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「じゃあちょっとここで待ってて」
そう言うと若い女教師は一人教室の中に姿を消して行った。 転校生がやってくるとなると、自分で言うのもアレだが、教室の中はお祭り状態になっているのではないかと想像した。 少なくとも、俺が転校生を迎える側の時はそうであった。 どこからきたのか、趣味はなんなのか、好きな異性のタイプは、とか色々とくだらない質問をされるのだろうな。 まぁそれも含めていいじゃないか。
「じゃあ、中に入って」
先生のその言葉を合図に、俺は教室の中へと入った。
「……」
ふむ、とりあえず教室の中へ足を一歩踏み入れてみたが……えらい静かな出迎えだな。 もっとこう、ねぇ。 わーきゃーって言ってほしいわけじゃないけどさ、もう少し騒いでくれてもいいんじゃないの。 転校生だよ、転校生。 新キャラだよ俺。
「じゃあ自己紹介を」
「あ、はい」
黒板の前に立ち、見渡すようにクラスメートたちに視線を送る。 なんというか、俺も緊張しているけど、この場にいる人間はそれ以上に緊張しているように見えた。 みんな心に一本の見えない糸が張りつめているように固まっている。
「あの、高橋裕也です。 よろしくお願いします」
「……」
「……」
「……」
反応はない。
「はい、じゃあ高橋君は一番後ろの席に座って」
「あ、はい」
自分の席まで歩いて行く中、誰も俺へと視線を送る人間はいなかった。
ホームルーム終了後、俺は担任を捕まえ、大事なことを訊いた。
「確か、智子と俺って同じクラスじゃなかったですかね」
先ほどの話でも、俺は智子と同じクラスになるということだったのだが、さっき教室中を見た感じだと智子の姿はなかったような気がする。
「智子……あぁ、長野さんのことね。 彼女は特別学級にいるわよ」
特別学級。 その名前に聞き覚えがあった。
どこの学校にも、何らかの理由で学校やクラスに馴染むことができない生徒がいる。 そんな生徒たちに登校してもらうために特別教室や、特別支援学級を作っている学校は珍しくない。
「智子、あまりクラスに顔を出さないんですか?」
「えぇ。 でもいくら君が長野さんの知り合いと言っても、私の口から彼女の個人情報を簡単に話すことはちょっと控えさせてもらうわ。 本人に訊いてもらうと助かるわ」
特別学級にいるということは智子自身に何かしらの問題や理由があるということなのだろうか。 その理由を知りたかったが、この教師は俺の心を先読みしていたらしい。
「わかりました。 ちょっと行ってきます。 場所を教えてもらっていいですか?」
「職員室近くのクラスにプレートが書いてあるわ。 そこにいるはずよ」
「ありがとうございます」
俺は先生に一言礼を言って、特別教室を目指した。