悪夢、再び
朝食の席で疑問に思っていたことをアヴァリスにぶつけた。
「空間を操って時間を巻き戻したって話だけど、能力を使った記憶がないんだ。」
「私も巻き戻した際の記憶はございません。ただ、既視感の様にそこまでの事象は断片的に脳裏に残ります。」
アヴァリスは食後の紅茶を入れながら語った。
「つまりは巻き戻した分の出来事は夢になるってことでいいのか?」
「この時間軸のカズヒロ様にとっては、その表現でよろしいかと。」
自分が切り出した質問なのに、難しい方向へ向かっている様な気がした。
「では、カズヒロ様。行って参ります。何かご用が御座いましたら、胸に手を当て、お呼びください。」
「テレパシーまで使えるのか⁈」
驚いてみせると、アヴァリスは微笑みながら、
「カズヒロ様に使える私は、いかなる時も一心同体です。」
と言い残し、ゲートの向こう側へ消えて行った。
その一言だけでも、幾分心が軽くなった気がする。
もし能力を発動して現時点へ巻き戻したのなら、対策をしなければならない。
犯人の顔は愚か、倒れていた女性の姿でさえ記憶に無い。
余りにも手掛かりが少な過ぎる。
そんな考えを巡らせながら、行ったり来たりを繰り返していると、ある事を思い出す。
「あの手記だ!」
しまっていた手記を取り出し、昨夜の続きを読む。
「君と私は予見により、死ぬであろう。決して強欲を望んではいけない。彼女は望んでいないのだから。」
と、綴られていた。
安堵が一転、絶望へと変わってしまった。
背後の扉が開く。
「お前なのか?」