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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第3章「ANTI ANTI XWorld」

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episode46「会心の一撃」

 僕は胸ポケットから紙片を取り出した。

 何も書かれていない紙切れだけど、僕にはわかる。


 これは、僕だけにしか実行することができない。


 首を傾げるリムーブの前で僕は唱える。


「`./sudo-sl.sh`」


 エックス・ワールドでプレイヤーが使えるコマンドはオリジナル・コマンドと組み込みコマンドの2種類だけ。でも、例外的にどのコマンドも実行できる方法がある。


 それが————




   シェルスクリプト。




 シェルスクリプトの機能はfunctionコマンドに近い。複数のコマンドを事前にまとめて実行することができる。さらに、functionコマンドとの大きな違いとして、まとめたスクリプトをファイル()として保存することができるんだ。


 これで何ができるかというと、別の人にファイルを渡して実行してもらうことができる。つまり、自分のオリジナル・コマンドを他の人に使ってもらうことができるんだ。


 こんな便利な方法があるなら、みんなとうの昔に使ってる。けど、使われていないのには理由がある。


 一つは、シェルスクリプトはエックス・ワールド内でしか作成することができない。オブジェクトみたいにゲーム外で改造してから持ち込む、ってことができないんだ。だから、シェルスクリプトが書ける人は「ファイルを作成して書き込むことができる」コマンドを持っている人に限られる。もちろん、組み込みコマンドにそのような能力のコマンドはない(※作者注)。


 さらに、シェルスクリプトには「書いてる人が使えるコマンド」しか記述することができない。僕でいうならslコマンドと組み込みコマンドしか書くことができず、他のコマンドを書こうものならエラーが出て保存できないらしい。まあ、元々書くためのコマンドも持ってないんだけど。


 要は、シェルスクリプトを作成することができる人物は限りなく少ない、ということだ。


 僕が知ってる中で、この芸当ができるプレイヤーはスー以外いない。




 まさに、彼女にしかできない”神業”。




 シェルスクリプトが発動すると、紙片が青白く光り、視界に文字が浮かび上がった。シェルスクリプトの中身だと直感的に理解した。


 書かれていた内容は——


 ```

 #!bin/bash


 sudo -i sl

 ```




 僕の体が紙片と同じく青白く光り始める。


 外から大量のエネルギーが流れ込んでくる感覚がした。エネルギーは体に収まり切らず、躯体にヒビを入れて溢れ出していく。root(管理者)権限を与えられたムーブ先輩と同じだと気づくまで少し時間がかかった。


 視界が、”反転”した。


 上下とか左右とかじゃなくて……なんて言うんだろう。”表と裏”と表現すればいいかな。そんな感じで僕の視界は全く別の場所を映し出していたんだ。


 視界に広がっていたのは宇宙。


 本当の宇宙じゃないんだけど、宇宙と表現してもいいくらい幻想的な世界が広がっていた。真っ暗闇の中でいくつもの星が瞬いていて、それらが木の枝のように繋がって銀河になって、銀河も結びついて宇宙大規模構造になって、接合の最終地点には、超超巨大ブラックホールと形容すればいいかな、銀河が塵芥に見えてしまうほど大きな黒穴が広がっていた。


 僕は無意識に笑みを浮かべていた。


 まるで全能の神にでもなったかのような気分、なんて書くとおこがましいかもしれないけど、夜空に瞬く星、銀河、大規模構造の一つ一つの名前が手に取るように理解できたんだ。


 同時に、僕は表のゲーム世界の光景も目にしていた。不思議だと思うかもしれないが、このとき僕はゲーム世界と”ゲームの裏側”の両方を見ていたんだ。


 ゲーム世界ではリムーブが僕のことを睨みつけていた。


 彼の表情は誰が見ても明らかに歪んでいた。剥き出しの歯を軋らせ、右頬を歯茎が見えるまで引き上げ、眉を顰める顔は”異形”と呼ぶに相応しい形相だった。


「どうして……どうして、お前なんかがぁ……」


 歪む口から漏れ出る言葉。あれが何を意味していたのか、僕にはわからない。


 敗北を悟った負け惜しみだったのか、僕にroot(管理者)権限を与えられたことへの憤りだったのか、それとも権限を与えた彼女への失望だったのか。彼に出会うことはもうないだろうから、今となっては確かめようもない。


 けど、たとえ彼の真意を知ったとしても僕のやることは変わらなかっただろう。

 ゲームの裏側。ユーザーデータが保存された場所に指を向ける。


 狙うは————

   リムーブのユーザーデータ。


 root(管理者)権限を与えられたとき、僕は直感で理解した。sudo状態の僕が何ができるか。


 普段のslコマンドは一方向にしか進むことができなかった。だから、組み込みコマンドと併用することで追尾機能もどきを実装するしかなかった。


 けど、sudo状態の僕はゲームの裏側に向けてSLを発進させる事ができる。すなわち————




   相手のユーザーデータを直接攻撃することができるんだ!!




 ユーザーデータは動くことができない。それに装甲も身につけてないから、ダイレクトにダメージを与えることができる。


「ク……クソ……ガァアァアァアアァ!!!!」


 それを最後に、リムーブは聞き取り不能な声を発して近づいてきた。口からは涎が滴り、白目を剥いていた。


 一方の僕は落ち着いていた。やることは決まっていたから。

 勝利に向かって、逆転満塁サヨナラホームラン————


「`sudo THE FUNCTION "while_train"`」






——————

作者注


エックス・ワールドの原案となったLinuxにおいて組み込みコマンドのechoコマンドでシェルスクリプトを作成することはできますが、エックス・ワールドではechoコマンドに既に別の機能(プレイヤーの索敵及びメモリ量の表示)が割り当てられているため、シェルスクリプトを作成することはできません。


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