3話 情報開示
2017/01/22 改稿しました
この木が言うにはどうやらここは異世界で、俺たちが暮らしていた世界ではないらしい。
とはいえそれを信用できるかといえばそういうわけでもない。
さすがに突拍子もなさすぎる。
「まさか、そういうことだったの。でも、それぐらいしかないわよね」
へ!?
そこで納得するのか鈴音さん!?
「なんで信用するんだ。異世界に召喚だぞ。さすがに突拍子もなさすぎるだろ?」
「それがね。あたしの体もなんか変なのよ。妙に軽いというかふわふわするというか」
「ダイエット大成功おめでとうございます」
「違うわよ!!大体体重にも別に悩んでないわよ!!」
「なに?あんたダイエットなんてしてたの?」
トレスが煽ってきた。
「あんたは黙ってなさい!!別に、ダイエットなんてするほど太ってないわよ!」
「おやおや、ほんとかしらね。ぷぷぷぷぷ。」
「…………」
あ。そろそろやばい。
鈴音が真っ赤な顔してこっちを睨んできた。
止めないとこっちにも跳んでくる。
「ああ。別に太ったりなんかはしてなかったな」
「あんたも、何であたしの体のこと知ってんのよ!!なに!覗いてたの!?」
「覗かねえよ。おまえなんざ家で何回見てんだっていう話だ。それより本題に戻ろうぜ」
「そもそも、あんたがダイエットとか言い出さなかったらこんなことになってないのよ!」
「ああ、すまんかった」
取り敢えず謝っておく。
そして、鈴音はため息を一つついて、話し始めた。
「体が軽く感じるって言ってもなんだろ、こう体があるのにないみたいな、そういう感じ」
まったくわかりません。体があるのにない?
何の謎かけだ?それ。
『その感覚は間違いないじゃろ。スズネさん。なんせ、精霊の体なぞ、人間とは違うものじゃからな。』
は?
今、なんていった?
「おい、精霊って何の話だ?」
『おっと、失礼したの。段取りを間違えて喋ってしまった。とりあえずここは異世界で、お主らは儂らに召喚されたということじゃ。ここが異世界であるという証拠は何より、そこなスズネさんがわかっとるじゃろ?のう?儂らの召喚魔法に割り込んだ少女よ』
「鈴音が割り込んだ?」
何を言っている。鈴音が何かを知っているのか?
「鈴音。何か知っているのか?」
「なにが割り込んだよ。まきこまれたのよ。あたしは。」
まきこまれた?どういうことだ。
『儂らは本来、アカセユーリ、お主だけを召喚するつもりじゃった。いや、これも語弊があるのう。一人だけ召喚するつもりじゃった。まあ、誰でもよかったんじゃがの。じゃから人間の体を構築する魔法を準備し、精神が召喚されたときにお主の元の体そっくりの体を生成する準備は整っておった。だがの、この召喚魔法、どうやら少し召喚範囲が曖昧なところがあったらしくての。近くにおったスズネさんまで一緒に召喚されてしまった。ということがあったのじゃよ。』
「それは何の説明だ?そちらの事情の説明は求めてないのだが」
『まあ、話は最後まで聞くものだぞ。フィーアやトレスが言ったトラブルとはスズネさんが召喚されたことじゃ。そのトラブルによって何が起きたのかが大事なのじゃよ。』
トラブルによって起きてしまったこと?
まて、思い出せ。
一人だけを召喚する魔法。
二人の精神が召喚された。
「まさか……!」
『お?感づいたようじゃの。そのとおりじゃよ。』
待て待て待て待て!まさか!!
『儂らはそもそも一人の体しか用意しておらんかったのじゃ。ところが、突然精神が二つも召喚されてしまった』
――予定外の精神の召喚による体の不足
『つまり、儂らは急きょ、もう一つ体を作らねばならなくなった。さらに言うとな、儂らは人間を召喚するのは初めてじゃった。つまり、人間の体を作るのは初めてじゃ。そんな急にもう一人の体なぞ作れるわけもない。そこで儂らは、自分たちの体と同じ物を作ることにした。』
自分たちと同じ体って!
『そう儂らは人間じゃない。精霊といわれておるものじゃ。つまり、スズネさんの体は精霊ということじゃよ。』
「鈴音が人間じゃなくなった……だと!」
『申し訳ないが、この話はまだ続くのじゃよ。精霊の体というのもそんなに簡単にホイホイ作れるような代物でもない。どうしても霊核というものが必要になる。そのうえ、元人間じゃからサイズも人間に合わせる必要があった。フィーアやトレスなんかは霊核は一つなんじゃが、体のサイズの都合上、霊核を三つも使わなくてはならなくなった。ただ、霊核三つも準備できておるわけもない』
おいおいおいおい。
でも、現実に鈴音は体を持った状態でここにいる。
ということは、その霊核の調達はできたということになる。
――なら、それはどこから?
『ここでユーリさんの体調不良に繋がるわけじゃ。悪いがお前さんの体の一部を鈴音さんの霊格に使わせてもらったよ。なに、その立てないとかいうことに関してはすぐに立って、普通に歩けるようになるじゃろ』
「ま……まちなさいよ……」
鈴音をみると、顔が真っ青だった。
今の話をきく限り、要するに俺の臓器やらなんやらを使って鈴音の体を作ったということになる。
鈴音は誰かに自分の重荷を背負わせることをすごく嫌がる。
この状況なら鈴音を追い込むのに充分すぎる!
「あんたたち、祐理の何をあたしの体にした!!」
鈴音の目から涙が零れ落ちる。
『なに、体の筋肉やら心臓やらあちこちから少しずつ取らせてもらったよ。そして、不足した部分を精霊の体で補わせてもらった』
まあ、そうだろうな。
うすうす勘付いてはいた。
つまり俺は、
『お主らの考えてる通りじゃよ。ユーリさんもまともな人間の体じゃない。精霊混じりの半人半霊というやつじゃの』
半人半霊ときた。
「……それで、半人半霊になったことの問題点を教えろ」
『半人半霊の体をもう受け入れたというのか?』
「半人半霊かどうかなんてどうだっていい。そんなことよりそれによる弊害を教えろ」
『もう少し面白い反応を期待しとったのじゃがな……。つまらんのぅ。簡単なことじゃよ、ユーリの体は長くはもたんのじゃよ。人間の体を騙しながら精霊の体で補っておる状態じゃからの。いつかガタがくる。保って一日というところかの』
は……?
今、ひょっとして余命一日といわれた?
いやいやいやいやいや!!
そんなバカなことがあってたまるか!!
「ノル!!どういうことだ!!!!」
「なんでそんなことを!!!」
俺と鈴音が同時に激昂した
『安心せい。儂らもしっかりとそこは対処法を用意した。』
「なんだと?」
『さすがに召喚して早々に死なれても困るしの。』
「それで、その対処法っていうのは何よ?」
『簡単なことじゃよ。スズネさんがユーリさんの体に触れればよい。それだけじゃ。ちなみに、接触面積が増えれば増えるほど効果は高まるぞ』
「触れるだけでいいのか?」
『ああ、ただし素肌と素肌である必要があるがの。つまり、服などの布があると効果はでらんから注意は必要ということじゃ。』
つまり、俺は、まだ死なないのか。
安堵ともに少し落ち着いた。
さすがに死なないということがわかればまだそれでいい。
しかし、ここまで話をきいてどうしても聞いておかなければならないことがある。
「なあ、ノルさん。なんで俺たちを召喚した?」
『なぜ?とはどういうことかの?』
「そもそも、一人余分に巻き込まれただけでこんなトラブルだらけの欠陥方法の召喚だぞ。下手したら俺たち二人とも死んでいる。それに、召喚魔法なんて、そんなやすやすできるもんなのか?」
『まさか。そんなに簡単なものではないぞ』
「それなら、俺たちを召喚したことに何か目的があったんじゃないか?」
『なるほど。召喚の目的か。強いて挙げるのであれば、暇つぶしかの』
「「は?」」
俺と鈴音の声が重なる。
暇つぶしだと?
自分たちが存続のピンチとかでもなんでもなく、
ただの暇つぶし?
「暇つぶしってどういうことだ」
『暇つぶしは暇つぶしじゃよ。それ以上でも以下でもない。いかんせん儂ら色々制約があってこの近辺から出られんでの。あほみたいに暇してたんじゃよ』
おいおいおい
ただの暇つぶしで俺はこんな体にされた挙句、鈴音もこんなことにされたってのか。
さすがに、許せねえぞ。おい。
「それじゃ、俺たちは元の世界にも帰れず、こんなところでお前達のおもちゃになれってのか!!」
『安心せよ、この森を出て行って貰う。その後は何をしても自由じゃ。』
「あん?」
訳がわからない。
わざわざ召喚したのにそいつを野放しにするのか?
それとも、召喚という行為自体が暇潰しだとでも言うのか?
『お主らがこの世界で右往左往するのを楽しませて貰うよ』
なるほどなるほど。
こりゃまたひどい。
俺達を観察して楽しむと。
要するに俺達はかごの中の動物か。
しかも、ちゃんと飼育する気の無い。
ここまで酷いと逆に落ち着いてくるというものだ。
『ちなみに、ここに戻ることは許さぬ。いや、戻れぬものと考えよ』
戻って来られたら暇つぶしにもならない。
そういうことか。
『儂からは以上じゃ。何か聞きたいことはあるかの?』
そりゃ、ある。
「そもそもここはどういう世界だよ。人間とかはいるのか?」
『人間はいる』
…
……
………終わり!?
この近辺にどういう町があるとか国があるとか、
通貨はどうだとか、こういう動物がいて危険だとか、
こう、あるだろ!!
人間の存在の有無だけを聞いたわけじゃねえよ
『儂、言うたじゃろ?』
は?
『主らを召喚したのは暇つぶしじゃと』
「言ったが……」
『そんなにたくさん教えたら、儂らの暇つぶしにならんじゃろ』
なるほどなるほど。
OK OK。
つまりは、あれか。
俺らが全く情報の無い世界で右往左往する姿をみて楽しもう。
そういうことか。
ということは
「俺らに特殊な能力とか、道具とか、魔法なんかは」
『無い。強いて挙げるならば、その体くらいかの』
やっぱりかよ。
『どうやら儂のスタンスが分かってきたようじゃな。これ以上の問答は無用。さらばじゃ、諸君。せいぜい儂らを楽しませて見せよ』
「ちょっと、待て!」
木を中心に辺りが発光している!
さっきの転移魔法か!
しかし、無情にも彼らは白い光に包まれた