白雪 聖
「「行ってきまーす!!」」
玄関まで見送りに出てきていた母親に二人は元気にあいさつをする。
まるで示し合わせたかのように寸分のずれもなく綺麗にハモられた挨拶はそれだけで聞くものの気持ちを暖かくし魅了するのだった。
「にしても、聖ってば降りてくるの遅かったよね。あとちょっとで食べられたのに~」
学校に向かう道を二人並んで先ほどの彼が歩きながらケタケタ笑いながら言う。
彼の名前は白雪 まりや
容姿や背丈は聖とまるっきり同じで彼もまた歩くだけで人を強く惹きつけてやまない見た目であった。
ただ一つ、違うとすれば髪の長さぐらいなものだろうか。彼は耳が少し見えるぐらいから肩口にかけての長さで綺麗に整えて切られているショートスタイルだったから。
二人は生まれた時から少しまえまでは片時も離れず一緒に生きてきた双子だった。
「っていうかちょっと食べてたでしょ」
「あれ、ばれちゃってた?」
少し不満げにいう聖にごめんねー、許して~といたずらっ子ぽく謝るまりや。
その様子を見て聖も本当に怒っていたわけではないのでどちらともなく「ぷっ」と吹き出し二人でケラケラ笑い出していた。
聖はその容姿ゆえに初めて会った者のかけてくる言葉は決まっていた。
「こんなに可愛いお嬢さんは初めて見た」
「なるでお人形さんみたいね」
「娘になってほしいわぁ~」
大人にはその様な見た目の賞賛しかもらえず中には教師ですら露骨に贔屓したりする者もいたので同級生とりわけ女子には今までたくさんの嫌がらせをされていた。まりやがそばにいてる時だけはいじめもやみ、女子たちは手のひらを返し態度が180度変わる“友達”として接する。ただ、双子は同じクラスになることはないのでいつまでもそばにはいない。まりやがいなくなるとまたいじめは再開されるのだ。
みかねた男子がかばってくれたりもしたことはあったが謂われもない中傷をうけ、かえって火に油をそそぐ結果になるだけであった。
努力してテストでいい点数を取っても教師には見た目しか褒めてもらえず、同級生には贔屓されてると言われ色々ないじめが続く生活に聖はとうとう“見た目しか見てもらえないなら人と関わっていても仕方ない”と考えるようになってしまいいつしか心を閉ざしてしまった。
聖にとって、まりやと接している時だけが心安らぐ時間でありまた見てくれなど関係がない“白雪 聖”と言う人物をきちんととらえてくれる人なのであった。
家の前から続いていた車一台通れるかどうかぐらいの狭い路地を抜けたとき
「じゃあ、俺こっちだから。」
そういってまりやは一瞬不安げな顔をしたがすかさずにっこり笑いながら高く掲げながら手をふり、自身の学校に向かっていった。
中学までは同じ学校であったがいくら双子とはいえいつまでも一緒にはいられない、と高校からは別の道を歩むことを決めた。
いつかまりやに「俺、双子なのに全然聖のこと守れてない。」と泣かれてしまったことを聖は思い出す。
そんなことない、こうしていてくれるだけで救われているんだ。と二人で泣き明かした夜も多々あった。
最初は離れて過ごすことに不安が募っていたが1年も経てばそれにもすっかり慣れていた聖だった。
ただ、人となれ合う気のない聖は教室に入ればいつも一人、教室の隅で過ごしていた。