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第一話


 寝ている時って意外と外の音が聞こえているもんである。

 私だけかも知れないが、眠りが浅いときや起きかけの時は外の音声を拾い、なおかつしばし考える余裕すらある。

 お母さんに『起きなさい!遅刻するよ!七時だよ!』と急かされた時なんて、身支度にかかる時間と朝ごはんを食べる時間、それから学校までかかる時間を頭で計算して『あと5分ほど余裕がある』なんて答えを出すほどには頭は回転する。

 大抵は間に合わないんだが。二度寝して寝過ごすから。



 今、私はそんな状態である。体は眠りに落ちているが、頭はぼんやりとしつつも、周りの音声を拾っている。

 そういえば、銀色の光にとうとう触って、不思議空間に引き込まれたんだっけか。あぁ、悔しい。負けた気分。

 ということは、ここはどこだ。なんだか騒がしいが一体どこなんだ。あの安らぐ銀色の世界はどこにいったんだ。

 現実逃避はしちゃならんと思うが、眼を開けたくない。

 断片的に聞こえる言葉は理解できるが、理解したくない内容なのでなおさら眼を開けたくない。

 



―――ああ、いやだいやだ。



 このままもう一度寝ようかなんて、土台無理な話だった。

 もはや断片的では無く、はっきり聞き取れる周囲の声に反応して思わず顔と手の筋肉が動いてしまったのだ。

 私の目覚めを察知してか、声がひそめられる。 おいおい、皆に見られてたのかよ。私の寝顔。

 ここで起きないのも何だか申し訳ないというか勿体振りやがって!と思われそうだ。

 ああ、私のだらし無い筋肉が憎い。

 仕方なくさも『いま起きまして、何事か把握していません』という体を装いながらゆっくりと眼を開けた。



―――いや、やっぱり寝よう。



 現実逃避がなんだ。逃避して何が悪い。

 知らない、私は何も見てない。



「お目覚めになられたぞ!」



 そう大声で言ってくれるな、そこの若いキラキラしたお兄さん……。

 注目が集まって、本当泣きそうですわ……。



「どうぞ、お手を」



 あーこりゃダメだ、ともう一度眼を閉じようとした所に、手が差し延べられた。

 大きな広い手の持ち主の方を見てみると、見てみると、見てみ………あああー美形だなーー!ああー眼が潰れそうだぜこんちくしょう!

 サラッサラの金髪と、澄んだ青い瞳に甘い顔立ちなんて王子様じゃないか。

 周りを見渡してみてもタイプは違えど、美形ばかり。

 西洋的な顔立ちの評価はよくわからないけど、日本だったら物凄くモテると思う。



「あ、いえ、結構です」


「さようでございますか」



 なんだか恐れ多くて手を取るのを断ると、お兄さんは優雅に微笑んだ。

 私が寝ていたのは、どうやら祭壇のようだった。手触りの良い、上質な布がかけてあるとはいえ硬い上に寝づらい。首が痛い。

 軋む体を起こして、辺りを見渡すとやはりどうも神殿らしい。神社か寺にしか行ったことが無いが、独特の雰囲気は似通っていると思う。



「あの、ここは一体……?」



 演技でもなく、震える声を抑えて尋ねると先程の王子様系美青年は柔らかく微笑んだ。

 舞でも踊るかのように手を挙げると周囲にいた人々がいっせいに額ずいた。


 あ、やべ、なんか地雷踏んだぁあああ聞きたくないぃいい!!



「我ら“星の詠み人”は、貴女を心より歓迎致します。星の流れと輝きが常に御身を祝福せんことを」



 歌うように言葉を綴った王子様は、これまた丁寧に床に膝をつき私にひた、と眼を合わせた。

 綺麗で曇りの無い眼だ。ピカピカの宝石みたい。



「我らは貴女をずっとお待ちしておりました。世界の寵児たる貴女に我が身と心を捧げる許しをどうぞ、私めに」



 ピカピカの眼に気を取られた瞬間なんか凄いことを言われた気がする。

 言い切った後のお兄さんはもっの凄い笑顔で私を見た。

 ピカーとかペカーとか効果音がつきそうだ。ついでに後光とかも。

 そして何より困ったのが、笑顔の裏に『まさか嫌がったり断ったりしませんよね?』という思惑が透けて見えることだ。

 空気が読めてしまったことを悔いる日が来ようとは。

 いや、でもしかしここで流されて頷いたら何かもうフラグが建ちまくらないか!?

 それはすなわち帰れないフラグではないか!?


 数瞬の間でこれだけ考えた私は、実に日本人らしく曖昧な笑みを浮かべた。



「ぜ、善処します……」


「………」



 ヘラッと笑った私の笑顔とピカピカの一等星なお兄さんの笑顔は、嫌な沈黙を挟んで…………それから私がそっと眼を逸らした。



 何この世界。もう耐え切れない。

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