平和だった一日
突如、扉が開いた事に対し、カズヒロは慌て身構える。
そこにいたのはアヴァリスだった。
「お食事が出来ましたが...どうされました?」
「えっ、いやいや何でもないよ。」
と、カズヒロは落とした手記をポケットへ隠す。
「冷めない内にお召し上がり下さい。」
会釈をして、彼女は食堂へと戻った。
テーブルには一人では食べきれない量の色とりどりな食事が並んでいた。
どれも美味しく、中でもポトフの様なスープと異世界の魚のムニエルは絶品だと、アヴァリスに言って聞かせると、彼女は少し驚いてそれから微笑んだ。
食事も済み、私室へ戻りベッドへ寝転んだ。
「一日が長かったな。」
と、今までを振り返りながら眠りについた。
登りきった日差しの暖かさでようやく目がさめる。
窓の外を覗くとアヴァリスが庭の小さな菜園で収穫をしていた。
こちらに気づいたのか、振り返り会釈する。
まるで昨日の出来事が嘘の様に平和だ。
朝食の席でアヴァリスが今日の予定を話す。
「本日、食料、備品を揃えに行って参ります。くれぐれも空間の外には出ないで下さい。」
と、杭を打つ表情で迫ってきた。
「わかってるよ、昨日の今日だ。またいつ刺客が現れるかわからないからだろ?」
異世界の市場への好奇心を殺し、カズヒロは降参した。
アヴァリスが出掛けてから何時間経過したのだろうか。
カズヒロは豪華な噴水に馬程のサイズの鳥小屋、几帳面に手入れされた花壇や菜園、アヴァリス曰く屋敷自慢の葡萄園、敷地のありとあらゆるものを見て回った。
「遅いな。」
と、こちらに頭を擦り付ける巨鳥の頭を撫でながら呟いた。
突如、屋敷裏の森林で爆音が響いた。
嫌な予感が脳裏に走る。
「まさか、あいつが⁈」
気がつけば、カズヒロは森林へと足を運んでいた。
やがて目的地にたどり着く。
そこには濃紺のローブに身を包んだ少女が血を流して倒れていた。
「大丈夫か⁈」
慌て駆け寄るが、急に全身の力が抜け倒れこむ。
「あれっ、なんで?」
少女へ伸ばした手は赤く染まっていた。
気がつくとカズヒロは屋敷のベッドにいた。
窓から差し込む日差しはまだ弱く、早朝なのだろう。
体のどこも痛まない。
「ああ、また夢か。」
安堵し、また眠りについた。