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アフィニア航界日誌  作者: 皇 圭介
第一部 クリスタ王国編
1/10

第000話 「アフィニア」

感想お待ちしております。

 学校帰り、街の人込みの中を歩く。


 夏休み前のその日、俺の顔はだらしなく笑み崩れていたと思う。


「~♪」


 なにしろ1年間近く好意を抱き続けていた部活の先輩に、告白してやっとOKをもらったからだ。


 告白は3回。


 一度目は「あなたのこと知らないから」


 自分の事を知ってもらうよう努力した。


 2度目は「頼りない弟みたいだから」


 頼りがいのある男になるよう、勉強も部活もがんばった。


 そして3度目「君には負けたちゃった。こんな気持ちにさせられるとは思わなかったな」


「ふふふふふふ」


 いや、気持ち悪いとかいわないで。だって仕方がない! 幸せなんだから!!

 今なら夕日に向かってだって走れる。


 そう、どこまでだって行ける!


 先輩と彼氏彼女として迎える初めての夏休みを想い。


 何故かウエディングベルの鐘の音を聞き。


 子供は何人がいいかなぁと、未来をシミュレートした所で。


 突然、目の前が真っ暗になった。


(え、え、え、何!?)


 グラリと倒れる感覚。

 顔面で感じた痛みと、耳に入る悲鳴とヒンヤリとした地面の感触が、その時感じた最後だった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「・・・・成功なのか?」

「・・・おそらく成功だろうと思うが」


 まわりで聞こえる声。少なくとも一人二人ではない複数人の気配。

 ぼんやりする頭を一生懸命働かせる。


(病院かな・・・?)


 随分硬いベッドのようだが、そこに仰向けに寝かされている。

 力を込めてみるが、腕どころか指すら動かせない。


(俺、いったいどうなって・・・?)


 まったく自分の自由にならない体と格闘すること数分、なんとかまぶたを開ける事に成功する。

 だが、そこにあったのは病院の白い天井ではなかった。


(え・・・なにこれ)


 見えるのは岩肌。薄ぼんやりと照らされた岩肌が視界いっぱいに広がる。


(洞窟・・・?)


 まったくわけがわからない。

 何故、自分がここにいるのか。

 なんでこんな所に寝かされているのか。


(夢・・?)


 とにかく、情報がほしいとばかりに唯一自由になる目であたりを窺う。


 うわ、なんかいっぱいいる。

 寝かされた自分を囲うように、黒っぽいローブを着た人がいっぱい立っていた。

 うわ、目が合っちゃたよ。


「おお・・、お目覚めになられた・・・!」


 騒がしくなる周り。

 何がなんだかわからない。この状況で体一つ動かせないなんて怖すぎる。

 

(夢、夢、夢、これは悪い夢)


 まぶたを閉じれば夢が覚めて、先輩とのハッピーライフが始まるのだ。

 現実逃避ぎみの俺。

 だがそんな事など関係なしに状況は進む。


「お目覚めの気分はいかがですか?エメランディス様」


 黒ローブたちの集団を割るように、濃い化粧の女が現れる。

 30代前半といったところだろうか。

 いや、それよりも・・・。


(エメランディスって誰・・・!?)


 俺?俺が呼ばれてるの?何故何どうして?


「目覚めたばかりで混乱されるのも無理はありません」

「ですが、我々の話をどうか聞いていただきたいのです」


 混乱する俺のことなどほったらかしでどんどん話を続ける女。

 わけがわからないなりに理解した事は、


 今、彼ら(黒ローブたちね)は悪逆非道な者たちによって滅ぼされそうになっている事。

 起死回生として、太古の禁呪を使い俺をこの世界に呼び出した事。


「どうか、我々を救ってください」


 待って、待って、待って。

 これってもしかして。

 小説とかでありふれたアレ?

 魔王で勇者なファンタジーもの?


 もしかして魔王とか倒さないと、もとの世界に戻れない?

 ってか、ここ異世界?異世界なの!?

 日本でないの?地球でないの?

 

 ようやく始まったばかりの先輩との甘々な恋愛生活が!!!!

 

(いぃぃーーーやぁぁぁーーーーー!!)

 

 声が出ないので心で絶叫。

 やっとのことで告白OKもらって、その日の内に異世界召喚だなんて。

 天国と地獄だなんて。


(ひどすぎる!!!!!)


 だが、状況はこれで終わりではなかった。


 突然、ザワザワとさわがしくなる周囲。

 そしてガチャガチャという音と、一際大きな声。


「全員つかまえろ!一人も逃がすな!さからえば殺してもかまわん!!!」


 え、何?悪い奴等、もう来ちゃったの?

 魔王とか、倒されるまで城で待ってるもんじゃないの?

 俺、体動かないよ?どうするの?というか、どうしたらいいの!?


 その後はもう、大混乱としか言いようがなかった。


 物が倒れる音とか、ガチャガチャいう音(どうやら金属鎧の音らしい)、ドシュッとかいうなんかやばげな音、助けを求める声、そして悲鳴。


(先輩、先輩、先輩・・・!)


 目をつぶって現実逃避を続けていた俺は、いつの間にかあたりが静まり返っていたのに気づく。

 そして、ゆっくりとこちらに向かって来るガチャガチャという音。


(ち、近づいてくる・・・!!!)

 

 その音が止まった時、恐怖に俺は思わず目を開いてしまった。

 そして目に映る、返り血に染まった金属鎧と真っ赤な(つるぎ)


(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!!)


 気絶しなかったのを褒めてもらいたいぐらいだ。

 今まで16年生きてきて、これほどの恐怖を味わったのは初めてだ。


「ム・・・!どうやら怯えさせてしまったようだな」


 騎士風の男はそう言って(つるぎ)をどこかにやると、にっこり笑ってきた。

 正直に言うと怖かった。

 何か、無理して笑い顔を作っている感じが。


「まったく、こんな年端もいかぬ娘を生贄にしようなどと」


 娘?生贄?

 何いってんの???????

  

 騎士に抱き上げられた俺に見えたもの。それは、俺の体だった。




 自由に動かないその体は・・・女の子のものだった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「本当に間に合ってよかった」


 騎士はそういって俺を抱きしめる。

 男に抱きしめられる趣味などないが、体が動かないのだから仕方がない。

 というか、鎧についた返り血とか付くからやめて。

 血が、血が、血が!


(・・・・)


 いや、現実逃避はもうやめるべきだろう。

 現実を見つめなければ前には進めない。


 だとしても、だ。


(なんで女の子になってんの!!??)

 

 体が動かせないから見える範囲で確認するかぎり、5、6歳ぐらいか?

 見た目、幼稚園児か小学校に入ったばかりレベルだ。

 ストレートの長く青っぽい髪も見える。


 勇者で魔王がファンタジーのはずなのに。


 幼女に生贄ってなに。

 

 もういやだ。先輩の所に返して!


「隊長」


 他の騎士がやって来る。髪の毛の逆立った、まだ歳若い騎士だ。


「カイン、どうした?」

「制圧はほぼ完了しました。ですが、われわれの把握していない隠し通路があったようで」

「逃がしたか」

「4、5人ほどです」


 話しこむ騎士たち。

 というか、こいつ隊長だったのか。


「首謀者は逃がしましたが、コイツは回収できました」


 若い騎士は手の中にある本を振ってみせる。

 黒い立派な装丁の分厚い本で、とっても高そう。


「それが、例の邪神召喚の書か」

「ええ。なんとか使われるのは阻止できましたね」

「まったく邪教徒どもは度し難い。それで、この娘の両親は」

「残念ながら」


 え、ちょっと待って。

 この娘が生贄で。

 ここに俺がいるってことは・・・俺が邪神?

 いやいやいや。俺はただの高校生ですから!善良な一市民ですから!!

 何かの間違いですから!!!


「まったくこんな物があるから、いらぬ騒ぎが起こる」

「ええまあ」

「燃やせ」

「いやでも魔術師ギルドに確認を取ってからでないと」

「かまわぬ燃やせ」


 待って、もしかしてそれって大事な物じゃないの?


 主に、俺があっちの世界に帰るために!!


「わかりましたよ」


 若い騎士はため息一つついた。

 近くにあった篝火の中に投げ込まれる真っ黒な本。

 パチパチと音をたてて燃え尽きていく。


(ああああああああああああ・・・)


 俺の意識はそこで途切れた。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


(ここどこだよ)


 次に目覚めた時に見えたものは、天蓋つきベッドだった。

 わずかにだが、首を動かすことができた。


(おお・・・、少しだけだが体が動く)


 あとは指先ぐらいか。しかしなんだ、このベッドは。

 やわらかすぎて体が沈みこみそうだ。

 

(夢じゃなかったのか・・・)


 目が覚めたら全部が夢だった、というオチではなかったようだ。

 これからどうしたらいいのか。そもそも、もとの世界に帰れるのか。

 でも俺今、女の子なんだけど。帰っても女の子?

 

 というより元の俺の体、今どうなってんの?


 何もかもわからない。

 情報、情報がほしい。


 せめて体だけでも動いてくれたら・・・!


亜美乃(あみの)先輩、待っててください・・・)


 もう一度、周りを見渡そうとしたとき、その音は聞こえた。


 コン、コンと2回。


(ノック?)


「失礼するわね」


 視界の片隅に映っていた扉が開き、20代後半と思わしき女性が入ってくる。

 髪は薄いブラウン。全体的にほっそりしていて、何が楽しいのかその顔には笑顔が浮かべられている。

 彼女はニコニコしながらベッドに近づいてきて・・・俺の視線とぶつかった。


「起きたのね。体は大丈夫?」


 それに答えようとして、俺は気づいた。まだ、声がでないことに。


「あ・・・・、・・あ・・・・」


 彼女はにっこり笑うと「いいのよ」と言った。


「まだ無理をすることはないの。ゆっくり、ゆっくりとね」


 頭をゆっくりと撫でられて、眠気が襲ってくる。

 どうやら体はまだ睡眠を欲しているらしい。


 その手に安心を覚え、俺は再び意識を手放した。



 ・・・・結局、言葉を話せるようになったのは2日後だった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 この2日間世話になりながら聞いたところによると、この女性の名は『クリシュティナ・オクスタン』といい、この屋敷の奥方らしい。

 そして、この屋敷の主人は救出隊の騎士の一人だそうだ。


(たぶん、あの人だろうな)


 一人の騎士の顔が浮かぶ。

 血まみれの姿しか見ていないせいか、このいつも笑顔の女性の旦那さんというのが、こうなんというかイメージが湧かない。

 

 しかしながらこのクリシュティナさんは非常に面倒見がいい。この屋敷にはメイド(そうメイドだ)も何人かいるようなのだが、俺の世話は必ず彼女がしてくれる。

 早くに母親を無くした俺にとってみれば非常にくすぐったかった。


「喉は乾いてない?お水飲む?」

「退屈じゃない?絵本でも読んであげる」

「こんな服はどうかしら。やっぱり女の子なんだから、かわいい服を着たほうがいいと思うの」


 構いすぎな程だ。

 その様子から思うことがあったが、あえて指摘はしなかった。

 その日の夕方、その男が帰ってきた。



「いくつか報告と質問がある」

 

 まだベッドから移動できない為、それは俺の寝ているところで行われた。

 例の騎士(やっぱり予想通り隊長だった)とクリシュティナさんと俺。3人だけだ。

 旦那さんの名は『ベルフェ・オクスタン』というそうだ。


「まずは君の両親のことだが」


 母親は居なくなりましたが、父親は元気ですよー、と思ったが理解した。

 

 この体の、この女の子の両親。


「残念だが、二人ともお亡くなりになられた」


 あの黒ロ-ブどもめ。怒りが湧く。


「その時の事、何か覚えているかね」


 知らないし、答えられるわけがない。どうすればいいんだ。

 とりあえず、首を横に振る。


「・・・確かにショックな事だからな。覚えていなくても仕方がない」


 とりあえず誤魔化せたか・・・?


「では質問を変えよう。どこの国から来たのかわかるかね?」


 何?地元民じゃないの?国って、この国の名前すら知らないよ!

 また首を横に振る。


「ご両親共々、旅の途中で巻き込まれたようだな。運のない事だ」

「あなた、その言い方は・・・」 

「ム・・・。すまない悪かった」


 こちらは小娘なのにきちんと頭を下げて謝ってくる。

 印象値アップだ。


「一時的に記憶を失っているのかもしれんな。確かにこの年齢の子供にはショックが大き過ぎる」

「・・・・」

「では、せめて名前ぐらいは覚えてないか?」

「あ・・・、の・・」 


 名前って、本名言うわけにもいかないし。

 もう首を横に振っとけ。


「そうか・・・。だが、名前さえわからんとなるとどうするべきか・・・」


 いやほんと、どうしたらいいんでしょうね・・・。


「だったらあなた」


 クリシュティナさんはポンと手を打ち合わせる。

 

「記憶、そう記憶が戻るまで家であずかったらいかがでしょう」


 さも今思いついたように言う。

 でも俺はなんとなく、そう言い出すんではないかと思っていた。


「いやしかし。・・・だが・・・」

「ね、お願いあなた」

「・・・」

「ね、お願いあなた」


 ベルフェさんはこちらに向くと、言いにくそうに訊ねてくる。


「あ・・と。名前がないと不便だな。まあとにかく君の方はどうだろう?記憶が戻るまででもいいから、この家で暮らさないか?」

「あの・・・、えっと・・・」


 どうするべきか。もとの世界に帰る事は決定でも、とりあえずの寝床はほしい。

 帰り方を探すにしても拠点は必要だ。


「・・・ご迷惑でなければ・・・」

 

 がばっ、という効果音が出そうなぐらいの勢いで抱きついてくるクリシュティナさん。


「だったら、ね、ね」

「どうした」

「とりあえずでもなんでも名前は必要だと思うの」

「それはそうだが」

「わたしが付けてもいい?」


 ベルフェさんは重いため息をつくと、こちらをちらりと窺う。

 俺もコクリと軽く頷く。


「いいだろう」

「とっっってもいい名前があるの」


 それはね。


「アフィニア。アフィニア・オクスタンというの。素敵でしょう」

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