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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

短編集

生贄だけど、生贄じゃなかった!

作者: 氷桜 零
掲載日:2025/10/29


この村の聖域とも言える山には、人間を数名まとめて飲み込めるほどの、大きな蛇が住んでいた。

数十年に一度、生贄を差し出すことで、村を災厄から守ってくれるのである。


生贄に選ばれるのは若い娘。

とりわけ、村にとっていらない娘が選ばれる。

そしてその生贄に私、イリスが選ばれた。


私は孤児だ。

5年ほど前、私が10歳の時に、唯一の家族だった母が、病気で亡くなった。

父のことは知らない。

母は私を一人で産んで育てた。

村の誰も、私の父を知らなかった。

母は暫く行方不明になっていた時期があり、帰ってきた時には妊娠していたそうだ。

村のみんなは、母が犯罪に巻き込まれたからだと噂している。

母が何も言わなかったので、真偽は結局わからないままだ。


そんな母と私は、村から浮いていた。

村のみんなは、私たちに関わろうとしない。

村八分にされないだけ、マシだったかもしれないが。

母が死んでからも、村のみんなは助けてくれなかったので、一人で生きてきた。


つまり私は、村にとって、いなくてもいい存在なのだ。

悲しむ人だっていない。

だから、生贄に選ばれた。


もちろん私は反発した。

死ぬのが嫌だったから、当たり前だ。

けれど数の暴力には勝てず、気絶させられている間に、守り神である大蛇の祭壇に放置された。

ご丁寧に、洞窟の入り口は封鎖されている。

つまり、死ねと言うことだ。


「ふっざけんな!あのクソジジィども!散々、薬師の母さんの世話になっておきながら、死んだ途端手のひら返しやがって!私だって、村のために危険地帯の薬草を取ってきてやったじゃないか!」


私の母は、優秀な薬師だった。

母に習っていた私も、そこそこ優秀な薬師だ。

特に私は薬草取りが得意で、結構危険なところまで取りに行ったりする。

村が大変な時は、そうやって村に貢献していたのに。


「薬師の私より、適任者はいるだろ!三件隣の、男はみんな私のものとか言ってるミーラとか、五件向かいの、人のせいにしたがりのハンナとか、村長の孫で窃盗常習犯のカンナとか!」


『おーい。』


あいつらは私が孤児だからって、悪いことはすべて私のせいにしてくる。

村の連中は孤児の私より、そいつらのことを信用して、私に厳しく折檻してくる始末。

本当、腹が立つ。


「村長は孫たちも、取り巻き連中の子どもらも、私が取ってきた薬草を台無しにしたり、薬をわざと溢したり、踏みつけたり。大人どもは、子どもに一切注意しない!あんな村、悪党の巣窟みたいなものじゃないか!」


『あー……お嬢さん?』


思い出すと、どんどん気持ちが溢れてくる。

考えないようにしていたが、これって完全に虐めじゃないか。


「私を村に置いておいたのは、このためだったのか……。あー……死にたくないなぁ。」


『もしもーし。お嬢さん、聞こえているかい?』


「うわっ!」


突然響いた、私以外の声。

ここには私以外いないはず。


……え?本当、誰……?


『こっち、こっち。』


警戒しながらキョロキョロしていると、祭壇の奥の真っ暗な所から、灰色のまだら模様の巨大な何かが顔を出した。


蛇だ。

それも、とびきり大きな。


小さいサイズなら、いくらでも山にいる。

けれどこんな大蛇、見たことがない。


『ああ、そんな怖がんないで。別に食べないよ?』


「……食べないの?え、じゃあ、弄ばれるの?」


『いや、しないからね。ただちょっと、脱皮を手伝って欲しくて呼んだんだ。終わった帰すつもりだけど?』


「……えー……。生贄じゃないんかいっ。」


なんだろうか、この肩透かし感は。


いや、食べられないことはすごく良いけど、これじゃない感がすごい。

いや、いいんだけどね?

嬉しいんだけどね?

なんか、こう、さぁ……


すごく複雑な気分になった。


ヨイショと言いながら、暗闇から全長を出した大蛇は、想像よりも大きい。

20メートルは軽く超えているだろう。


これを脱皮……。

重労働になりそう。


「えっと、何したらいいんでしょう?」


『口が届かない、顔と首あたりの皮を引っ張ってくれたらいいよ。』


……首?

蛇に首、あるの?


大きな口が迫って来る光景は、普通に恐ろしい。

自然と顔が引き攣るのが、自分でもわかった。


少し後退し、頭を下げた蛇の身体を見る。

頭から身体の途中まで、灰色の皮が覆ってあり、途中から白色に変わっている。

灰色の部分が、古い皮みたいだ。

これを取って欲しいのか。


覚悟を決めた私は、蛇の頭を土足で遠慮なく踏み、脱皮の手伝いをすることになった。



体感的に二時間ほど経っただろうか。

何とか、綺麗に剥がすことができた。


脱皮した大蛇は、綺麗な白銀色の体色をしていた。

確かに、神だと崇めそうなくらい神々しい。


『いやー助かった!もー痒くて痒くて。何かご褒美をあげよう。何がいい?』


「あー……実は……」


ご褒美と言われても、何も思いつかない。

ずっとここに居る事なんて出来ないし、村にも帰れない。


私がここに来た経緯と、現状を伝えることにした。


『あーだから、あんなに怒ってたのか。うーん?でも君の力があれば、人間なんてどうにも出来るだろう?何故我慢しているんだ?』


「へ?力?どう言う事ですか?」


『あれ?気づいてない?君、半神半人だよ?父か母のどちらかが、神格持ちだね。』


「えぇぇぇぇぇ……」


15年経ってからの新事実。


母さん、何処で神様引っ掛けてきたの!?


笑顔でピースする、母の幻影が見えた気がした。


『では、力の使い方を教えよう。と言っても、特別な事はない。心臓のあたりに意識を集中させて、力を感じる。やりたいことを想像して、力を放出する。それだけだから、やってご覧。』


意識を集中。

心臓……。

温かい渦みたいなのがある。

これかな?


やりたい事?

うーん……

とりあえず、水をだす?


力の放出?

手からドバーって感じで……


ザバーッ


何もない空間から、水が落ちてきた。


『上手、上手。人間の世界には魔術師ってのが居るらしいから、それで魔術師になれるんじゃないかな?』


魔術師に、私が?

でも今、水を出せた。

憧れの魔術が、使えるかも!


母は、少しだけ治癒の力を持っていた。

それによって、薬の効果を上げることができた。


私もこの力を使えば、母のようにできるかもしれない。

母みたいな薬師や魔術師になれるかもしれない。


そうと決まれば、あんな薄情な村なんて忘れよう。

そして、いつか立派になったら、あいつらを見返してやろう。


私はそう、決意した。





それから5年後。

私は大国の王都で、聖女なんてものをやる羽目になっていた。

魔術師か薬師になるために修行した結果、聖女の素質を高めることになってしまったのだ。


聖女となった私は、どうしてこうなったのかと頭を抱えつつ、忙しいながらも充実した日々を送っていた。




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― 新着の感想 ―
……お母様、笑顔でピースなんてしている場合ですか?何処でそんな方をひっかけたの? 娘さんも聖女なんてしていないで村のヤツラをドウニカシナイト(笑) それにしても随分とフレンドリーな蛇さんでした。……
ヘビーな人生を送っていた少女。 人身御供にされてしまい、鬼が出るか蛇が出るかと思っていたら、待っていたのはお手伝い。 長い物には巻かれろと言う通りにしてみたら、そこは蛇の道は蛇。 神秘のパワーが目覚め…
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