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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第4章「FOREVER IN THE XWORLD」

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episode49「犬じゃらし」

 今日はエックス・ワールドの最終日だった。2ヶ月(僕にとっては1ヶ月弱)にわたる戦いは、ここで幕を下ろす。


 結果はデビアンが10エリア、レッド・ハットが8エリアでデビアンの勝利となった。


 この勝利を手にするまで、とんでもない苦労の連続だった。最後の1週間でレッド・ハットが猛攻を仕掛けてきて、多くのエリアが奪取された。一時、6対12まで点差を広げられたこともあった。


 けれども、みんなと協力して同点まで追いつき、試合終了間際にタックスを敵の陣地に設置できたことで、逆転することができた。


 それらの話は別ページを参照してもらって、今日は最終日の話をしたいと思う。


 エックス・ワールドでは2ヶ月の戦いのうち標準時間で最終日はフリータイムとなっている。この時間は相手のエリアを奪取することも、敵を傷つけることもできず、発展したエリアを観光したり休息するための時間に当てられる。敵も味方も関係なくエックス・ワールドを楽しむ、ラグビーで言うところの”ノーサイド”みたいなものだ。


 僕はムーブ先輩に誘われて先輩とキャットさん、そしてスーの4人でゲーム内を見て回ることにした。


「遅くなりました!」


 集合場所であるbinエリアのセントラル・パークに行くと、三人は揃っていた。三人とも、休日という名目だからかいつもと装いが違う。


 ムーブ先輩は青のシャツの上に白のブレザー、下には水色のショートパンツを身につけていた。エックス・ワールドでは黒を基調としたボディスーツを着ていたから、明るい色で統一された先輩を見るのは新鮮だった。


「どうよ、ぽっぽくん。できる女の気合いの衣装は」


 ムーブ先輩はくるりと回ってみせた。


「似合ってると思います」


 僕は平生で答える。ボディスーツにドギマギしていた頃と比べたら随分成長した方だ。


「そうでしょ〜。ちなみにブレザーの中は色が違うんだよ〜」


 とショートパンツと同じ水色のインナーカラーを見せてくれた。これにはオシャレに疎い僕でも「おぉ」と声をあげてしまう。


「ボクのはどうにゃ?」


 キャットさんはオレンジと白のチェック柄のヘソ出しシャツに、太もも丸見えのショートスカートを履いていた。オフ会で会ったときと同じような装いだが、スカートの上のあらわになった腰からはオレンジと白の縞模様の尻尾が伸びている。僕の視線は尻尾が放つ重力に惹きつけられる。


「尻尾はつけるんですね」

「こういう時こそのしっぽにゃよ〜」


 キャットさんは嬉しそうに尻尾をフリフリと振った。


「ポッポくんも似合ってるね〜」ムーブ先輩が言う。


 僕は自分の衣装を見た。白の生地にデビアンのマークがあしらわれたTシャツにダメージジーンズ。シンプル・イズ・ザ・ベストの構成だ。


「やっぱデビアンのシャツにして正解だったにゃ」


 お察しの通り、僕のコスチュームはムーブ先輩とキャットさんのチョイスだ。


「デビアンのマーク、こんなデカくなくていいと思うんですけど……」


 シャツにはデビアンの円状のロゴが目一杯プリントされている。でも、僕に拒否権はない。


「そんなことないよ〜。ねえ、スーちゃん。どう思う?」


 ムーブ先輩はスーに尋ねた。彼女は黒のブレザーに灰色のスカートという高校の制服みたいな格好をしていた。


「いいと思います。車掌さんのデビアン愛が伝わってくるコーデになっていると思います」


 スーは真面目な顔で頷いた。そんなこと言われたら恥ずかしくて俯いてしまう。


「そういえば、スーちゃんの衣装、なんか地味だよね」


 ふと、ムーブ・コーディネータの目が光った。


「確かににゃ。素材はいいのにもったいないにゃ」キャット・コーディネータも舌なめずりする。


 こうなると、もう逃げられない。


「スーちゃん、アトラクションの前に服を買いに行こうにゃ」

「そうそう。ファッションも女子の嗜みだよ〜」


 近づく2人にスーは困惑の様子を隠せない。


「し、しかし……私、手持ちがあまりなくてですね……」

「いいよいいよ、私たちでお金は出すから」

「大船に乗った気で体を預けるにゃ」


 あっという間に腕を掴まれ、スーはショッピングモールに連行されていった。


「えっ、えぇ……ちょっと、車掌さん……」


 スーは僕のことを見たが、僕は苦笑いを浮かべることしかできない。2人のコーディネータを止めることができないのはもちろん、このときの僕はいつになく緊張していたんだ。


 だって、この日がスーと会える”最後の日”だから。


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