側近の誤算-前
剣と魔法のRPGいいよね!勇者と魔王ものいいよね!書きたい!
で生まれた短編です。
相変わらず設定等だいぶ適当です。流し読み推奨(笑)
人と魔物がいがみあうようになって幾星霜。
最早、両者が争うようになった発端が何であったかも分からなくなった現在。
相変わらず人は、魔物の王『魔王』を討つために『勇者』という選ばれた存在らしき者を次々と魔王城に送り込む、という非効率的としか言いようがない行動を繰り返しています。
私は長い間その行為を近くで見守ってきましたが――今まで一度としてそれが成功したことはありません。
勇者たちは毎度、我らが魔王様との戦いに無残に敗北しては人間界に送り返されます。
魔王様は無駄な殺生を好みませんので、死にはしない程度に痛めつけられて。
それを幾度も幾度も繰り返すこと数十年。
…いえ、先代の魔王様の代から続いているとの話なので、ひょっとすると百年程はこの下らない戦いを続けているのかもしれませんね。
何故人は諦めというものを知らないのだろう、と私的にはまったく不思議でなりません。
今日も今日とて、新たな犠牲者(勇者+そのパーティ)がこの魔王城に訪れます。
それを見て、私は思うのです。
そろそろ、この無意味な争いは止めにしたらどうだろう、と。
ああ、申し遅れました。
私の名前はエルファニア。
魔王様の側近の一人で、しがない下級魔族です。そして、人間界との戦争反対派でもあります。
―と言っても、別に人間の肩を持つ気はさらさらありません。むしろ嫌いですね、うちの両親、何代か前の勇者に殺されましたし。
私が何故人間たちとの戦争を止めたいのか、それは魔物側の都合に依るものです。
人間たちの魔界侵略によって、魔物たちはいつでも狩られる恐怖にさらされています。
悪魔騎士やドラゴンなんかの上級魔物ですとそういった心配はありませんが、善良な下級魔族や一般魔物は死ぬか生きるかの絶妙なラインの上で日々逃げ続けるしかありません。
勇者パーティは経験値集めのため、弱者でも容赦なく倒しに来ますからね。
さらに大地が踏み荒らされて土地は痩せるわ、聖水ぶちまけられて食物が枯れるわ、なんやかんやで物価急上昇、失業者続出。
魔物たちもストレスでピリピリして給料上げろとかデモ起こしますし。
はっきり言いますと、いい迷惑なんですよねえ。
いえ、こちら側にとっては切なる問題ですよ。
―かと言って、人間界ごと滅ぼすのは(今代の魔王様なら可能かと思われます)、種族の保護、世界のバランス云々で神界からストップがかかっているらしいです。
神様とマブダチである魔王様からそうお聞きしました。
ですから、選べる選択肢としてはおのずと『人間たちとの和解』ということになるのですが――
果たしてそれに何の問題があるというのでしょう?と私は疑問でなりません。
実際問題、人と私たちがいがみ合う必要なんてないと思うんです。
私たちの配下である魔物らはめったに人を襲いません。
たまに魔界と人間界の境界に迷い込んできた人間を暇つぶしに脅かす、と言った程度で基本的にあまり接触はないんですよね。いえ、本当に。
むしろレベルアップだ、とか言って隠遁していた魔物を引っ張り出して襲ったり、わざわざ魔界に来て魔物狩りをする人間側が悪いのだと思うのですが。
…その辺はすべてこちらが悪いことになっているのでしょうね、あちらの世界では。
そうですね、理不尽ですね。
でも人間たちの世界では人間たちが正義、正しい者で、こちらは正義脅かす圧倒的悪者なのです。
価値観を覆すことは中々できないものです、この辺は文句を言っても仕方のない所ですよね。
おっと、いささか愚痴っぽくなってしまいましたね。すみません。
私自身、この戦いに疲れを感じていたのかもしれません。
まあ、あとは…私事なのですが、ぶっちゃけ、彼らが戦ったあとの魔王城の修繕が面倒なんですよね。
勝敗の分かり切っている戦闘の後、何故私が後始末をしなければならないのか…全くもって腹が立ちます。
壁をボロボロにする光魔法放つ勇者とか、死ねばいいのに。
…ごほん。
とにかく。こちら側に過失はないということを証明し、魔物たちは魔界から出ないということを約束すれば、案外簡単にコトは収まるのではないかと思うわけです。
そうと決まれば、目指すは和平です。
世界平和バンザイ、時代はラブアンドピースです。
早速、魔王様にお伝えしに参りましょう。
「…和平、だあ?」
「はい、そうです。魔王様。」
私が考えた素晴らしい計画を申し上げますと、中央に置かれた椅子にどっしりとあぐらをかいている魔王様は、不機嫌そうに眉をひそめられました。
…お行儀が悪いですよ、もう。あと、言葉使いも。
曲がりなりにもこの魔界の女王様なのですから、その辺の品位を…おっと危ないこれ以上ガン見していたら、メデューサの魔眼で睨まれちゃいます。
私は(目を逸らすのも兼ねて)恭しく頭を垂れました。
「このまま人と争うのは無益かと存じます。魔王様も、そろそろ勇者たちの相手にも飽きたでしょう?」
「まあ、それはそうだが…何故その和平とやらの条件が――『勇者との結婚』なのだ!?」
「ご不満で?」
「不満だらけだ、このボケナス!何故余が人間なんぞと結婚せねばならない!?」
「まあ、落ち着いてください。今からお話ししますから。」
ですから、魔力ダダ漏れで噛みついてくるのはやめてください。
下級魔族である私はすぐにバタンキューしますよ?あ、まずい気分悪くなってきた。
「何十年も戦ってきた訳ですから、人と我ら魔族の軋轢は大変深いものです。そこでいきなり和平条約の調印など持ちかけても、まともに扱ってもらえないでしょう。」
「ふむ、まあそうだろうな。」
「そこで最も有効なのが、魔族と人間の結婚です。人間界と魔界を結ぶ直接的かつ有力な関係を結ぶことができますから。」
「それで…余と勇者の結婚だと?」
「ええ。上手くいくかは勇者との交渉次第ですが…おそらく首を縦に振ると思いますよ。」
何十年も続く魔族との戦いを最も平和な方法で解決できるのですから、これは人間たちにしても悪い話ではありません。勇者もきっと、承諾するでしょう。
あと、魔王様は(顔だけは)大層な美女ですからね。しかも巨乳だし、スタイルいいし。人間の男は容姿端麗な女を伴侶として好むと聞きますので、まさか断るなんてことはないと思いますが。
「大丈夫ですよ、魔王様。今代の勇者は貴女好みの美形ですよ。…ご覧になります?」
「む。確かに随分整った顔立ちをしているな…って、か、顔で釣ろうとしたってそうはいかんぞ!」
「東の大国の第一王子で、勇敢且つ聡明、誰にでも分け隔てなく接する好青年…らしいですよ?」
「………。」
魔王様が無言になりました。なかなか食いついてきているようです。
もうひと押しですかね。
「あと、何と言っても今回の勇者は歴代の勇者たちよりも遥かに強いらしいです。魔力も剣術の腕も桁違い。恐らく現存する人間たちの中で最も強い者と思われます。」
「……ほう。」
あ、今度は返事が返ってきました。
目を輝かせて私の方を見る魔王様。完全に乗っかって来たようです。
魔王様は美形と強い男に多大な興味を示されますからね。今回の勇者はうってつけですね。
「調査によると、勇者率いる一行はすでに魔王城の近くまで来ているようです。どうなさいます?お会いしますか?」
「ま、まあ…一目見てから決めても遅くはなかろう。」
「はい、かしこまりました。」
「いや、会ってみるだけだからな!変な意味はないから!」
「ええ、分かっております。」
ふふ、そう言ったヒロインの心は八割方相手に傾いているのですよ、魔王様。
相変わらず単純で助かります。
さて、結界を少し弱めて勇者たちのパーティを待ちますかね。
私は恭しく礼をして、謁見の間を後にしました。