第一回イベント開始②
アディルのキル率と10回言ってみよう(言っても特に何も起きない)
はぁ、と私はため息をつく。
右手を見ると、眉間にしわを寄せて肩をすくめてやれやれだぜと言いたくなった。
これが他人事ならそうしてただろうけどね。
私の右手には、手錠がはまっている。そして、その相手もまたいる。
そして、とても居心地悪そうにしているが、こればかりは私のせいじゃない。基本的にあんたのせいだと絶叫したい。
アディルこと三枝先輩は、私の右手を見て頭を右手で抱えていた。
そんなん私がやりたいわ。しゃっきりしろ。だいたい右手が空いたから余裕で銃打てるじゃん。再装填?知らん。
「と……とりあえず、移動、しましょうか」
「そ、そうだね。このままだと敵も狙いやすいだろうし……」
「この状態を解消したいなら最良の方法がありますよ?」
「え?何?」
「片方が犠牲になればいいんですけどね。あいにく私はまだ目的を達していないので引く気はないですよ」
アディルが中身を理解すると同時に、首をブンブンと左右に振った。
「い、嫌だよそんなの!僕まだ死にたくないよ!?」
「じゃあ、一緒に移動を開始するか鍵を探しましょう。これに対して救済策がないならGMコールを30秒おきにかけてイタ電をします」
「地味に嫌な悪戯だね……」
「テーナーの入れ知恵というやつです」
「何やってんの須賀さんは!?」
というわけで、なぜアディルと手錠で繋がっているのかを説明しよう。
あれから全員を粉砕して囲みを脱したのが48分後、流石にちょっと精神的に疲労がたまっていた。無傷とも行かなかったが、高いVITのおかげで怪我は最小限で済んでいる。
「ふー……あ、林がある……?」
私は少し考える。林の中から出てきたが、ぶっちゃけ平原ゾーンの林だ。隠れるところはそうないだろう。警戒すべき運営の罠もあるけれど、今は一応落ち着ける場所が欲しい。
入口の一本目の木に足をかけると、一番下の枝に手が届いた。私は体を引き上げて、葉っぱの中に身を覆い隠す。
ちなみにまだローション落とし穴からは、男のすすり泣きが聞こえていた。
怖すぎだって。
ふと、何とは無しに耳をすますと、奥の方からガサガサという音が聞こえてきた。
魔物というわけではないだろう。
私は息を潜めた。
ガサ……。
出てきたのは、一人の男だった。私は少し安堵のため息を静かに漏らす。ヘビ皮の装備、か?
私は男が枝の下を通り過ぎた瞬間、男の頭上に舞い降りるべく手を離し、組みついて締め上げにかかった。
チョークスリーパーである。
「ガッ……!?」
「こ、こんにちは。えっと、今日はいい天気ですね?」
「て、め……KoNの、誇り、にかけ……」
え?あのKoN所属者かな?
あそこ誇りなんて持ってたのー?やだー知らなかったー。
私が言うのもなんだけど、もうね、アホかと。
「ぐ、ぁ」
どうやら気絶の状態異常がかかったらしい。私は男を見下ろした。せっかく話しかけられたのに。
引きが悪すぎる。ちくせう。
「今のうちに殴っておこう」
そして私が拳を振り上げた瞬間、何かちりりと首筋を撫でるような焦燥を感じた。
何だ……?
気づけば男を普通に盾にして木の後ろに回り込んだ。男のHPバーはあっという間に弾け飛んだ。
……イヤイヤこれなんなんだ?
攻撃は結構遠距離からされているのがわかる。魔法のスキルは15mがせいぜいの射程だ。しかし、そんな気配は感じなかった。
……まさか、だけど……
「アディル?」
私はとっととこの場を立ち去ることにした。なんにせよかなりのプレイヤーはやってきたわけで、この後二時間は安泰なのだ。
そして私はそのまま木へと駆け上がり、次々飛び移って場所を外れようとしたんだけど……。
「いたぞ!銃使いだ!追えええええ!!!!!」
アディルェ……。
めっちゃ追われてるじゃん!
何人キルしてきたのかなユー!?
「松ぼっくりころろんのうらみーーーー!」
「ヴィクたんのうらみーーーーーーー!」
キャラネームは考えてつけろよ。なんでネタばっかなんだよ。
そこにアディルを追ってきた人たちは、みんな私怨で動いている。私は少しため息をついて、それから枝を伝って走り出した。
もはや音は気にせずに走ったため、真っ先にアディルの場所に到着した。
「こんにちは、先輩」
「ぅええ!?あ、び、びっくりした……」
銃口を向けるのはこの場合正しい判断だけど、怖すぎだよやっぱり。
「何人キルしてきたのかなユー?」
「キャラ変わってない!?えっと、十三人かな?結構無差別で、パーティーじゃない人を狙ったんだけど……」
「うっかりハズレをいくつも引いてしまったと言うことですね」
偶然単独行動中のパーティーメンバーとか、可愛い感じの女の子とかですねわかります。
「う、うん……あの、もし無理そうだったら逃げても、いいんだよ?」
私は首を振った。
「手伝います。逃げるのが約定じゃないですからね」
私は一番追随してきている男へと枝を蹴って仰向けに飛んでいく。空中で宙返りをしながら、腕をその首に引っ掛けて装備をもぎ取る。
え?なになに?
それはマナー違反だって?
仁義なき戦いだから仕方ないんじゃないかな。特に相手が殺すって息巻いてるししょうがないと思うんだよ。
決してちょっと楽しいからじゃないよ。
「フィーちゃん強い……ね?」
「は、はい、ありがとうございます」
いやいや父や母には劣るが、そう言われるとありがたい。ちょっとやる気出ちゃうわ。
照れるぅ。
存外にちょろい私。だから騙されるんだバッキャロー。
ナイフを投げて、そして枝を飛び移りながら私が振り向いてみると——
先輩はなぜか網にかかっていて、枝からぶら下がっていた。
「って何やってんですかあああああ!?」
お約束すぎるブービートラップ!しかも全員ニマニマアディル見上げてる!?ハリネズミの予感しかしない。知り合いのそんなところ見たくはない。
私は慌てて走り出したが、間に合わない。
「アディルせ『ドゴォォォォン!』うぷ!?」
んなぁ!?
上を恐る恐る見上げる。そこにはひたいの汗を拭う先輩と、死屍累々のプレーヤーの残骸があった。
ホワットハプンド……?
「ち、ちょっと降ろしてくれないかなー、大変だし、手伝ってー」
私は少しだけテーナーの言い分がわかる気がした。これはひどい。
真下に向けて、銃を発砲したのだ。しかも、銃弾は一定範囲は殲滅できる火属性の弾丸で。半径1メートル圏内の人は一気にやれる代物だと言っていた。連鎖して爆発反応を引き起こすようにウンタラカンタラと言っていた。
「…ちょっと待ってくださいね。今なんとか開けますから……」
私は網をざっくり引き裂いて、先輩を外へと抱え出す。お姫様抱っこー。
「あーびっくりし…『カシャン』……あれ?」
そこには運営の『やーい引っかかった。そんな君にプレゼントフォーユー☆』という紙がはらりと頭上から落ちてきて、手を上げてみればそこには手錠がはまっていた。
「……先輩、そろそろ砂漠地帯にはいるとおもいますけど、進路はこのままでいいです?」
「あ、う、うん。…その、先輩じゃなく、アディルでいいから……ほんと」
「あ、えっと……アディル?」
なんだか変な雰囲気のまま、私たちはちょうど砂漠フィールドへと突入した。
********
テーナーは目の前の落とし穴を覗き込んだ。
「たっ、たすっ、」
「KoN幹部でPK仕掛けようとしてたんですってね。のこのこ出場なんて、うふふ、どうしてやろうかしら」
「やめ、俺は、まだ!」
腐った肉の匂いのする粘性の赤い液体に装備を溶かされて、パンイチの男が這い上がろうとする手をテーナーがけり落とす。
「あらやだ御免なさい、つい汚いものを見たら足が勝手に」
男は悲鳴をあげる。
「い、いやだっ、このまま、溶かされたくは……」
「あらあら、でも仕方ないでしょう?フィーを狙うのがいけないの。あなたはもうやらかした側なのよね」
「はぁっ、はぁっ、」
男が顔を歪める。
「それなら、いっそ、殺せ…!!!!!」
「ふぅん。じゃあ、まずはフィーちゃんごめんなさいって言って?」
「な、なんで、」
「あらじゃあこのまま溶けたいの?じわじわじっくり骨まで溶かされる感覚は残るわよね〜」
「ヒィ!?」
テーナーの笑い顔も相まって男は恐怖の声を上げたが、実際男が浸かっているのは錬金液という代物だ。
それに不必要な装備をつけると肉が腐ったような匂いを出しながら溶け、そしてMPを流し込むと他の装備の修復をその液体を塗るだけで行えると言うものらしい。
が、わからない人間にとっては、服が溶けるなんて恐怖でしかなかった。
男は必死に謝罪を液体の中で立泳ぎしながら続け、テーナーは手をすっと差し出し、それから伸ばされた手を掴んで引っ張り上げつつ、顔面に蹴りを叩き込んだ。
そのあとKoN幹部はやつれた表情で場外へと放り出された。そして彼は組織を抜けて、一から真っ当にプレイし直すほどになった。
そして、テーナーは、存外ねちっこい性格をしていると観客全員が思った瞬間であった。
後何話か見当をつけてみたところ十話以内でイベントが終わるはず。締めは掲示板回で行きたい。
ちなみにイベント開始からまだゲーム時間で数時間しか経ってないorz




