表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神元帥に嫁いだ伯爵令嬢ですが、思いのほか溺愛されています  作者: 臣 桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/18

初夜

 初夜、シャーロットは寝室でシルバーブロンドを弄り回していた。


 絹のネグリジェは襟や袖、裾にふんだんにレースがあしらわれた贅沢な物だ。


 その布地を押し上げた胸元は、ふっくらとボリュームがある。


 シャーロットは今まで異性に興味を持った事がなく、個人的な手紙のやり取りをした事もない。


 婚約が決まったあと、専門の講師から閨について教えられたが、経験した事のない出来事を学ぶのは難しい。


 愛撫された時はこう反応すべき、と言われても、愛撫された事がないので想像する事もできない。


「でもきっと、ギルバート様なら優しくしてくださるはず」


 周囲の人々が悪し様に言うのに反して、夫はとても優しい人だ。


 自分に横柄な態度をとった事もないし、終始紳士的だ。


 なので、初夜への不安はあるが、ギルバートに酷い事をされるかもという不安はなかった。


 ドキドキと胸を高鳴らせて夫のおとないを待っていると、ノック音のあとにギルバートが姿を現した。


 シャーロットはシャキッと背筋を伸ばし、初めて見るギルバートの寝間着姿を凝視する。


 軍服か、黒いジュストコール姿しか見せていなかった夫が、トラウザーズの上にガウンを羽織っただけの姿をしている。


 それを見て、いよいよこれから初夜が始まるのだと思い知らされ、嫌でも緊張する。


「宜しくお願いいたします。ギルバート様」


 ペコリと頭を下げて挨拶したが、ギルバートはベッドの上に座ったまま黙している。


「……あの……?」


 顔を上げて首を傾げると、意外な事を言われる。


「夫婦になったのだから、もっと砕けた呼び方でいい」


「え……と。では……」


 戸惑っていると、ギルバートは僅かに微笑んで彼女の名を呼んだ。


「シャル」


 愛称で呼ばれ、胸がキュンッと甘く疼いた。


 こんなにときめいたのは初めてだし、自分と彼が〝夫婦〟になったのだと実感し、嬉しくて涙ぐみそうになる。


「で……では。……ギル……さま」


「〝様〟はどうしてもついてしまうのか」


 ギルバートが小さく笑い、シャーロットは夫が見せる新しい顔に夢中になった。


「シャル」


 彼はまた妻の愛称を呼び、スルリと彼女の頬を撫でる。


 そのあと不意に真面目な顔になると、正面からシャーロットを見つめた。


「私は寝る時と、入浴の時だけ眼帯を外す事にしている。左目には醜い傷跡があり、君を怖がらせるだろう。結婚したはいいものの、醜い傷を見て後悔するかもしれない」


 当然、眼帯の下には彼が隠したいと思っている傷がある。


 シャーロットもそれは承知済みだ。


「後悔などしません。その傷は、ギル様が陛下や国を守った証です」


 そう答えると、彼は少し躊躇ってから手を後頭部に回し、眼帯の結び目を解いた。


 ――覚悟していたより、ギルバートの傷は深い。


 シャーロットは深く息を吸い、夫の本当の姿を見つめた。


 左目の周囲は赤黒くなり、白目は真っ赤に充血していた。


 彼は片目を失っても平和を守ったのだと思うと、夫があまりに尊い存在に思えて胸を打たれる。


 自然と手が震え、目に涙が浮かぶ。


「……ほんの少しだけ……。力を入れませんから、撫でてもいいですか?」


「ああ」


 シャーロットに乞われ、ギルバートは目を閉じた。


 彼女は夫の頬に手を添え、震える指先でそっと左の目蓋に触れた。


「――――」


 その行為がギルバートを興奮させていると、新妻は知らない。


 知らずに、彼が恥部と思っている場所を優しく撫でた。


「……愛しい……です。この国を守るために捧げられたこの左目が……、こんなにも愛しい……」


 シャーロットは聖人の聖痕に触れたように、感動して泣いていた。


 そして両手で夫の頬を包むと、赤黒い目蓋にキスをした。


 さすがに口づけられると思わなかったのか、ギルバートは僅かに身を強張らせる。


「……怖くないのか?」


「あなたは私の誇りです」


 シャーロットは自分のものとなった英雄に、心からの笑顔を向ける。


 傷の事で悪く言われた時、彼が何を思ったかは想像するしかできない。


 でも自分はこの名誉の傷ごと、優しい英雄に添い遂げるのだ。


 縁談が決まった時は半ば諦めに似た気持ちでいたが、今は胸を張ってギルバートを愛していると言える。


 その気持ちが伝わったのか、彼は安堵したように言った。


「……ありがとう。君に受け入れられてホッとした」


 彼は右目を細めて笑い、妻の頬を両手で包む。


「ギル様の手……、大きい」


「君を守る手だからな」


 そう言ったギルバートはスリスリと妻の頬を撫で、彼女の顔を上向かせる。


「あ……」


 キスされると感じたシャーロットは、赤面して目を閉じた。


 ほどなくしてギルバートは、新妻の小さな唇を優しく奪う。


(やわらかい)


 シャーロットは唇が触れ合った瞬間、驚きに胸をときめかせる。


 ギルバートの印象と言えば、クールで寡黙だ。


 自然と「冷たい」「硬そう」というイメージが湧く。


 なのに彼の唇はマシュマロのように柔らかく、キスしただけで感動に似た感覚を味わった。


「ん……」


 ギルバートは唇を押しつけたあと、はむ、とシャーロットの唇を食む。


「んっ」


「食べられてしまう」と感じたシャーロットは、ほんの少し身を引いた。


「――私を拒むな」


 少しだけ唇を離したギルバートは、低く囁く。


「拒んでな……っ、ぁ」


 ギルバートは口を大きく開き、今度は彼女の首筋に唇をつける。


 そのあと強く吸って所有印をつけながら、首筋の匂いをスッと嗅いだ。


「えっ? あ、やっ」


 シャーロットは匂いを嗅がれ、恥じらって身をよじらせるが、抱きすくめられ押し倒された。


「きゃっ」


 シーツの上にシルバーブロンドが広がり、マットレスがたわむ。


 ベッドの上に撒かれたジャスミンの花が弾み、匂い立つ。


「出会った時から思っていたが、君はとてもいい香りがする」


「そ、そうですか? 初夜でお花が撒かれてあるから、それかも……」


「いや、君の香りだ。花の香りに似ていて、少し甘くて……。――男を堕落させる香りだ」


 褒められたあとに甘い毒のような言葉を向けられ、思わずゾクッとする。


「そんな……」


 男を堕落させるなんて――。


 抗議の意味を込めて夫を見つめれば、夜空に煌々と輝く月のような金色の目と視線がかち合う。


(綺麗な色……)


 うっとりと見つめていると、ギルバートも欲情を掻き立てられたようだ。


「君はいけない人だ。私をこんなにも燃え立たせる」


 彼がガウンのベルトを緩めると、ハラリと胸板が曝け出される。


 その肌には無数の傷が刻まれていて、古くなって色が薄くなっているものから、新しいものまで様々だ。


「痛く……ないのですか?」


 シャーロットは眉根を寄せ、そっと夫の傷痕に触れる。


「傷は塞がっているから大丈夫だ。……夫の体に醜い傷があるのは嫌か?」


 またギルバートは、シャーロットを試すような事を言う。


 彼の言葉は、妻が怖い想いをしないように気遣っているようで、自分が傷付かないために予防線を張っているように感じられた。


 最初に言った通り、彼はただの人だ。


 心ない呼ばれ方をされ、事実でない噂を流され、撤回しようにも収拾の付かない状態になってしまった。


 そして彼は諦めながらも、悪評に陰ながら傷付いていたのだ。


 自分が妻となった事で「受け入れられた」と安堵した彼を、突き放す事など決してしてはいけない。


 だからシャーロットは、ギルバートを安心させるように微笑んだ。


「いいえ。ギル様がこの国のために負った傷ですもの。尊くはあっても、醜いなど思いません」


 妻の答えを聞き、ギルバートは安堵したように目を細めた。


 彼はシャーロットの上に馬乗りになり、彼女を見つめたままガウンを脱ぐ。


 精悍な顔の下、いつもなら襟に隠されている首は太く逞しい。


 鎖骨から肩にかけてもしっかりと筋肉がつき、雄々しくも美しい。


 張り出した胸板は厚く、腹部の陰影は軍神像を彷彿とさせる。


 優しくベッドの上に押し倒されたシャーロットは、胸を高鳴らして夫の愛撫に答え、生まれて初めての快楽に身を浸した。






 ギルバートは疲れ切った妻が眠っている姿を見て、溜め息をつく。


 彼は前髪を掻き上げ、獣の如く昂ぶった己を鎮めていった。


 美しい妻はしどけない姿を晒し、無防備に横たわっている。


 伏せられた睫毛は長く、陶器のように滑らかで白い肌は、今や薔薇色に染まっていた。


 触れる事すら罪深く思える妖精の美姫が、自分に貫かれて嬌声を上げたさまを思い出すと、絶頂を迎えたあとだというのに興奮してしまう。


「とうとう……、手に入れた」


 呟いた彼の言葉の意味を知る者は、誰もいない。


「もう決して手放さない」


 ギルバートは脱力した妻の手を握り、その甲に口づける。


「この体の……いや、髪の一本や爪にいたるまで、すべて私のものだ」


 ギルバートは誰にともなく呟くと、愛しい妻の体にキスをし、滲んだ汗を舐めていく。


 ――もしも妻が起きていたら、こんな変態的な行為をする自分を見て、幻滅しただろうか。


 彼はそんな事を思いながら、愛しい妻の体をくまなく味わっていった。




**

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ