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黒髪の青年

 トトトトトトト…。

「……。」

 トトトトトトト…。

「……。」

 

 周りのことには一切目もくれずこの黒猫は“獣道”をまっすぐ進んでいく。途中でネズミほどの大きさの小動物が現れたが見えてなかったのか、はたまた興味がないのか構うことはなかった。

 子猫ほどの小さな黒猫の後を必死に追いかける自分。聖は一瞬そんな考えがよぎったがいささか情けない姿が脳裏に映し出され、首をブンブンと振り考えるのをやめる。

 今はこの黒猫が糸口打破の鍵を握っているんだと。普通に考えればおかしな話かもしれないがこのときは不思議なことに自分の選択は間違ってはいないはずだ、と強く感じていた。


 ついて行くと決めて少し歩いた頃。聖は“森”だと思っていたこの場所が“山”であると気付く。

山とは言うものの歩いているだけではほとんど気にならない程度の傾斜で、山を登っているような辛さはほとんど感じられない。

 先ほどの場所からは登っているみたいだった。上のほうに家でもあるのか、むしろあってほしいと祈るような気持ちで聖は黒猫の背中を追っていた。


 

 

 ***



 

 いくら傾斜が気にならない程度と言え、休憩なしで歩き続けるにはいささか聖の体力は追いつかなかった。今日に限って腕時計を忘れ、確かに充電したはずのケータイも何故か画面は真っ暗で電源を入れても何も変化はなかった。そんな状況であるので聖は時間を正確に把握できるすべを持っていなかったのだ。


 体感する時間にして歩いていたのは1時間ほどだろうか。ゴールは意外なほど早く着いた。

聖たちの通っていた獣道は左右に花と木が綺麗に茂っていて進むべき道を示してくれているようにも感じたのだが突然それが明けた。

 そこは草原だった。カスミソウや白つめ草のような小さな花も所々に咲いており、まるで映画のワンシーンを切り抜いたかのような空間が広がっている。

だがどう考えてもここに家がある雰囲気ではなかった。

 

 着くや否や黒猫は正面奥にある大木のほうにかなり速いスピードで駆け寄って行ってしまった。

聖は分かってはいたもののもしかして、と黒猫に一縷の望みをかけていたのだ。

その望みも打ち砕かれ、ここに登ってくるまで誰一人すれ違うこともなかった。、どこかもわからない場所で孤独と不安が急にこみ上げてきた。

 自然に瞳に涙がたまってくる。泣かないように踏ん張ろうにも後からあとから押し寄せてきて、とうとう一筋の涙が頬を伝った。「まりやぁ…。」声になるかならないかのか細い声で自身の片割れの名前を呼ぶ。

 いつもなら聞いているのかとでも言うようなタイミングで目の前に現れてくれるのに今回はいつまでたっても現れてはくれない。

その事実に胸が締め付けられる思いに駆られた聖だったが、その時。どこからともなく声が聞こえた。

「ふふ。今日はなんだか甘えたさんだね~。え、違う?そんなに怒んないでよ~」

聞き間違えかと思った聖だがそうでは無さそうだった。

声の主は青年のように聞こえる。

 誰かいる!そのことに喜びを隠しきれない聖はさっきまでの涙などとうに引っ込み声の主に近づこうとした。

同じころ、木のほうでは先ほどの黒猫に引っ張られて声の主と思われる日青年が引きずり出されてくるのが見えた。

「ど、どうしたの?そんなにひっぱって…。」

出てきたのは黒髪・黒目が印象的な青年だった。

目にかかりそうなほど長い前髪。肩まである髪はパッと見ただけでも長さが揃っていないのがわかるぐらいざっくりに切られていた。だが、少しタレ目で鼻はスッと通っており肌も白い。雑な髪型もまるで気にならないほど青年は美しかった。

 暫く見とれていた聖だったがハッと我に返り、口を開こうとした。その時青年がすごい勢いで聖に近づいてきた。

青年は聖の肩をガシっとつかんだかと思うと体を前後左右に揺しながら「ねぇねぇ、君なんで髪の毛黒いの?!」「目も黒いの!?」「なんでこんなところにいるの!?」「今までどこにいたの!?」興奮しているのかすさまじい早口で捲し立てられ、突然のことに聖は「ちょ、ちょ苦しい…。」とつぶやくことで精いっぱいだった。




 

 



 




 

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