記者の話2
開演は深夜12時00分
待ち合わせは11時30分、サーカス近くの駅で
「遅い……」
現在の時刻、11時28分
肌寒い初秋の夜中に待つのは辛い。
普通なら1分でも過ぎたら帰るつもりだが、川崎は時間ピッタリにやってくる奴だ。
11時30分ジャスト
「待たせたな、谷口!」
改札を抜けて早足で向かってくる川崎を軽く睨み、一言
「遅ぇ……」
「すまない、すまない。さ、行くか」
開き直ると、川崎は颯爽と俺の前を歩き案内をはじめた。
よく見ると履きなれない靴なのか動きがぎこちない。
まあどうでもいい。
川崎の後をゆったり歩くうちに、同じ方向に徐々に人数が増えていく。
サーカスを見に来た物好き達だろう。
ある意味、自分もそんな物好きの1人だ。
「あ、着いたぞ谷口!」
「見りゃ分かる。」
色調から高級感溢れるゴシック風のテント。
広がった入口では受付の団員が慣れた手つきでチケットを拝借し、仮面を選ぶように促している。
受付の団員は仮面を被っていた。
川崎がチケットを渡す。
「はい、お二人様ですね。
お好きな仮面を選んでから入場してくださーい。」
団員が示した先には仮面が多く入れられた大きな箱。
俺は1番地味なオペラ座の怪人のような仮面を選び、川崎は怪盗のようなスタイリッシュな仮面を選んだ。
「あははは、なかなか似合ってるよ谷口。」
「……どーも」
客席はほぼ満員だったが奇跡的に空いている2席を見つけ、着席する。
ショーがよく見渡せる席だ。
俺が通路側で川崎はその隣。
「どんな風に消えるんだろうな?やっぱりスタンダードに手品だと思うんだが。」
「知るかよ。」
腕時計を見れば時刻は11時55分
すると照明が薄暗くなり、中央にスポットライトが当たる。
スポットライトに照らされた場に小柄な人物がやってきた。
ダボダボのパーカーで帽子を目深に被っている。
「本日は当サーカスに御来場ありがとうございます。副団長・『クロネコ』と申します。
お客様にお願い申し上げます。
携帯電話はマナーモード、あるいは電源をお切りください。
猛獣ショーの際に物を投げたりしないでください。
また、ショーの終了後土産物の販売を出口付近で行っていますのでどうぞ足を運んでください。
それでは、浮世の事を暫し忘れ、ごゆっくりショーをお楽しみください。」
どうやら注意事項と宣伝のアナウンスらしい。
携帯電話をマナーモード、電源を切るやつがちらほら見える。
川崎も律儀に電源を切っている。
俺は常にサイレントマナーモードだ。
12時00分
照明が全て消え、数秒の沈黙の後
「レディース!エンード!ジェントルメーン!!」
甲高くテンションの高い声の主をスポットライトが照らす。
その人物は……
「本日は当サーカスに御来場誠にありがとうございマース
ワタクシ、当サーカス団長・パンプキンでございマース!!ギャハハハハ!!」
人形のように細い手足に燕尾服。
優雅な仕草でシルクハットを脱帽し、礼をする。
しかし、
団長を名乗るその男の頭は
ハロウィンでよく見る定番アイテム
オレンジ色のカボチャ頭、ジャック・オ・ランタンであった。