嫉妬の匂い
「アヴァリスです。カズヒロ様の心の乱れを感じ、駆けて参りました。何があったのでしょうか?」
彼女は息を切らしながら、私室へ飛び込んできた。
目の前に立っているのは、昨日まで味方だと思い、たったいまカズヒロは敵だと判断した少女だ。
「なんでお前なんだよ!」
と、アヴァリスを怒鳴りつけると、彼女は一瞬たじろいだ。
「何のことでしょう?私は...」
彼女の弁明も御構い無しに、カズヒロは再び怒鳴りつける。
「何で女の子を殺した?何で俺を殺した?大体、訳がわからねえんだよ。急に訳のわからない能力を与えられて、俺が主だ?一日やそこらで、どう信じ...」
言い切る前に、アヴァリスが飛びかかってくる。
ただ、襲おうとした訳では無く、かばう様にだった。
助けられた状況が上手く理解できず、呆然としているカズヒロをアヴァリスは机の物陰へと隠れるよう誘導する。
よく見ると彼女の肩には、切り傷があった。
「その女の子は巻き戻す前にあったのですか?」
答える前に察したのか、アヴァリスは話を続ける。
「私達は罪の匂いというのを感知することができます。目印の様なものです。その匂いを辿って主を探すのです。」
彼女の表情が曇る。
「ただ、今のカズヒロ様からは嫉妬の匂いがします。」
「どういう事だよ?」
と尋ねる前に、犯人が姿を現した。
「主が悪いんだよ。アヴァリスと契約しちゃうから。」
一瞬の出来事であった。
頭上から何が振り下ろされると同時に、宙を浮く感覚がした。
そして、カズヒロは首の無い自分の体を濃紺の少女の膝下で見ていた。