。お人好しのキョウ」
少女はそう言い残してその場を去る。
リメイク版でも同じイベントがあったけど、やっぱりこれは怒りがこみ上げてくるよね。
もちろんこの後、彼女はそのバチが当たるんだけどね。
第2話 その4に続く。