夢の世界
使い、主、忠を尽くす。
つい数十分前まで平凡な日常を過ごしていた高校生には、何かを言っているのかさっぱり見当のつかない話であった。
「えっと、状況がイマイチ飲み込めないんだけど、」
と問うと、
「はい、前主はカズヒロ様に支えるよう、私をこの地に送りました。」
と答えた。
その後、少女の経緯や前主とやらの事を尋ねたが、ここに至るまでに何らかの障害で記憶が曖昧の様だった。
ひとつだけハッキリしていることが、「カズヒロ様は強欲ですから。」という理由で自分と契約を交わしたらしい。
それから今後の話をした。
どうやらフードの少年以外にも5人刺客はいるらしい。
それからアヴァリスの能力、厳密には契約を交わした主が使える強欲の能力。
時間軸とか扉とか難しい話を聞かされたが、要するに空間を自在に操る能力の様だ。
「カズヒロ様、僭越ながら、この世界に長期滞在するのはカズヒロ様にも私にも、あまりよろしいものではなくなりました。」
アヴァリスの表情は一層深刻さを増していた。
「カズヒロ様は刺客に狙われる身、私はまだ環境に適応していないため、隠れ家へ向かいます。」
「どうやって行くんだ?」
と、カズヒロが言うと、アヴァリスは暗闇の中でして見せた様に手を合わせ、ゲートを作ってみせた。
「こんなこともできるのか⁈」
と、感心しつつ眺めていたが、やがて催促する様なアヴァリスの視線に気づく。
恐る恐るゲートを潜ると、そこは自分の住んでいた場所とは違い、丘の上に一軒西洋風の小さな屋敷があった。
「本日よりこの異世界でカズヒロ様には生活して頂きます。」
ファンタジーが好きな男子高校生からしてみればゲートの先は夢の世界であった。