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死神元帥に嫁いだ伯爵令嬢ですが、思いのほか溺愛されています  作者: 臣 桜


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【完】死神元帥の最愛

 ベネディクトは不思議と、敵国の元帥を信じていた。


 本当にエリーゼを助けてくれるか分からないダフネルより、己の欲のためなら何でもすると言ったギルバートのほうが、ずっと信じられると感じられたからだ。


 形は違えどベネディクト自身、望むもの――エリーゼのために死を厭わず行動したからというのもある。


 その後、ギルバートが言っていた通り、スローンの使者である〝なんでも屋〟が現れ、ベネディクトに『毒を飲まなければエリーゼは死ぬ』と脅してきた。


 事前に〝なんでも屋〟が監獄を訪れた際、門番から責任者へ、そして看守へと連絡がいっていた。


 軍としてもあとから大捕物をするために、ここで敵を泳がせて証拠となるカンタレラを入手する目的があった。


 ベネディクトは薬の用意をし、看守が〝なんでも屋〟の気を逸らした隙に小瓶をすり替える。


 そして毒を呷ったふりをして、苦しみ藻掻き、死ぬ演技をした。


 仮死状態になる薬と言った通り、目を閉じたあとはスゥッと体が冷たくなる感覚がし、このまま目覚めないのでは、という恐怖が身を包んだ。


 けれど一度死んだも同然なら、ギルバートを信じようと覚悟を決めたあと――。


 彼はギルバートが有する邸宅で目を覚まし、アリスというメイドに世話を焼かれた。


 両国が平和の祭典に浮き立っている間、ベネディクトは十分に体を休め、アリス仕込みの変装で中年男性の姿になった。


 すっかり世話になった彼女たちに礼を言ったあと、ベネディクトはずっしりと金貨が詰まった袋を持ち、故郷に向かって馬を走らせた。


 国境では、ギルバートから連絡を受けた門番が協力してくれ、アルトドルファー王国側でも、国を渡る傭兵としてたやすく入国する事ができた。


 祖国に戻ったあとは、人気(ひとけ)の少ない村を通るルートを使って馬を走らせ、しばらく戻っていなかった故郷で家族に再会したのだった。




**




 ギルバートは妻の柔らかい髪を撫でながら、今後の事に思いを馳せる。


 ほどなくしてゴットフリートとエリーゼは、灯台下暗しで故郷にいるベネディクトと再会するだろう。


 気の強いエリーゼの事だから、「よくも騙したわね!」と恨まれそうだが……。


「面倒臭いが、その時はその時だ」


 ギルバートは行為のあとの気だるさに任せ、欠伸をかみ殺す。


 十月堂事件が起こったあと、可哀想なアルバーン伯爵は、現場管理の責任を問われた。


 そこで〝英雄〟となったギルバートは国王に褒美を求められ、警備に穴があったのは軍の不手際だと言ってアルバーン伯爵の減刑を求め、彼の娘を求める事ですべてを〝なかった事〟とした。


 アルバーン伯爵は娘を嫁に出す事で事なきを得、シャーロットは父を助けてくれた恩人に嫁ぐ事になった。






 スローンたちも知らない事だが、彼らによって殺されたとされてる部下たちは健勝だ。


〝そういう事〟にしておけば、スローンたちを追い詰めるのに都合がいいので、長期休暇を与えている。


 ギルバートはスローンが証拠消しに奔走するだろう事を予測し、看守たちに〝その時〟になったら、やられたふりをして姿を消せ、と命令していた。


 相手が毒を使ってくる事は予測していたので、アリスにくすねさせた毒をもとに、大体の毒に効く解毒剤を用意させ、部下に持たせていたのだった。






「君を手に入れるために回り道を選び、面倒な手段をとった。君の父君は、貴族にしては清廉潔白で愛情深い人だから、歳の離れた悪名高い〝死神〟に娘を嫁がせるとは思えなかった。下手をすれば、無理矢理別の男に嫁がせられたかもしれない」


 ギルバートは手でシャーロットの髪を梳き、寝物語を話すように言う。


「色んな人を騙し、悲しませ、陥れた。……だが後悔はしていない。はなから私は優しい男ではないし、この身が罪にまみれている事も自覚している。今さら新しい嘘の一つや二つで、後悔しない」


 皆に畏怖される元帥が、優しい目で見るのは妻のシャーロット。


「すべては――、君を手に入れるために」


 そう囁き、ギルバートはシャーロットの髪に口づけた。


「二度目の蜜月が終わったら、アルトドルファー王国のバッハシュタイン領でも訪れようか」


 ギルバートとしては、ベネディクトを助けた事は目的を達成するための手段の一つだった。


 だが優しい妻はベネディクトのためにエリーゼやゴットフリートが決死の覚悟をしていた事に心を痛めていたし、彼らが幸せに過ごしていると知れば安心するだろう。


「わざと失った左目も、君を手にれるためなら安いものだ」


 夏はゆっくりと終わりを迎えようとし、これから木々の葉が色づく季節になる。


 寒い季節になったらもっと妻と肌を寄せ合う機会が増えるのだろうか、と思いながら、ギルバートは終わりゆく夏の気配に耳を澄ませた。


「実に結構」


〝英雄〟となった彼は小さく笑い、冷たい紅茶に手を伸ばした。





 完

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