家
「着いたよ~」
聞いていたら思わず力が抜けてしまいそうなアレクの暢気な声が聖の耳に届いたとき、聖は我が目を疑った。
まず視界に入ったのは三角屋根が印象的な家。屋根には煙突が2つと出窓が3つついているのが見える。2階建てだろうか、全体的に暗めの茶色のレンガでできていて窓枠や扉などは黒で縁取りされていてそれがアクセントになっていた。
その周りに赤や白等の色鮮やかなバラが広がっていた。種類もたくさんあるみたいで家の周りを目隠ししてまるで壁のように囲って咲く生垣タイプのものと敷地の入口と思われる所にアーチ状に伝ってい咲くタイプのものなどいろいろなバラがそこにはあった。まるで計算をされたかのように整然と咲いてる花たちをみるに、こまめに丁寧に手入れをされているのを想像するのは難くなかった。
華やかなバラが咲き誇る土地の真ん中に歴史を感じさせる、と言えば聞こえはいいが率直に言えば古臭いくたびれた家があるこの光景は歪でありあまりの異様さに聖は一瞬、背筋に冷たいものが走ったように感じた。
「どぉ~?素敵な家でしょ~?外観もさることながら今まではよく住む場所も転々としてたんだけどあまりの居心地の良さにもう結構長いことここにいるんだよね~。なんたってあの屋根の…」
「え、あぁ…そうね。」
目をキラキラさせながら話し続けるアレクに、お世辞にも素敵とは言い難い建造物をまえに曖昧な返事しか出来ない聖だったがそれよりも重要な疑問があったことを思い出しアレクに問いかけた。
「それよりも。私たちはさっきあの草原にいたじゃない?」
「…ってことで、え?!うん?それがどうしたの?」
いきなり話題が変わったことにきょとんとしたアレクだったが聖の剣幕に負けたのか続きを促した。
「なのにどうしてここに?あなたの手に触れたと思ったら次の瞬間にはもうここにいたのはどういうことなの?」
先ほど一緒に行く決心をした聖は差し出されたアレクの手をとったその次の瞬間にはもうこの場所にいたのだった。
…まるで瞬間移動でもしたかのように。
状況が理解できない聖はそんなファンタジーかSFみたいなことが頭をよぎった。
そんなこと起こるはずがないと思いながらもただ現実に体験した聖には何が起こったのか分からず“答え”が欲しかったのだ。
「どういうことも何も移動の魔法を使っただけだよ。さっきの場所とここは歩いて行けるくらいすぐ近くなんだよ。本当ならこんな近くの距離では使わないんだけど今はこんな状況だし。」
なんでそんなこと聞くの?とでもういうような顔をしながらアレクは答えた。
「ま、魔法…?!そんなことって…」
アレクから返ってきた“答え”は聖を動揺させるに十分なものだった。
「何をそんなに驚いてるの?まぁ確かに使える人は少ないけどでも…」
そういってアレクは聖の髪に触れながら話す。
「一般人ならいざ知らず、こんなに綺麗な黒髪と黒目、両方持ってるなんてかなり珍しいのに今まで全く魔法に関わってこなかったことなんかないでしょ…?」
まるで何かを探られているかのように聖の目をまっすぐ見つめてくるアレクの視線に聖は耐えきれず、思わず目をそらしながら言った。
「そんなこと言われても私は魔法なんて知らない。漫画や映画じゃあるまいし…」
「ええええええええええええ?!」
そこまでいいかけて聖の言葉はアレクの絶叫によってかき消された。
「そんなこと…魔法を知らない…??」
あまりのアレクの驚きように聖もまた驚いた。
「そんなことは…」「でも…」などあごに手を当てながらなにかブツブツ何かつぶやいてるアレクに二の句を告げずに立ちすくむ聖だったが「まぁ、いいか」の言葉とともにアレクは顔をあげ聖に言った。
「ここじゃなんだし。家に入ろっか」
顔はにっこり笑っていたが聞きたいことがいっぱいあるんだというのが聖には容易に見て取れた。