不明瞭
混じり合って見る
純粋にみれない。何もかも。私はこの世の汚いところをたくさん見てきたから。そんな無条件にきれいだと思えない。
太陽はてらてらと輝き、おれんじ色のヒカリがあたりを照らす。ヒカリを受けて木は仄かな影を作り出す。風が吹けば涼しくて、でもジリジリと暑い。
そんな中、蟻はせっせと木を登る。自分の後ろに行列があることも気づかないかのように前だけを見て、暑さをも感じていないかのように、黙々と脇目も振らずに登る。
蝉は蟻たちよりも高い所でミンミン鳴いてて、野に咲く花には蝶がとまっている。
そんな平穏で、懐かしく、自然で、大切な、きれいな風景。なのに、そんな景色の中にも裏があると、作為的なもので、人為的なもので、明らかな悪意が混ざっていると、感じてしまう。感じずにはいられない。
無条件に、そのままを受け入れられない。
だって、どんなに辺鄙でちんけで田舎でも、悪意があると知ってしまったから。
世界には強大な悪意の陰に覆われていることを知ってしまったから。
世界の、汚いところを散々、嫌というほど見てきたから。
整えられた、作り物の世界。あるいは籠の中の鳥のよう。
もう少しだけ、もう少しだけ、この風景を信じていたかった。どんな悪意もないと、無条件で受け入れたかった。
でももう、それは儚い、叶わない願いだと知っているから。私は知ってしまった。世界を、悪意を、総てを。もう、引き返せない。
知ってしまったのは、ただの偶然。でも、それは必然でもある。
知りたくなかったと、思ってる。でも、後悔はしてない。知らないのは、罪なのだから。
知ってよかったと思ってる。知りたくなかったけど、知ってよかったと思ってる。
ちょっとした矛盾。知りたくなかったのは、本当。でも、知ってよかったのも本当。
ただ、もう少しの間、信じていたかった。あの風景を、純粋に、きれいだと見ていたかった。
だから、知りたくなかったのも本当。知りたかったのも、知ってよかったと思うのも、本当のこと。
悪意があると、わかっている。でも、それでもここは、大切な場所。私が生まれ育った、懐かしい場所。平穏で、優しく、きれいな場所。私の守りたい、守るべき、場所である。
それに変わりはない。
だから、この場所を守りたい。守れることに誇りを持てる。
ここを守りたい。
自分の命でこの平穏が少しでも保たれるなら、それでいい。満足だ。たった一年だろうと、一時凌ぎでしかなかろうと、贄だろうと、私はそれで、それだけでうれしい。今はただ、どうか、私がいなくなっても、少しでも皆が幸せに過ごせること願うだけ。
ああ、神よ―――
この村に、人々に、平穏を、祝福をお与え下さい。
―――みな、幸福であれ。
人々に、幸せを、お与え下さいませ。