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魅了する瞳

「さっきは本当にごめんね!」

青年は自身の顔の前で両手を合わせて聖に許しを請う。

「いえ、それはいいんですけど。あ、あの…。」

戸惑う聖をよそに青年は体全体を使い身振り手振りで話し続ける。

「僕ってば熱くなちゃうと周りが見えないっていうか…、聞こえなくなるっていうか…」

「あなたは一体…」

話をしたい聖は背中を向けてしまった青年に問いかけるが声は届いていないようだった。

「でもね!!」

「!!!!!!は、はい!!!」

聖は唐突に発せられた大きな声に思わず返事をしてしまった。

 振り返った青年の瞳には今までのフワフワした印象からうって変わり強い意志のようなものが感じられた。


「どこから来たのかはわからないけど、無事でよかった…。」

「え…?」

思いもよらなかった言葉に聖は驚きの表情を見せる。


 その瞬間、サァ―と風の音がした。

周りの草花は音を立て風の吹くままにその身の流れを任せ靡き、青い香りが辺り一面に広がる。

聖は黒く長い髪が風になびき顔にかかっていた。普段ならうっとうしく思いすぐにかき分けるのだが。


 だけど今はそんなことは気にはならなかった。


ただただ、目の前にいてる青年の瞳から逃れられなかったのだ。

自分と同じ真っ黒の瞳にまるで吸い込まれてしまいそうな錯覚まで聖は感じてしまっていた。


 青年は聖に手を伸ばすと聖の顔にかかっている髪をそっと払った。


 聖に臆することなく触れてくる異性といえばまりやぐらいなもんで、自身の片割れに触れられたところで思うことなど何もない。だがそのほかの人間は違った。聖を前にすると触れるどころか緊張で話すことすらできない者たちだらけだった。

 そんな事情があり聖は全くの他人の異性に触れられることなど今までなかった。


 あまりに自然な行為に何をされたのかわかるまで少し時間を要したが理解した瞬間頬を少し赤らめた。ただ、髪に触れられただけでも恥ずかしさでいっぱいになった聖はパクパクと声にならない声を発していたが青年はそんな様子に構うことなく一房掴んでいた聖の髪を自身の手から滑るように離すと

「とても綺麗な髪だね。」

 目を少し細めまるですべてを包み込むかのような穏やかな表情に耳にスッと残る落ち着いた声色で青年はそう発した。


 

 聖の顔が先ほどとは比べ物にならないほど紅潮したのは言うまでもなかった。






*****



「にゃ~」

足元から聞こえた猫の声に聖はハッと我に返った。

それと同時に青年が「どうしたの~?おなか減っちゃったぁ~??」と先ほどとはうって変わりまるで子供に話しかけるように言い、猫を抱え上げた。

「その猫、あなたの猫なんですか?」

片手で猫とじゃれあいながら青年はうーん、と呟いた後

「まぁ、僕のといえばそうかな?一緒に住んでるからね」

その言葉に安堵した聖は言葉を続ける。

「私、その猫についてきてここまで来たんです。信じてもらえないかもしれないけれど目が覚めたら突然この山にいて…。」

 聖の表情はそういいながらだんだん曇っていき、顔を下に背けてしまった。

いきなり何を言い出すのかと、変な者を見る目で見られたらと思ったらとてもではないが顔を上げていられなかった。

 この人に見捨てられてしまっては本当に独りになってしまう。

その恐怖がどんどん聖の心の中に湧き上がっていく。


「ねぇねぇ、僕はアレクっていうんだけど君は?」


またしても思いもしなかった言葉に聖は耳を疑うが、戸惑いながらも顔を上げ

「わ、私は白雪 聖って言います」そう答えた。

「シラユキヒジリ?変わった名前だね。これから何て呼んだらいい??」

「なんとでも…聖って呼んでくれたら…えっ!!!」

 その言葉の意味に気付いた時、聖の顔には喜びの表情が広がった。

それを見てこの青年、アレクはフフッと微笑んだかと思うと

「なんか事情があるみたいだね。僕でよかったら力になれるかもしれないし。」

「アレク…さん。私の話信じてくれるの…??」

自分でも信じられないのにこんなすんなり話が通じるとは思ってもいなかった聖は安堵と喜びと少しの不安の混じった声で話す。

「まぁ、詳しく話を聞いてからね。じゃあ行こうか、聖。」

「どこへ…??」

「決まってるじゃないか!僕たちのおうちへだよ。」

そう言いアレクは聖にほらっと手を差し伸べる。


 いくらここが知らない土地で何時間も歩いてやっと出会えた人とはいえ見知らぬ男性においそれとついて行っていいものかどうか聖の思考をかすめた。が、先ほども猫について行き結果会えないと思っていた人間に会えたのだ。ここで一人でいるのも危険ならば今は自分の選択を信じよう。


この人は“大丈夫だと”そう自分自身がいっているのだから。

 

 もしかしたら自分は真っ黒なあの目に吸い込まれ魅了されてしまったのかもしれない、ふとそんな考えが聖の頭をよぎったがばかばかしいと振り払い聖は意を決して自身の手を差し出された手に重ねた。








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