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仮面サーカス  作者:
序章
9/11

記者の話8

「クロネコちゃーん。お客様には優しくしてあげてクダサーイ」


「チッ……」


「舌打ちシナーイ!嫌そうな顔シナイデ!パンプキン泣いちゃう!」


「ば……」


金色の目がこちらを見据える。

その目は知ってる。

古株のヤクザのような、数々の修羅場をくぐり抜けてきたヤツの目だ。


「化物……!」


「まあ……半分は当たってますね。」


そんな話をしてる暇じゃない。

一刻も早く川崎を助け出さねば。


柱は既に二本目。

川崎は熱気にもがいている。


どうする……どうすれば……!


「ダメですよー?“試験”のお邪魔をシテハ」


「お前、いつの間に!」


目の前にいたのはカボチャ頭のイカレ支配人。


「“願い”が強ければ強い程、“願い”は“叶う”のデスヨ。

(おのれ)を化物にするくらい願う願い”。そんな度胸が無いと死んでしまいますカラネ~。」



己を化物にするくらい……?

そんなの……!


「彼女はサービス精神旺盛な団員になってくれるデショウネ~。」


カボチャ頭がニンマリ笑った気がした。


“願いを叶える代わりに団員になる”


それが本当の代償。



それでも俺は


「諦める訳ねぇだろ!!」


副団長を突き飛ばして消火器を手に取った。

しかし、


「っ!作り物!?」


木の板で出来たハリボテの消火器。



「うっ……ああああああ!!」


「川崎!」


川崎の隣の柱が燃える。


「くそっ!」


ステージに乗ろうと再び試みる。

炎で手が焼けただれ、痛みが走る。



副団長によりステージから引き剥がされた。


「貴方が死んでは証人がいなくなります。それだけは当サーカスにとっては損失でしかありません。」


「お前……人が死んで何とも思わねぇのかよ!!」



ここで一言優しい言葉か無言でいて欲しかった。

残念な事に、その期待は数秒で打ち砕かれた。


「何とも思いません。」


その回答にこちらが唖然とした。

残酷なことに、驚きの後に現実は不意打ちを仕掛ける。



「ああああああ!!熱い熱い!!」


「川崎!」


川崎の柱に火が点いた。



叫び狂い赤々と燃える炎にもがき苦しむ川崎をただ叫びながら見つめるしかなかった。

その光景は余りにも残酷に脳裏に記憶に“焼き付いた”















────


「川崎!!」


勢い良く飛び起きた。

真っ白な部屋。真っ白なベッド。真っ白な空間。

窓からは晴れた空と新緑が見えた。

ここは病院。

深呼吸をして、場所を把握する。

兄が医院長を務める総合病院、精神病棟。

冷や汗を拭うと扉を軽くノックする音。

軽い返事をすると若い看護師が顔を見せる。

俺の担当看護師だ。


「谷口さん。診察のお時間ですよ。」


「……はい。」


看護師に付き添われて杖を支えに歩く。



あの日から十年の月日が経った。


あの日、俺は道端で倒れていたらしい。

打撲の跡と頭と両手に火傷をしていたことから、警察は当日有名だった通り魔事件の一つとして処理して終わった。

一緒にいた川崎は行方不明扱いになっている。

川崎一家の方は風の噂で聞いた事だが、川崎兄の病気が奇跡的な回復を見せ、現在はやり手のサラリーマンとして家族を支えているらしい。


俺はといえば“あの日の夢”を一ヶ月に一回は見るようになり、精神がズタボロだった。

社内では仲の良かった川崎の失踪と、打撲の際に脳に支障が出たのではないかと言われた。


あのサーカスの事を何度も説明したが無駄だった。


あの日の出来事は夢ではない。

その証拠として、両手には火傷の跡があるからだ。

たまに酷く痛む時がある。


痛む度に頭を掻き毟る。

自分はなんて弱いんだ。

好きな奴さえ守れない。


俺は…………




「谷口さん?大丈夫ですか?」


「俺……は……あ……ああ……」


「先生!谷口さんが発作を!!」


「あ……ああああああ……ああああああああああああああああああ!!」



慌ただしいその患者の様子を、病院の窓から黒い猫が見つめていた。



「にゃおん」







────



「ドウデシタカ?」


「やはり狂っていました。」


「そうでしタカ。あーあ!道化師(ピエロ)が早く現れませんカネ~。」



薄暗い支配人の部屋(プライベートルーム)ではランプのほのかな光が部屋を照らす。


高級そうなソファにゆったり座る銀髪の青年。

その膝には金色の目をした黒い猫。


大理石の彫刻を思わせる白く滑らかな肌に映える薄紅色の唇。

艶やかな黒い眼差しは無邪気な子供のように細められ、膝に座る黒い猫を見つめている。

緩く着こなしたワイシャツの袖に通された女性の様に細く華奢(きゃしゃ)な手が黒い猫を優雅な手付きで撫でる。



「さて、次の目的地を決めマショウカ。トキワさんに方角を指示してもらってクダサイネ。」


黒い猫が青年の膝から降り、クルリと周りと紫の煙と共に人の姿になる。


「御意。」


クロネコと呼ばれた副団長は頷き、カボチャ頭を外した麗しき支配人は優雅に紅茶を一口飲んだ。




サーカスは再び『道化師』を探して旅を続ける。

何年も変わらぬ姿で。

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