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ハナマチの子供


「あれ、兎都君一人ですか?」

兎都はあからさまに嫌な顔をして元気よくカツラ屋の扉を開けた摘希を睨んだ。

あの事件の後、波護は少し出かけてくると言ったまま3日間帰ってきていない。

兎都は丁度のんびりできる時を満喫していたところであった。

そんな空気も読まず摘希はソファに寝転ぶ兎都を見下ろした。

「波護さんは?」

「当分帰ってこないんじゃない?知らないよ」

「知らないってなんですか?家族も同然でしょ?」

兎都の大きな目が細くなりぽっちゃりな青年をまた睨んだ。

「波護に用なら帰れよ」

冷たくそう言い放つ。それでも摘希は気にせず近くにあった椅子に腰掛け店の中をぐるりと見回した。

「兎都君はいつからここにいるんですか?」

「お前、仕事はいいのか?」

そういえば、珍しく洋服を着ている。着物が主流なハナマチではさぞかし目立つだろう。

「はい、今日は休日です」

兎都は心の中で舌打ちした。

「ハナマチって子供はほとんどいないと思ってましたけど、兎都君みたいに働く子供もいるんですね」

そう対してかわらない若者に子供と言われるとなんだか腹が立つ。

ハナマチは大人の商売の街だ。そこに子供がいては邪魔になると言うものも多く、生涯独身者ばかりだった。もちろん結婚して子供ができたものもいるが、実際のところ子供への待遇が悪い。教育はおろか子供の日用品はまったく売っていない。

それ故にサクラの病院で産んでそのままサクラに出生届を出す。そうすればサクラの住民として認められるがハナマチを出た罪で母親は罰せられ、牢屋に入れられてしまう。

さらに、こちらから子供に会うことも許されないので子供がサクラで育ちハナマチまで会いにくるしかない。

しかし、サクラの里親団体はとてもお節介で、成長してもハナマチに送り出すことはしないので子供が成人するまで本当の両親に会うことすら許されない。

やはり、サクラの人間はハナマチへの悪いイメージは今でも変わらず治安が悪いのも知っているので、まともなサクラの人間は出向くことはほとんどない。大体金持ちの馬鹿息子か異国人か兵隊くらいなもんだ。

サクラがハナマチを拒絶するのと同じくハナマチの人間もサクラを拒絶していた。


ハナマチを出汁に商売して恵まれた生活をしている。


ハナマチの人間は少なからず、五の都のこの理不尽な世界を非難している。しかし、こうなるほか生きる術がないので皆口を閉ざして働くのだ。


そんなことも知らずにサクラのこの呑気な兵隊はここに来てるんだろうなと、兎都はため息をついた。

「僕はよそ者だから」

「へ?」

よそ者だから、この世界の人間がどう思おうがどう生きようがどう死のうが気にすることはない。

ただ醜いなぁと思う

兎都の生まれた世界はそんな争いごとも不満も何もなかった。

しかし、最近ではその記憶が少しずつ薄れて行くのを感じる。

「兎都君ってどの国から来たんですか?」

そんな兎都の悩みもハナマチの悩みも気にせずズケズケと質問してくる摘希を兎都ははじめて殴りたいと思った。

「教えるか、デブ」

兎都は完全に彼からそっぽを向いて目を閉じた。

後ろでまだ摘希が騒いでるが気にしない。目をつむり、夢をみるのだ。


きっと夢は生まれ故郷と君だ

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