第二話
そっと眼をそらした所で、元の世界に戻れるわけもなく。
キラキラ王子様の指示により取りあえず場所を移して話を聞くことになった。
うやうやしく導かれて、扉を開けた先には髪をきちんと結い上げ白いレースを垂らした女の人たちが。
二次元や二.五次元でよく見るような服ではなく、綺麗なグラデーションの布をたっぷり使った服を身に纏っている。
アラビアンナイトのような格好に近いのかもしれないが、露出はほとんどない。
ただ、纏わり付くように薄い生地を重ねているので時たま見える腕の陰影やら脚のラインやらがチラチラ見えて、これはこれで良いものです。ありがとうございます。
「彼女たちは、貴女をお世話する者です。どうぞ何なりとお申しつけください」
キラキラ王子様がそう紹介すると、一際長いレースを頭につけた女の人が進み出た。
歳は多分四十半ばだろうか。いや、西洋系の外見上から年齢を察するのは難しいが、落ち着いた物腰からそう判断をつけた。
「彼女はここの女官長、マリーシアです。今後は彼女との接触も多いかと思います。どうぞ、お見知りおきを」
「は、はあ……」
お見知りおきを、なんて言われて即座に了解!とか言える教育は受けてない。
出来たのはなんとなく頷くことだけだった。
というかこのキラキラ王子様偉そうだな。いや、本当に偉いんだろう。
説明する姿が堂々としているし、誰もが粛々としてそれに従っている。さもそれが当然であるかのように。
「では、寵児さまこちらへ」
半ば感心しながら後を着いていくと、瀟洒な細工が刻まれた扉が開けられた。
さっきから思っていたが、ここの雰囲気は西洋風王道ファンタジーというより、やや中東っぽい。
ロココっぽい感じもするが、タイル装飾もあるし色々混じっているんだろう。綺麗だから見応えあるけど。
「さ、こちらへ」
これまた綺麗な細工の椅子を進められ、恐々と座った。
周りを見渡してみたら、椅子は一つしかない。あれ、説明を受けるって聞いたんだけど、他の人はどうすんだろ。
そんなこと思ってても初対面ばかりの人達には聞けないチキンハート。
取りあえずお茶とか出されたり、人が入ったり出たりするのをぼんやり見ているだけである。
出されたお茶を半分くらい飲んだところで、扉がゆっくり開いた。
入ってきたのは、白いおヒゲが長い、わし長老☆なんていいそうなお爺さんだった。いや、☆は付けんと思うが。
多分高齢であろうお爺さんは背筋がしゃんと伸びていて、意外と背が高い。
伸びた眉に隠れて見にくいが瞳がとても優しそうで安心できる。
にっこり笑うと、お爺さんは優雅にお辞儀をして床にひざまづいた。
「生きている内に寵児さまにお目にかかることができるとは、なんたる僥倖。我等“星の詠み人”は、貴女様を歓迎いたします」
「いえ、あの、そんな」
慌てて椅子から立ち上がった。
年長者が床にひざまずいているのに、椅子に座っていられるほど厚顔ではない。
お爺さんの所に屈み込み、そっと手を取る。
「あ、あの取りあえず立ってください。いけません、そんな、あの、床なんて」
しどろもどろだが、言いたいことは伝わっただろうか。
お爺さんは眼をパチクリ(可愛い!)させると、ほっほっと笑った。
「ではお言葉に甘えますな。有り難や」
「椅子を一つ頼む」
お爺さんがゆっくり立ち上がると、傍にいたキラキラ王子様が扉付近の侍女さんに椅子を頼んだ。
「あの、出来たら、説明していただける方人数分椅子を用意して頂いても」
恐る恐るキラキラ王子様に頼むと、少し驚いたように王子様は私を見た。
や、手間かけてすみません。でもひざまずかれるの慣れてないんですみません庶民ですみません。
「寵児さまがこう仰せであるし、お言葉に甘えてはいかがかのう」
「……では、そのように」
キラキラ王子様が手を振ると男の人たちが椅子を二つ運び込んだ。
ということは、説明係はお爺さんとキラキラ王子様の二人ってことか。
ついでに人数分のお茶とお菓子が運び込まれ、それぞれに行き渡った所で私は背筋を伸ばして王子様とお爺さんを交互に見た。