風鈴屋
兎都はまた屋根の上を飛び回って五人大将とその取り巻き、そして囚われた砂鬼を追っていた。
以前、波護に五人大将のことを聞いたことがある。
すると彼は一言
「五人ともデカイ。壁みたいに」
と言った。
適当に返答されたと思っていたが、確かにあの姿を見たらそう思わずにはいられない。
あそこまでの威圧感を始めて感じた。砂鬼にも威圧感は感じるがまたそれとは別物だ。
それが五人いるのだから、恐ろしい。もし、五人に囲まれでもしたら一瞬にして自らの死を悟るだろう。
兎都はそれを避けるように一定の距離を保ってあとを追っていた。
それにしても、どうして奴らはこんな入り組んだ通りを歩くのだろう
先ほどからハナマチの土産屋通りからだいぶ外れたところを歩く一行はどんどんハナマチ兵隊本部から遠ざかってゆく。
このままサクラまで砂鬼を連れて行く気だろうか?
リリン
その時、風鈴の音がした。
それがまるで合図かのように男達の叫び声が響いた。
兎都はその叫び声のする方へ近づき慎重に屋根の上から下を見下ろした。
そこは家と家が背を向けできた空き地だった。まるで、カツラ屋と同じような空き地だ。そこに古びた噴水があり蓮の花のオブジェから水が流れ出ていた。その水は無残にも殺されたサクラの兵達の血で赤く染まってゆく。
「もうちょい早めに殺らせてくれよ。これじゃあまた風マに怒られるじゃないか」
砂鬼はサクラの兵隊に刺さったナイフを表情一つ変えずに抜き取っていた。
「簡単に言うな。通りで殺られては誤魔化しがきかんだろう」
部下は全滅しているとゆうのに大将の身に傷一つない。まるでこうなることを大将自身が仕組んだかのようなもの言いだ。
兎都はごくりと生唾を飲み下した。
兎都の予想していることが本当ならこれは五の都はじまっていらいの大スクープになる。
「風マはまだか?」
と、大将。
「彼が時間通りに来たことある?」
「それもそうか」
「ひどいなぁ」
まるで風の中から聞こえてくるような声は静かにやってきた。
リリリン
また風鈴の音がする。
声のする方に目を向けると、男が一人立っていた。男は長身でつぎはぎたらけの帽子を被り赤毛でヘラヘラと笑いながらやってきた。耳に小さな風鈴のピアスをつけている。
どこかで見たことがあると思っていた兎都だったが、耳の風鈴を見て直ぐに察した。
あいつは風鈴屋の風マだ
兎都はその時やっと気が付いた。この空き地の噴水の真向いには風鈴屋があるのだ。
「さっきまで僕が一番ノリだったなのだけど、邪魔者を見つけてね」
呆れている二人の足元に風マは一人の男を軽々ほおって見せた。
その男を見て兎都は驚く。
「おやおや、ハナマチ副隊長がどうしてこんなところへ?」
砂鬼はしゃがみ込み将仁の顔を覗きニタニタと笑った。
殴られた後なのだろう。将仁はヨロヨロと必死に立ち上がろうとしたがその場に力なく崩れた。
「しっかり君たちの話を盗み聞きしていたから殺そうかと思ったのだけど、あんたの子供がハナマチで兵隊をしているって聞いたことがあるから、そのまま引きずってきた」
こいつも異常だと兎都は感じた。
まるで、道を歩いていたらたまたま蟻を踏み殺してしまいそうになったかのような物言いだ。
「そんな奴は知らん。ほっとけ」
「へ~なら殺してもいいよね?いいよね?」
砂鬼の目つきが変わった。
それを風マが止める。
「本当にあんたの子供じゃないの?」
大将は黙ったまま風マの目を睨みつけた。まるで、獣のような目を向けられているとゆうのに風マの表情は何一つ変わらない。
「どうして、王直属の……五人大将のあんたが……」
かすれた声で将仁は大将を見上げた。
「王への裏切りか?それとも王がこの国を裏切っているのか?」
「お前には関係のないことだ」
「その……秘密を知ったから…母を殺したのか?」
「……王の命令だ」
「王の命令なら家族も殺せるってことか。外道だな。最低な外道だ」
大将は将仁の頭を踏みつけた。
「外道であろうとなんであろうと、王は絶対的な神。その神を逆らうことこそが最低であり外道なのだ。そんなことも分からずに乳臭いままの男め。だからハナマチ送りになったのだ」
「狂っている」
狂っている
兎都も将仁と同じことを思った。
「何とでも言え。小蝿が。風マ、この死体どもはどうする?」
「大丈夫、葬儀屋に頼むよ。彼なら綺麗さっぱり何もなかったかのようにしてくれるさ」
「そうか。ならば、こやつらはハナマチの一人の兵によって殺されたとゆうことにしよう。動機は父親に捨てられた腹癒せ」
「それじゃあ、大将の株が下がりはしないかい?」
「王への冒涜ゆえに追放されたといえば皆納得する」
それに対して砂鬼は大笑いした。
「大将あんたほんと外道だよ」
「砂鬼の言う通りだ、あんた外道だ」
「なんだ?運び屋の頭が言えた義理か?」
運び屋の頭!?
「その外道に外道なもん運ばせてる王様はどうなんだ?」
「王の全ては肯定される」
「はいはいそうですか」
兎都はこれで確信した。
運び屋と王はつながっている。
「ではあとは頼んだ」
大将は長いマントを翻し彼らに背を向けた。
「ちょっと、このボロ雑巾どうするんだよ」
風マが笑いながらそう言うと大将は振り向きもせず好きにしろと言った。
「だってさ、副隊長さん。酷い父親だねぇ」
「風マ!殺す?殺していい?」
まるで餌を待つ犬のように砂鬼はギラギラした目で風マを見た。
「ダメだ。彼はこのままにしておこう」
「へ?どうして?それじゃあ、大将の言った誤魔化しにならないんじゃない?」
「なんでもかんでも奴の言いなりになんてならないさ。それに好きにしろって言ったしね」
風マは将仁を跨ぎ、元来た通りに向かった。
「それにきっと彼はいいカモになる。僕はね、砂鬼。この偽りだらけの国がボロを出して自ら崩れ落ちるのが見たいのさ」
そう言うと彼等は風の如く消えて行った。
風鈴の音はまだ鳴りやまない