摘希の休日
摘希ははしゃいでいた。
久しぶりの休暇にハナマチの土産屋を歩くなんてサクラの人間は早々しないことだ。
皆、ハナマチを恐れている。
摘希はそれは思い違いだと信じていた。
もちろん、犯罪はおきる。つい先日も殺人事件はあった。しかし、それはほんの一部の人間の行為でありハナマチのほとんどが不器用だが人間味溢れる暖かい人ばかり。
と言っても摘希自身がハナマチを訪れるようになったのはつい最近のこと。それまでは東ノからハナマチの話を聞いていたため憧れを抱くようになったのだ。
摘希は幼い頃から遠い親戚である東ノ宗吾を慕っていた。加えて、親のいない摘希を東ノは気にしており祖父母に預けられた摘希のもとへ赴くことが多かった。
そのためか、よく似てないが仲のいい兄弟と言われていた。
摘希は彼と近い仕事をするために兵隊になり見事に彼専属の護衛兵としてお供することになった。
五の都では王家が1番位が高く僧が続いて2番目に位が高いため一人一人に護衛がつく。しかし、その護衛兵になれるのは優秀なものか僧が選んだものだけ。狭き門を摘希は簡単にコネとゆう武器をつかってのし上がったのだった。
「お兄さんお兄さん!そこのかっこいいお兄さん!ハナマチ1番の団子食べてきな!」
三食団子色の飾りを店いっぱいにつけた団子屋のこれまた三食団子色の化粧をした派手な女が香ばしい香りをした醤油団子を差し出してきた。
「うっわ!美味しそう!五本いただきます!」
「毎度〜」
店を覗いてみると10席ほどテーブルがありそこで食べていけるようだ。
摘希はそっと近くのテーブルに1人で座った。
「お兄さん、ここいらじゃ見かけないね、観光かい?」
先ほどの女が団子と茶を差し出して笑った。
「はい、久しぶりの休暇だったんで」
「そうかい、なんの仕事してんだ?」
女はぶっきらぼうな言葉だったがとても感じはよかった。
ほら!やっぱりハナマチの人はいい人ばかりだ!!
と摘希は美味しそうに団子を頬張った。
「えっと、これでも一応、護衛兵してます」
「護衛兵?」
女の細い眉が釣り上がる。
「はい、サクラの僧の護衛兵してるんです。その中でも」
あたりの空気が一変した。普段空気の読めない奴だと言われる摘希でもわかるほど、女の目や周りの客の目がまるで道端に転がるゴミを見るような目に変わった。
「あの…えっと…」
耐えきれずに口を開くと女はふんっと嫌な感じの顔をして、また店の前に立った。
周りの客は小声で何か話している。
確実に摘希への非難の言葉であることは会話の節々に出てくる単語で想像はできた。
それでも摘希は悪口にはなれていた。教育課程では見た目や親がいないことをからかわれることなんて日常茶飯事だったし、訓練兵時代も変わらずむしろ、日々の辛い訓練でストレスのたまった生徒から酷いいじめにあったこともあった。
摘希はいつもそんな時は笑ってやり過ごしていた。
面白い面白い。人生は面白い。いろんなことがあって面白い。
同期の訓練兵から銃の的にされた時もそう言ってやりすごしていた。
本当の弾が入っているわけではない。死ぬわけではない。
そして何度も気を失った。
摘希は目の前のもう味のしない団子を一気に頬張り茶で流し込んでお勘定と言った。
一刻も早くこの場から抜け出したかった。
「はい、千ね」
「えっ!?」
驚いた。たかだか団子五本でこの金額はおかしい。
摘希がそう言うとまた女は眉を釣り上げた。
「なんだい?サクラの人間だろ?千くらい米のカス程度のもんだろ。だいたい、金を気にするなら最初に聞いておくんだね」
これは差別だ。サクラの住人とゆうだけで、この女は適当な値をつけたに違いない。
しかし、団子の値段を気にしなかったのも事実だ。
摘希は渋々、財布を取り出した。
こうやってやり過ごすことでまたいつもの日常に戻れるならそれでいいじゃないか。
摘希は笑った。
面白い。面白い。人生は面白い。いろんなことがあって面白い。
「んなわけないだろ。兵隊さん」
ふわりとお香の匂いがして、横を見た摘希はひっくと息を飲んだ。
そこには、絶世の美女が立っていた。
黒く長い髪を簪で一つにまとめ、そこからほろほろと髪は垂れていたがまたそれが色っぽく更に白く美しい肌に一つだけ、唇の端に小さな黒子が一層色気をだだよわせていた。
鮮やかな紫の着物の間からは長い足がちらりと見える。
「ちょいと、値段盛ってんじゃないわよ。盛るのはその化粧くらいなさいな」
「ま、松乃!あんたいつの間に」
派手化粧女の顔色が変わった。
「悪趣味な匂いがする団子屋から悪趣味なぼったくり臭がぷんぷんしてたからね」
「なんだって?なめた真似してただじゃすまな」
「なめた真似はどっちさね。このネコババアが」
松乃はカウンターによりかかっていた体をすっと動かすと後ろを振り返り近くの席にいた強面の男に話しかけた。
「あら、ヤッサンじゃないの。ねぇ、ここの団子っていつもこんなに高いのかい?」
「いぃやあ、せいぜい五ってとこだね」
強面な顔は何処へやら。松乃に言い寄られた男の顔はだらしなくニヤつき、即答で女の悪事をバラした。
「ほーら、五だってよ。お兄さん」
「あ、は、はい」
摘希は美女のこれまた美しい手に金をのせた。
「はい、どうぞ」
金を差し出された女の顔はみるみるうちに赤く染まり言葉にならない奇声を発してぶっきらぼうに松乃の手から金を受け取った。
「2度とくんな、この他所もんが」
女はそう言って摘希を睨んだ。
摘希はうつむいたまま店を出た。