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■エピローグ   久遠の縁《えにし》

■エピローグ   久遠のえにし


 仮初かりそめの日常へと帰還した俺を待っていたのは、面目を潰された医者の執拗な再検査と復学するかどうかを審理する教員会議だった。

 実のところ俺には学校へいく意味はあまりない。知識についてならアウトサイダーの異界の叡智を受け継いだからだ。身体機能もチート放題という状態であるし、学ぶ必要がなくなってしまったのである。

 だが、だからといって知識をひけらかして天才と呼ばれたり、スポーツ万能となって世界を席巻せっけんしたりしたい訳ではない。むしろ逆だ。俺は自分が為すべきことを理解しており、それに注力するにはやぶさかではない。

 俺が為すべきこと。それはこの世界の管理だ。アウトサイダーが管理を放り出して俺たちに関わろうとし、挙げ句の果てに俺に吸収された結果、この世界の管理責任は俺にお鉢が廻ってきたのである。

 本来アウトサイダーがやっていたように影から世界を管理するには奴みたいに思念体になるのが手っ取り早い。だが俺は肉体を捨てる気にはならなかった。肉体を捨て、思念体になる前に、俺は俺自身の人生を悔いなきように存分に生きていきたいのだ。

 それは千佳も同じだと笑っていた。造物主となって事実上無制限の生命と無尽蔵の力を手に入れた俺と、俺が息吹を吹き込み続ける限り絶えることのない存在になった千佳のふたりで、終わることのない人生を謳歌する。千佳が望んだ『同じ墓に入る』という夢は叶えられなくなったが、『いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ』という夢なら叶えられるだろう。

 もっともそれは終わることのない倦怠に繋がるのかもしれないという危惧も抱かずにはいられない。ハッピーエンドは人生の完結を意味する訳ではないのだから。その後までも続くもの

だから。それでも。永遠を共に生きるのが千佳であって良かった、と心から思う。世界一大切なひとだから。


「キョオちゃん、また浸ってる? 学校行かなくて会わないからって浮気してないよね?」

「してないしてない! その、さ、お互いの意思は固まってるし、残念ながら法律上成人に達してないからまだだけど、俺、絶対……幸せにする。誓う」

「うん……私もキョオちゃんのこと、絶対に幸せにする。誓う。私たちの愛は絶対無敵」

「またアニメネタか。まあ、4月になったら絶対帰るから、少しだけ待っててくれよな」

「わざと留年して一緒の学年になろうか、とか思った」

「思うだけにしておけよ? 実際やったら俺が千佳の御両親に睨まれちまう」

「学校、退屈。勉強しなくても分かるし、キョオちゃんいないし。やっぱり学校辞めてキョオちゃんのお嫁さんになりたい」

 新学期になって学校が始まってからも千佳はこうして毎日俺の家に遊びに来てくれる。忙しいウチのお袋に代わって毎朝の炊事を賄った上で学校に通う、これまた忙しい毎日だ。おかげで俺は毎日千佳の飯が食える。なんと幸せなんだろう。

「他のみんなは相変わらず?」

「うん、相変わらず。懲天使の記憶を消したい、って言い出したときにはどうなるかと思ったけど、封印して正解だったみたい」

 そう。かおりは千佳を斬った感触を思い出さないように記憶の抹消を依頼してきた。A子センセも錬金術のように金貨を湧き出させる能力を消して欲しいと言い出したし、大森もまた懲天使の記憶に不満があるらしかった。『世の中ゆとりが必要デス。ゆとりと遊びのない記憶は人生を楽しむ障害にしかならないデス』と言って記憶の封印を申し出たのである。

 結果、アウトサイダーのことを覚えているのは俺たちふたりだけだ。哀れみを覚えないでもないのだが、一歩違えばそれは俺の運命だったのかも知れないのだからお互い様である。逆に言えば俺は融合の結果忘れることができなくなったし、千佳も我が眷族として忘れないでいてもらわないと俺が困る。皮肉なことに(本質的に違ってはいるが)形式上は奴と俺の合一体が千佳と結ばれるという奴の『願望』とやらは達成された形だ。

「ところで、キョオちゃん?」

「なんでしょ、千佳サン?」

「『埋め合わせ』、まだ?」

「うわっちゃ!」

「やっぱり、嫌? 魅力、無い?」

「嫌なんて滅相もないし魅力たっぷりだけどちょっと待て」

「おじ様は先週からジャカルタに海外出張、おば様も今日のシフトは2直残業、朝までふたりきりだよ?」

「いや、朝まではマズイよ。千佳だって門限あるんだろ?」

「ウチの両親ね、私が長生きできないって諦めてたの……今も、長生きできないかもしれないって心配してる。だから早く結婚して早く孫作るのは親孝行なの」

 千佳はじっと俺を見つめている。蛇に睨まれた蛙というのは少々悪い例えだと分かっているけどそんな心境だ。

「ばにっしゅめんと・でぃす・わぁるどっ」

 甘い声で囁きながら眼帯を取る千佳。下には黄金に光る邪鬼王瞳。懲天使の名残り、本物の邪眼だ。ちなみに意識的にON/OFF可能らしい。眼帯で隠す意味、あまり無いな。

 千佳はそのまま俺に抱きつき、左の耳を甘噛みした。理性が、自制心が抵抗する!

 が!

 ギュ!

 俺は静かに千佳の腰と背中に手を回して抱きしめた。俺は、何かを悟ったような気がする。

 この娘と、千佳と結ばれるのは必然にして運命なのだろう。そう思ったのだ。だが。

「千佳、大丈夫か? 震えてるぞ」

「よ、余裕ぅ」

「余裕無いな。無理すんなよ。俺たちには無限の時間があるんだ。焦ることないぞ」

「でもぉ」

「俺もさ、『してみたい』とは思ってるけど切実に『したい』って思ってるわけじゃないんだよ。それより『してしまう』ことで俺たちの関係が変わってしまうことが怖いな」

「でも、知り合ったときやプールで溺れたとき、それから眷族になったとき。私たちの関係はそれなりに変わった。これもそれと同じかもしれない」

「何の漫画だったかな?『制服着てプラトニックでラブラブなんて今の内しかできない』ってセリフがあった。別の漫画で『大人の』恋はエロエロだ、とかあった気がするし。俺、少なからず正論だと思うんだ」

「やっぱり……まだ早い?」

「千佳が俺のこと『まだ子供だ』と思うならしょうがないけどさ、今回の事件を通して思ったんだよ。俺には千佳が必要で、千佳がいなければ俺は懲天使に討たれていたし、そしたらこの世界も消去されていたって。だから……だから怖いんだ。変わることも怖いし、変わった後、元に戻れなくなることも怖いんだ」

「キョオちゃん……」

 千佳の目が憂いを帯びて潤む。その目には弱いんだよなぁ……。

「知り合う前と後じゃ後の方が良いに決まってる。でもプールの一件の前は……『昔はものを思わざりき』ってイメージなんだよな」

「キョオちゃん、それ衣衣きぬぎぬの別れの和歌」

 衣衣の別れとは――平安時代とかで一夜を共にした男女が朝になって別れる時に交わす言葉のことだ。

「いや、その、違う! そういう意味じゃない! 文字通り恋愛感情の意味の深さが変わったって意味で考えてくれ!」

 半端に知識だけ持っていても『知っている』と『分かっている』の差は埋め難いということだろうか。まあ、古文に異界の叡智が通用する訳がないわな。

「よ、要するに無邪気だった昔には戻れなくなったってこと!」

「後悔してる?」

「後悔はしてないけど、戻りたいと思うことは無くはないな。色気は無かったけどバカ話で盛り上がるのは楽しかったから。な? 分かるだろ?」

「分かるけど……今も楽しいから戻りたいとは思わない」

「ふぅむ、なるほどなぁ」

 この辺、千佳はリアリストで俺はドリーマーってことなんだろうな。不意に笑みがこみ上げてくる。そうだよ。千佳は俺が認めた奴なんだよ。俺の考えと共鳴できて、かつ別の考えを持つたいした奴。そして俺は千佳の考えに共鳴できて、かつ別の考えを持つ者なんだ。

 だから認め合った。だから選び合った。だから惚れ合った。だから千佳なんだ。唯一無二の俺の半身ベターハーフ

「……愛してるよ、可愛い千佳」

 俺は千佳の唇に自分の唇を重ね、何度目かの息吹を吹き込んだ。

「んんっ、く……はぁ。キョオちゃん、少し変わったね。夢じゃないのにキザったらしい」

 千佳は吹き込まれた息吹を受け止め、上気しながら応えた。

「すまん、奴の恥知らずなところが影響しちまったのかもな」

 俺は再び千佳を抱きしめ、頭を撫でながら言った。


 これからも俺たちはずっといっしょだ。神かけて誓える。

 これからも俺たちはずっと幸せだ。神かけて誓える。

 これからも俺たちはずっと俺たちだ。神かけて誓える。


 久遠の果てまでこの縁は途絶えることはないだろう……。


〈完〉


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