始まりの朝
ピピピピ…
小さな6畳ほどの部屋に目覚まし時計の音が響き渡る。
まるでミノムシのように布団にくるまって寝ているこの部屋の主は、枕元に置いてあるそれを布団からのそのそと手だけをだし止めた。
「もうこんな時間…」
名残惜しそうにのそっと起きだし座り込んだかと思うと顔にかかっていた長い髪を払う。
何気なく時計を見ると時刻は午前6時30分を少し回ったところだった。
彼女の名前は白雪 聖。
背中まで伸びた思わず触れてしまいたくなるような艶のある黒く長い髪。キメ細かく透き通るような白い肌。意思の強さを思わせるように少し吊っているようにも見える大きな目。背は160センチほどだろうか。痩せすぎず付きすぎず、然るべき所に適度に肉付きがあり引き締まっている体は“痩せていればいるほど綺麗”と思っている同世代の女の子と違い健康的に見える。
長かった寒い時期は過ぎ、最近は日差しも暖かくそして光まぶしく感じられるようになってきた。だがそれは日中の話で、朝方はまだ少々肌寒い。
少しでも暖を取ろうと無意識に腕をさすりながら、ベッドのすぐ近くにあるカーテンと窓を開けるともうすっかり日は昇っており外は明るくそして少し冷たくて爽やかな空気が辺りに広がる。
「ん~、今日もいい天気だなぁ~」
大きく伸びをして体いっぱいにその空気を取り込むと例えば昨日、嫌なことがあっても心も体も空気と同じように綺麗に爽やかになれる気がして聖は毎朝こうするのが日課になっていた。
窓から見る外の世界ではお散歩してる人、犬を連れてる人、もう学校に向かっている学生、様々な人が今日を動き出しているのが見えた。
体を伸ばし、心身ともに整えたあとはこうやって行き交う人々を観察するのも日課の1つのうちであった。
何の気なしにボーと眺めていたその時、ドンドンとやや乱暴にノックがされたかと思うと扉越しに男の子の声がした。
「聖ー!起きてるの?ごはんだよー!早くおいでよー!」
その声にハッと気づいて時計を見れば時計の針は45分に差し掛かっていた。
もうこんな時間がたっていたのかと、少しあわてながら
「すぐ行く―!」
とだけ返事をるとバタバタと制服に着替えだす。
早く来ないと聖の分も食べちゃうからね~。と笑いながらまるでいたずらっ子のような口調で言い残し彼は階下に下りて行った。
やつは本当に食べかねない、と朝ごはんの危機を感じた聖はいつもよりかなり早い時間で服を着替え終えると次に鏡の前に立つ。寝起きでボサボサだった髪を少しブラシで梳いて身だしなみを整えながら
支度が終わりご飯を食べ玄関をくぐれば今日を動き出すあちら側の人間になる。そう考えると少し億劫にもなるがどうせいつもと変わらない1日を過ごすのだ、と。
このときの聖はそう考えていた。
「よし、終わりっと。」
ブラシを定位置に戻すと教科書などが入った鞄を持ち早々に部屋を出た。