幻影使い
幻影使いとかいてイリュージョニストとよむ。
二つ名って呼ぶのはいいけど呼ばれると地面をローリングしたくなる。
「……アディル。まだ気を抜かないでください」
「え?」
「尾けられてま——振り返らないで!」
「ぅあい!?」
全く、なんとも世話の焼ける……。
アニメでは何度かこんな場面見たけど、結構やるもんなんだね。
「そういうわけで、後ろの人をどうにかして倒します」
「な、なんで気づいたの?」
「オケアニスさんがあの蜃気楼っぽいものを自力で使っていたというのは、おかしい……と思います」
オケアニスがもし自分であれを使っていたとしたら、剣尖をずらすなりなんなり色々とやりようがあっただろう。それをしなかったのは変だ。
いくら正々堂々といっても、相手が値せば自分の持てる力を引っ張り出して戦うのが武道における礼儀。それをあの人が実行しないわけがない。
そして、さらに言えば、水魔法と火魔法を同時に使っている可能性がある。この辺りに暑いダンジョンだの火山だのはなく、火魔法を使うものもいない。
蜃気楼をスキルとして獲得するには、いささかポイントを使いすぎであるというのがわかりやすいだろう。
私は低ポイントを使ってステータスに割り振ったが、他の人はその傾向が顕著だということだ。
あちこち動き回るのにスタミナその他がなければ、全くもって使い物にならないからだ。
ゲーマーの体力おそるべし。
ちなみにアディルは戦った後全力で逃げるが、疲労困憊も甚だしいという。しばらくは立てないそうだ。
以上から、尾けている相手は幻影使いだと見て間違いない。二つ名的に『幻影使い』とでも呼んでやろう。
恥ずかしさに悶えてしまえ。
はーそれにしても敬語疲れる。でもさすがにタメ口はな……いや、おふくろさんとか最初の口調からそのままだったわ。今更変えられないからそのままだけど、あれ良いのかなあ?
「と、いうわけです」
ざっと説明したのにアディルが納得顔で頷いた。
「だからだったんだね。ええと、それじゃあ僕はこれからどうすべきかな……」
「まずは、一時間くらいは油断したふりをしましょう。相手は確実に日和るか襲うかしてくるはず」
「相手が逃げる……というのは?」
「勝てないとわかった時点で、相手が即戦線離脱すると思う……ので、私が指示した方向にアディルがブッパしてください」
「ふんふん……ってえむもごぉ!?」
だから叫ばないでってば。手の下でもごもご聞こえてくる。
「ぷはぁ!って、どういうこと?肉弾戦なら明らかに君の方が、」
「あの、攻撃におけるSTRの貢献度ってかなり高いのわかってますよね?」
「?うん。一応」
「私の基礎ステータスのSTRはゼロかつ拾い物の武器のSTR付加値はゴミめという状態なので、普通に先輩が一発ぶっ放した方が強いですけど」
ちなみに、私が素手で倒すことができるのはこの先存在しないと見ていいだろう。地力でなんとかできたうさぎや蛇と違って、私のゼロ筋力じゃどうにもならない相手も出てくるだろう。
「……えっ」
どうやら先輩は、私が現実でもひ弱だと勘違いしていたらしいのだ。
ど、どう見てもゴリゴリの肉体言語派だぞ!?平均から少し外れただけでそのうがった見方はなんだ!
吠えるぞ!?
うガーーーー!
「……すいません取り乱しました」
「あ、いや、僕も勘違いしていたから。そっか、うん。……親が武道家に格闘専門家か。すごいね」
「私はすごくないですよ。すごいのは、両親です」
「い、いや。一般人からしたら、そう大した差もないよ。僕なんて、ゲームで反射神経鍛えただけの、回避専門だから……」
それは十分すごいと突っ込んで欲しいのか?
「あ、あの、それは先輩も十分すごいと思いますよ。しかも、VRのことすごくよく知ってるじゃないですか?」
「え、あ、うん、そう?えへへ」
ゆったり流れる時間の中、不意に、私は殺気を感じた。
「アディル、175度方向!」
「ふっ!?」
アディルはその反射で言われた場所を撃ち抜く。さすがミリタリな格好だけあって、言い方が通じたか?
レーザーのような光が飛んでいく。いや、属性から言って……雷?
着弾地点から悲鳴と、そしてバリバリィ!という音、そしてオゾンの生臭い匂いがあとに漂った。
「……リアルだね」
そうアディルが呟いた時、砂埃漂う地面に何か落ちているのに気づいた。
私は目を凝らす。
誰かの、『腕』。
「っ、まだ、終わってない!?」
アディルの正面には、剣を持って突っ込んでくる少年が一人。
エルフだ。
そして、その名前は……。
「はぁっ!?」
私は思わず目を剥きかけたが、今はアディル優先だ。エストックなので、攻撃部位以外には刃がなく、当たり判定は小さそうだ。
魔法がうまく発動できていないようで、ところどころその体は不安定に揺れる。
片腕がないのによくバランスを崩さないものだと私は感動を覚えつつ、その突き出されるエストックを余裕を持って避け、そしてその顎にラリアットをかました。
「くぺっ!?」
なかなかいい。ちょっとテンションが急上昇している。本当に、この手錠さえなければなんとかしたんだけどね。
エルフのHPは半分以上消えていた。
片腕で首を絞め上げながら、恨めしげなエルフの少年に目を向ける。
いやいや、まさかこんな名前だとは思わなかった。
「い、いてて…今のでHPが三分の一減っちゃったよ……」
アディルさんそれ紙装甲にもほどがない?
迎撃のために柔らかい砂地に体を二、三回叩きつけただけのことだよ?
まぁ仕方ないか。
アディルだし。
「お、おぉぅ、ぐふ、」
「あ、暴れないで……上手く絞まっちゃうから」
「かぺっ……」
あーあー言わんこっちゃない。だから苦しいくらいにしてあったのに、暴れるからいけないんだぞ。
私は首元にナイフを固定した。締め上げていた腕を話すと、ゼイゼイと肩で息をする彼。
「それで、『シスコーン』くん何か言い訳をしてくれるかな」
アディルがシスコーンくんの頭上を見て、大きく吹き出した。名前見たのかー。
「あひっ、ひひぃ、ぐふぅ」
……大笑いしていいからとりあえずその気持ち悪い笑い方はやめようぜ兄弟。
「…フゥー、フゥー……。そ、それでその、やっぱりさっきのオケアニスさんがシスターげふっ、ぐふふふふ」
なんかいかがわしいこと考えてるようにしか見えないからいっそ普通に笑え。
「な、なんだよ。姉さんが俺につけてくれた名前だぞ。笑うなよ」
……おふぅ。
どうやらシスコーン少年は普通にシスコンだった……ではなくて、お姉さんのオケアニスさんにだまくらかされたらしい。
災難である。
というか、普通にシスコンだよね?他の人に指摘されたことってないんだろうか。
「ぐふ、ぐふぐふ…はぁ、はぁっ……いひぃ」
そろそろ、落ち着こうぜ?
シスコーン君は普通に私たちに降参した。どうやら姉が楽しんでいたらしいと私たちから聞いて、心づもりを変えたという。
「姉さんは、剣術道場の師範で、そこで勤務しているので、なかなか好敵手がいないんです」
なんということだ。
そんなことだったらいつでも呼んで欲しい。普通に木刀持って日本全国津々浦々どこまでも行ってあげよう。きっとトラウマにしてみせる。
「というわけなので、さっさと殺してください。あなたたちの言葉が嘘だとわかったら、速攻でPKしに行きますから」
あっ、なんか既視感ある。
うん……これテーナーだわ。
テーナーも結構鷹揚だけど、私の事になると途端に頑固になる。私は一つため息をついて、「オケアニスさんによろしく」と言ってさっくりトドメをさした。
そろそろ始まってから四時間ほど。
なんとなくお腹が空いたような気もする。私は木に生っていたりんごを剣ではたき落とす。
途端に罠が発動して、風船のパンっ!という音が悪臭とともに訪れた。運営はリンゴを取らせない気だったか。
私は遠くからりんごを回収した。温泉の匂いが漂う。硫化水素だったっけ?
鑑定してみよう。
りんご
食べられる。
味 : 焼き魚(鮭)
ふざけている。
何が悲しくてりんごのシャキシャキ感と鮭の味を同時に楽しまなくてはならんのだ。
私は早々にアディルの場所に戻り、そしてりんごを食べる。
アディルが鑑定せずに食べて、かけらを口から飛ばし、私はそれを見てニヤニヤしていた。
イベントフィールドに、夜が訪れようとしていた。そして、そこには新たな敵——PKを普段から行う者たちが現れるのだった。
オケアニス「めちゃくちゃ楽しかったぞ!」(キラキラ)
シスコーン「よ、良かったです」




