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アフィニア航界日誌  作者: 皇 圭介
第一部 クリスタ王国編
6/10

第005話 「新発明?」

 戦い終わって。

 残ったのは、報告のあった魔物(モンスター)とは別の、レベルの違う大物の死体だった。


 俺とタロスさんとの共同戦線、激しい戦い(バトル)の相手、あの魔獣サラディオルは。

 

 結局、数十分後に帰ってきた(とう)さまとカインさんによって、あっさり倒されたのである。

 もう少し遅ければタロスさんは危なかっただろう。

 それほどの怪我を負っていた。


 だけど・・・、(とう)さまは本当に強かった。

 そうでなければ、戦功著しい者に与えられる士爵などに叙されるはずがないのだが。

 それよりも意外だったのはカインさんだった。

 魔獣の親の方は(とう)さま、子供の方はカインさんがほぼ1人で倒してしまった。


「カノンさま、実は意外にお強かったのですね」


 心底驚いた表情をつくる。


「いや、それ失礼だから。あと名前、君、やっぱりワザとやってるだろそれ?」

「お約束は大事です」

「いや、意味分からんから、それ」


 俺、これでも若手No.1なのに、とかいう声が聞こえるが、とりあえず放っておいて(とう)さまの所へ向かう。

 (とう)さまは今だ厳しい顔をしたままだ。


「アフィニアか」

「はい、父さま」

「何故、逃げなかった?」

「でもそしたらタロスさんは・・・」


 ふう、とため息をつく(とう)さま。


「そんな事はお前には関係がない。我々は騎士で、わたしの家族とはいえお前は民間人だ」

「・・・はい」

「連れて来たわたしの判断ミスもあるが、お前は襲われたあの時、逃げるべきだったのだ」


 確かに(とう)さまの言う事は、正しいのだろう。

 だが。


「無理です」

「・・・アフィニア」

「僕は父さまの娘です。だったら、どれだけ間違っていようとあれが僕の(ただ)一つの答えです」

「・・・そうか」

「はい」


「・・・命だけは粗末にしてくれるな。クリシュティナにも顔向けできん」


 うん。

 心配させた事だけは間違いないんだよね。無理やり父さまに付いて来た事も反省しないといけない。

 母さま、怒るだろうな。


(とう)さま、ごめんなさい」

「うむ。・・・だがタロスが助かったのはお前のお陰だ、ありがとう」


 にっこり笑うことで返事をする。


 これで、一つ目のお話が終わった。

 これから二つ目だ。


「それで(とう)さま、この魔獣の死体はどうするのですか?」

「どうもせん。ここで放置すると、また魔物(モンスター)が寄って来かねないから森の奥へでも捨てるつもりだ」

「では(とう)さま。屋敷に持って帰ることは出来ませんか?」

「こいつの肉は、独特の臭みがある。不味いぞ?」


 肉の臭い消しには、牛乳に漬けてから調理をすればいいと聞いたことがあるが。

 それも試してみる、として。

 だが、目的は肉ではない。


「少しばかり、やってみたい事があるのです」

「何かお前には考えがあるようだな。ならば、近くの村で荷馬車でも借りるか」

「はい。お願いいたします、(とう)さま」


 魔獣の柔らかそうな羽毛を眺めつつ。

 もう一度回復呪文をかけるために、タロスさんの所へ向かった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 魔獣の死体から羽をむしる作業は、あまり楽しいものではなかった。 

 言い出しっぺなので文句を言う筋合いはないが。


 肉は後で料理してみるとして、今の目的はこの魔獣からむしった『羽毛(ダウン)』と『羽根(フェザー)』だ。 

 俺はこれで、羽毛布団を作るつもりだ。

 いや、羽毛だけでは難しいから、羽根布団か。一つ作るのに、羽毛だと100羽分ぐらいいるはずだ。

 元の世界で調べた事があるため、多少は詳しい。

 調べた理由は忘れたが。


 こちらの世界では、まだ羽毛というものが利用されてないようなのだ。

 普通は布を何枚か重ねて被るか、あっても羊毛布団だ。

 羊はこの世界でも毛を刈られ続けているらしい。


 (かあ)さまの話だと、こちらにも数が少ないながら水鳥はいるようだが、飼育はされていない。

 飼育してみてはどうか、と思う。

 鴨肉はうまいし、羽毛布団の大量生産なんかも頭に浮かぶ。


 元の世界の技術について考えてみる。あの、こちらの世界とは比べ物にならない位の技術力。

 だがこうしてこちらの世界に来てしまって思う事は。

 道具を便利に使えても、仕組みは意外に知らないと言う事。

 ブラックボックスだ。


 自動車は便利だ。携帯も。テレビや、パソコンにインターネット。

 カメラもあればいいと思うし、他にもいろいろあるのだろう。

 だが。

 それを、こちらで作るとなったらどうやればいいのか、検討もつかない。


 時計は、歯車がいっぱい入っているぐらいにしか分からず。

 そもそも電化製品など、電気の作り方が分からなければ使用できない。

 ダイナマイトとか、この世界の戦争を一変させそうだが、導火線に火をつける所しか思い浮かばない。

 火薬の作り方とか、硫黄ぐらいしか材料知らないし。


 なので、多少でも前の世界の情報が生かせて俺はうれしい。


 結局、俺はこの日の数日後、屋敷の皆に手伝ってもらって羽根布団を数枚完成させた。

 出来としては、まあまあといった所だったが俺は満足し、さっそく(くる)まって寝た。


 後日、この羽根布団の1枚を(とう)さまが王様に献上したため話題となり、貴族や商人たちの雇った冒険者達が、水鳥や魔獣サラディオルを求めて国内を徘徊するという事態が発生した。

 影響力というものは恐ろしい。


(・・・・・・)


 魔獣サラディオルの肉の方だが、臭みは多少消えたものの調理法に悩み。結局、片栗粉に付けて単純に唐揚げにしてみた。自分ではイマイチだったが、屋敷の皆には、それなりに好評だったようだ。

 こちらの世界に来て初めての料理は、とりあえず成功だった。


 それと、こちらの世界には揚げるという調理法がなかったらしい。これも新発明だろうか。

 今度は、天ぷらなども出来るなら試してみたい。


 そして。

 魔物、ダークハウンドの事をすっかり忘れていたのを思い出したのは数日経ってからだった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 俺は元の世界に帰るつもりだ。

 なので、自分にいくつかの規制(ルール)を課した。


 その一つが俺と僕の併用である。

 この日誌においては『俺』を使う事。

 もともと俺は自分のことを俺と言っていたのだから何の問題もない。だが問題なのは、美少女になってしまった外見の方である。


 こんな美少女が、俺だ何だと言っていたら変に思う奴がいてもおかしくは無い。

 俺だって変だと思うしな。


 だからといって、『私』などとはいえない。それが当たり前になってしまったら。

 元の世界で、男に戻った俺が、『私、○○なの。うふふ』などと言ってしまったらと思うと。


(・・・・・・うわぁ)


 だからこその『僕』の使用である。

 僕ならば、元の世界にもいた。ボクっ娘である。まあ、あれはカタカナだったかもしれないが。

 書いていて気付いた。


 まあ、さほど違いはないであろう。


 そして規制(ルール)は後、2つある。

 元の世界への帰り方を見つけたその時に、気持ちよくこの世界にお別れする為だ。


 一つは、(かあ)さまと(とう)さまを大切にする事。

 色々感づいてるだろうに、何も言わない両親に感謝するばかりだ。

 あと、この屋敷にいる人達も大切にしたい。

 家族だと思ってもいいぐらいだ。


 もう一つは、この世界で親しくなった人を見捨てない事。

 困っていたら助けてあげたい。

 後悔を持ったままこの世界を去りたくは無からな。

 あくまで自己満足でしかないが、それでもいい。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「シャーリー、こんな事までしなくても・・・」

「いえ、アフィニア様。やらせて下さい」


 ここはお風呂。

 なぜかシャーリーが背中を流してくれる事になったのだ。


 この世界でお風呂というと水風呂が普通だ。

 お湯につかる習慣はなかったようだが、俺が魔法でお湯に変えて入浴しているうちに、屋敷ではそれが当たり前になってしまった。それでも、長時間浸かるのは俺ぐらいらしいが。


 中世ヨーロッパの人々は、風呂嫌いだったという話を聞いたような気がする。

 それで、匂う体臭を香水で誤魔化していたとか。こちらの世界の人達が、風呂嫌いでなくて良かった。


 中世ヨーロッパの人が風呂嫌いだったのには宗教的な理由があったらしいが。


 まあ、お風呂だ。

 作りは日本的な風呂に近い感じがする。西洋風呂など入った事などないが。


「でも、どうして今日に限って一緒にお風呂に?」


 背中を布で擦ってくれるシャーリー。


 後ろは決して見ない。見たいが見ない。今は同性なんだから、とは思うが。

 こ、これが。


 理性と本能のせめぎ合いというヤツか・・・!


(・・・先輩・・・!)


 代わりに先輩のハダカを思い浮かべて・・・って見た事なんてないよ。

 まだキスすらした事ないよ。


「アフィニア様が私に心配をかけたからです」

「心配?」

 

 そう言われて分からないほど、鈍感ではないつもりだ。


「魔獣の事だね」

「はい。命の危険すらあったと聞きました」

「意図してではないけれど。確かに危なかったかもしれない」


 少し状況が変わっていれば。

 魔獣たちがもっと早めに襲ってきていたら。逆に(とう)さまたちが途中で休憩とかしていたら。


 (とう)さまたちは間に合わなかったかもしれないのだ。


「運が良かった・・・、本当に」


 ぎゅっと背中から抱きしめられる。

 うわ。

 ハ、・・・ハダ、ハダカなんだってばよ?

 いやいやいや、動揺しすぎだ、俺。


「いいですか、アフィニア様。もう無茶な事はしないで下さい」

「いや別に、戦いたくて戦ったわけではないよ。ただ魔物が見たかっただけで」

「・・・・・・アフィニア様」

「はい」


 降参。


「もう、こんな無茶はしない。(かあ)さまにもたっぷりと怒られたしね」

「約束ですよ?」


 彼女はそう言って俺を解放してくれた。ちょっと残念だったとは思っていない。


「もし・・・、それでもアフィニア様が無茶をしなければならない時が来たら」

「・・・」


 背中に押し当てられる頭の感触。


「その時が来たなら・・・どうか、私も一緒に連れて行ってくださいませ」

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