記者の話3
「サテサテ最初の演目はー?」
カボチャ頭の団長が懐からカードを取り出しシャッフルを始める。
扇のように開いたカードから1枚抜き取り、高々と宣言する。
「1番手、当サーカス自慢の歌姫・カワカミ嬢の妖艶なる美声を得とご覧あれ!!」
団長の合図とともにステージに大きな金魚鉢が荷台に乗せられてきた。
金魚鉢の淵には鮮やかな和風の衣装を身にまとった、黒髪の女性。
しかし、彼女も目元を覆った和風の仮面をしていた。
いや、注目すべきはそこではない。
名前でもなく、美しさでもない。
観客が1番注目したのは彼女の足。
本来なら足があるべき箇所が魚の下半身であった。
つまり人魚だ。
『よく出来た作り物だな。』
大半の客は俺と同じ事を思っているだろう。
人魚姫の歌が始まる。
昔、オペラを見に行ったことがあるがそれに負けてない。
いや、それ以上だ。
プロのオペラ歌手顔負けの、美しく透き通った声。
迂闊にも聞き入ってしまい、歌が終わると周りに釣られて拍手をしていた。
荷台が退場すると次の演目が発表される。
「続きましては、軽業師・タナカくんと踊り子・ローズ嬢による軽業と踊りのコラボレーションでゴザイマス!!!!」
団長の紹介と同時に、
桃色のフリルと花飾りをふんだんにあしらったバレリーナの衣装をまとい、仮面の代わりに花飾りで顔を覆った少女と
ガスマスクをした元気そうな少年が現れる。
そこから先は誰もがイメージする華やかなサーカスそのものだった。
踊り子少女率いる踊り子部隊が花が舞うように曲に合わせて踊り、
少年も2~3人を連れて空中ブランコやら玉乗り、ジャグリングを見せてくれた。
現時点で分かったことは2つある。
・団員は必ず顔を隠している。
・不気味な団長が仕切っている。
チラリと川崎の方を見たが、子供のようにサーカスを楽しんでいるだけだった。
呑気なヤツだ。
他の観客も川崎同様、誰しもが現実を忘れて演技に注目している。
その後の演目でも、俺の予想は大体当たっていた。
人魚のような和風面の歌姫。
花飾りの踊り子。
ガスマスクの軽業師。
大きな体の段ボール頭の猛獣使い。
怪しげなペストマスクのマジシャン。
最後はパレードのようなお祭り騒ぎで締めくくった。
拍手喝采の満員御礼といったところか。
「ではでは様!!チップの代わりに甘味をくださいませ!!」
どうやらチップ代わりに甘味を所望するらしい。
観客がステージに甘味類を投げる。
俺はコンビニで買った飴を投げておいた。
ちなみに川崎はスーパーで売ってるファミリーセットのチョコを丸ごと投げていた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!!このパンプキン、大感激でゴザイマス!!
ではチップをくださいましたお客様方に一つだけ、注意を教えましょう」
団員が去り、暗闇の中をスポットライトの光だけが団長を照らす。
「当サーカスにはご覧の通り、『道化師』が居りませぬ。
ですから悪戯好きな団員が
お客様の誰かを
道化師として
当サーカスに招くかも知れません。
どうぞ、
お連れの方がいるお客様は
シッカリ確認の上、
お気をつけてお帰りクダサイマセ」
そのふざけたカボチャ頭が少しだけ、ほんの少しだけ笑ったように見えて。
悪寒がした。