予見
小さな丘を登り終えると、屋敷の玄関へとたどり着く。
丘の下から眺めた時と違い、少し大きく感じる。
「ここにアヴァリスの元主が居るのか?」
と、カズヒロは問いかける。
思った反応と違い、アヴァリスは表情を曇らせ、
「居た様なのですが、あまり思い出せません。ただこの空間は強欲の能力以外は出入り出来ませんので、灯りもないところから見ると現在はいない様です。」
と彼女なりの考察を聞かされた。
玄関を潜ると見事な装飾を施されたエントランスが広がっていた。
エントランスから続く大部屋は八つあり、一階から食堂と大浴場、使用人の私室、客室、二階には書庫と屋敷当主の私室と書斎と繋がっているらしい。
「食事が出来るまでカズヒロ様は屋敷当主の私室でお待ち下さい。」
「俺、客人じゃないの⁈」
「元主から全ての所有権は、現主へと引き継ぐと仰せつかっております。」
つい数時間前まで平凡な高校生だった自分が、現時刻を持って豪邸の主になった事に対し、唖然としているカズヒロをアヴァリスは屋敷当主の私室へ案内した。
私室も豪華なものかと思いきや、意外と現実世界に近いもので、強いて贅沢していると言えるものはベッドが低反発で心地よいくらいだった。
辺りを見回すと、読めない文字恐らく異世界語の本が積まれた机があった。
手に取ってみるが、自分に翻訳する目の能力がある訳でもなく、小さな溜息と共に机の上へと戻した。
しかし、最下段の本のに違和感を感じ、抜き取ってみると、隙間に小さな手記が挟まっていた。
他人の手記を勝手にみていいものかと、暫く葛藤と格闘した後、欲に負け開いてしまった。
そこには見覚えのある文字、つまり母国でこう綴られていた。
「受け継ぎし者へ。」
要するに現主である自分へ向けたものだろうか、とカズヒロは読み続ける。
「君と私は予見により、あと数日後に死ぬであろう。」
力が抜けた手から手記は滑り落ちた。