プロローグ2
「よかったな、俺が独裁国家の大統領じゃなくて」
「え?」
「ボケは一度で理解すること。 そして素早くツッコむ。 これ、大事」
いくらボケが最高レベルにおもしろくても、ツッコむタイミングが悪ければ台無しなのだ。 ボケにも鮮度というものがあるということを覚えておけよ。
いやそれよりも、だ。
「遅刻」
「一時間だけじゃんー」
「ほほう、戦争するか?」
だけとはなんだ。
「そんなに怒らなくてもいいじゃん~」
「これが俺の性格だ。 今日から卒業まで、同じ屋根の下で一緒に暮らすんだからそれぐらいは心得ておいてくれないと困る」
とにかく俺は時間にルーズな人間が嫌いだ。 自分の大切な時間を奪われてしまったようで嫌になる。 遅刻した人間はその分、何か他の作業を行っていたのかもしれないが、きっちり時間を守った俺は、ただただジッと待つことしかできない。 だから時間にルーズな人間を俺は許しやしない。
「私は同じ屋根の下、やっていけるか不安だよ……」
もちろん一つ屋根の下で暮らすと言っても、二人きりの生活が始まるわけではない。 そこには当然、智子の親もいて、決して不純異性交遊をするために居候するわけではない。
高校三年生の俺はこの春、それまで通っていた学園を卒業することになっていた。 どうしてこの卒業間近のタイミングで引っ越してきたのかというと、卒業後はこの町で働くことになっているからだ。 幼少期を過ごしたこの町で社会人としてのスタートを切るつもりなのだ。 小学校の途中までこの町で過ごし、あまり記憶こそ残っていないけれど、いつかこの町に戻ってこようと思っていたので、このタイミングを選んだというわけだ。
そしてもう一つの理由は、智子の親父さんから、この町で仕事を探すならいくつか仕事を紹介できるかもしれない、という話を聞いたからである。 智子の親父さんはこの町ではかなり顔が広いらしく、良い仕事を紹介できるかもしれない、ということらしい。 だからこの町に戻ってきたのだ。
もちろん、現在の身分は学生なので収入はない。 現在一月。 卒業は三月。 それまでの間、智子の家で暮らして、落ち着いた頃に春から過ごす家を決めようというわけだ。
「ところで、一時間も何をやっていたんだ? 通い慣れた道だろうし、地元なら迷うポイントもないだろ?」
「え? うーん……どうしてかな」