記者の話6
「まず始めに幾つか質問をします。嘘偽りなく答えてください。」
カンッと木槌の鈍い音が響く。
「分かった。」
頷く川崎に対して副団長は淡々とした声で質問していく。
「貴方のお名前は?」
「川崎真也」
「職業は?」
「○○出版社記者」
「社内での地位は?」
「……部長だ。」
「当サーカスを何処で知りましたか?」
「チラシを配っていたので面白そうだと思っ」
川崎の言葉を遮るように木槌の音が響いた。
「“嘘偽りなく”と、申し上げた筈です。本当の事をお話しください。」
「そんな……!」
裁判じゃないのに何様だ。そう言いかけた言葉は周囲からの強い視線ですぐに引っ込んだ。
裁判だ。
会議なんかじゃない。
会議なんて名前の
被告人側の俺達を裁く裁判。
「もう一度問います。
当サーカスを何処で知りましたか?」
「……都市伝説を集めているサイトで知ったんだ。」
「どんな内容で紹介されていましたか?」
「っ……『願いを叶えるサーカス』……『ただし、代償を払えなかったらサーカスの団員になる』……って。」
願いを叶える、サーカス?
コイツに願い?何の?
地位も、名声も、性格も、交友関係も、
群を抜いて優れて、全て手にした川崎に、
何の願いがあるんだ?
「貴方は叶えたい願いがあり、当サーカスに来た。そう捉えて宜しいですか?」
「……はい。」
「最後の質問です。」
薄暗い空間。
淡々とした副団長の声。
円卓に参加している幹部達の視線。
全て夢なら、なんて。
俺らしくもない事を思った。
思わざるを得なかった。
「貴方の願いは何ですか?」
「…………願い。」
一瞬、川崎と目が合った。
その目はいつもと違う、悲しげな目。
「助けて欲しいんだ…………兄を……病気の兄を助けて欲しい。」
川崎は絞るようなか細い声で、そう告げた。
「お兄さんの病名は?」
「……分からない。ただ、肺の病気だって母が言ってました。………父がいなくて……入院費とか、妹の学費とかがあるから……それで……」
「『それで都市伝説に縋ろうと思った。』と、言う訳デスネ?」
沈黙していた支配人が喋りかける。
「……はい。」
「素晴らしい!実に切なく健気デース!!それに、チップも素晴らしいとなると益々素晴らしい!」
「「特別チップのお客さん?」」
後ろから幼い子供の声が一人、前から一人。
声に反応して振り返ると、ガスマスクに大きめのサロペット姿の子供が身を乗り出してコチラを見ている。
そして、前の巨漢をよく見ると彼の背後にダンボール箱を被った小さな子供が顔を覗かせている。
「団長ー、団長ー!僕、この人にお礼したい!僕を担当にして!!」
ガスマスクの子供がぴょんぴょん跳ねる。
どうやら男の子らしい。
「フ、フジさん……私……」
ダンボール箱の子供は女の子らしく、巨漢の袖を控えめに引っ張る。
「静かに。
タナカくんは席に座ってください。
ヨツバちゃん、怒っていませんから泣かないで……。」
副団長が場を沈める。
「ではこれよりアピールタイムとします。
各自、挙手で意見を述べてください。」
「はっ、意見だぁ?決まってんだろ!?
治療だ治療!!脳味噌かっぽじって人体模型の一部だ!!」
誰かが大声を上げた。
それはガスマスク少年の左隣にいる人物からであった。
顔の半分を覆うゴーグルに白衣を着た男性。
ただし、
太い鎖でガッチリと椅子に拘束されていた。
狂人じゃないか。
「サトウさん以外に意見がある方。」
慣れた様子で狂人の声をスルーした副団長。
元気よく手を上げたのは例のガスマスク少年。
「はい!あのね、僕の班はね、凄く楽しいよ!カワカミお姉ちゃんも優しいし、ミヤビさんは怒るとちょっぴり怖いけど優しいよ!
一緒に火の輪潜りとか空中ブランコしたい!!」
「ありがとうございます。次に意見のある方。」
「……副団長。いいかな。」
今までで一番静かな父性を感じさせる声音。
それはダンボール製テレビの巨漢であった。
正直、もう勘弁してくれ!
コイツをどうしようというんだ!
コイツは
川崎は
「はい、フジさん。どうぞ」
「ヨツバが気に入ったから、というのもあるが……。
“女性”は動物が好きな人が多いと聞いたから、うちの班にも希望したい。」
そう
川崎真也
性別・女
そして
俺の片思い相手である。