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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第1章「エックス・ワールドのはじまりはじまり」
5/16

episode5「IKIJIBIKI」

 今の僕の呼び方からして勝敗は予想できてるかもしれないけど、語らせてくれ。初めての対人戦だったんだ。


 でも、そのシチュエーションは多くのエックス・ワールドプレイヤーとは違っていたはずだ。


 敵は同年代の異性で、勝ったらなんでもいう通りにするという。僕の妄想機関車は合図を待たずに猛烈発進してしまった。


 体のラインがハッキリした黒のラバースーツに包まれた肢体。腰部の湾曲に沿った胸には実り始めた桃が……


 やめよう。これ以上は。


 けど、当時の僕は非難されても仕方ないくらい彼女の体を観察していた。スーツの下にあるものを見ようとするくらい凝視していた。”戦闘”の2文字なんてすっぽり抜けてしまっていた。


 一方、ムーブ先輩は——


「`mv [~ ~ ~-5]/Glock_19C.obj ./`」


 とコマンドを唱えて5メートル先に落ちていたハンドガンを右手に移動させると————


 銃口を僕に向けた。


 彼女の体を見つめていた僕が銃の存在に気づいたのは、コマンドが発動してから1秒後だった。


 真っ黒な、全てを飲み込んでしまいそうな銃口。


 僕は初めて”死”を実感した。熱いものが波を引いていくみたいに体から抜けていく。


(動かないと)と思った直後、

 銃声が鳴った。


 エックス・ワールドの物理演算は正確だ。トリガーを引いてから銃弾が発射され、命中するまでタイムラグが存在する。


 そのわずかな時間で僕の体は右に動いていた。左頬に何かが掠める感触がして、気がついた時には銃口から硝煙が出ていた。


 左頬に痛みを感じる。触ってみると、指先に青い光子が付着して消えていった。エックス・ワールドは仮想世界のゲームだから、出血することはない。けど、指についた青い光子はまるで血のようで、僕の心を凍りつかせた。


(今のは運だ……。もし、動くのが0.01秒でも遅かったら、銃弾は間違いなく頭部に命中していた!)


「君さあ、学校で女の子の友達いないでしょ」


 顔を上げると、黒と白のプラグスーツに身を包んだ少女がいた。

 彼女は笑みを浮かべていた。


「その目、ビンゴかな? わかるんだよね〜。自分で言うのもなんだけど、あたしってリアルでもルックスいいからさ。男子にそういう視線を向けられるなんてしょっちゅうあって。まあ、別にそれはいいんだけど。忘れちゃいけないのは君————、()()()()()()?」


 僕は無意識に唾を飲み込んだ。彼女の発する”戦場”という言葉がとても重く感じた。


エックス・ワールド(ここ)にはどんな手段を使ってでも勝とうとしてくる人たちがいる。ぶっちゃけ、あたしよりも際どい格好してる人なんて山ほどいるよ。こんなので集中力欠いていたら——」


 銃口がピタリと止まった。


 直感した。


(……撃たれる!)


 さっきと同じだった。体よ動けと思う頃には銃声が聞こえて、今度は肩を銃弾が掠める。ゲームの設定で痛覚はほとんど感じなかったけど、傷を負ったという事実が精神を揺さぶる。


 僕は転がりそうになりながら走り出した。足跡そくせきを辿るように弾がコンクリートの床に穴を穿つ。


 この時点で僕の頭によこしまな思いは1ミリもなかった。考えていたのは1つだけ。


 生き残る(勝つ)方法!


「`cd [~7 ~3 ~]`」


 けれども打開策を思いつく前に、ムーブ先輩はコマンドを唱えて僕の前に()()()()()()


 銃口がこちらを向く。


「これで終わ————」


「`sl`!!」


 もう無我夢中だった。


 反射的に僕はコマンドを詠唱する。


 背後から黒い蒸気機関車が姿を現す。3メートルを超す鉄塊は、黒い煙を吐き出しながら線路のない空中を進んでいく。


 ムーブ先輩は目を見開く。


「`cd [~10 ~10 ~10]`」


 再び瞬間移動して列車を躱した。SLは直進し、鉄道ターミナルの屋根に衝突する。


 映画でしか聞かない轟音。コンクリートが崩れる音や、金属が引き裂かれる音が重なって、機関車は直径5メートルの穴を形成した。


「ヒュ〜、これがslコマンドか! 思ったよりすごいね!」


 ムーブ先輩が感嘆の声を上げている間に、僕は頭を回転させる。


 でも、どうすればいいかわからない。野良のモンスターは次の動きを予測するのが簡単だった。なんたって、slコマンド1つで倒すことができた。


 ところが、目の前にいる相手は生身だ。野良モンスターより100倍難しい。いや、それ以上かも。


(なにかいい作戦は……)


 頑張って考えてもわからない。まるで地球を動かそうと地団駄している心地だった。


 そのとき、右手に硬いものが触れた。アサルトライフルだ。


 地球にヒビが入った気がした。


 スーの言葉が蘇る。


『エックス・ワールドにはエリア内のランダムな場所に”オブジェクト”と呼ばれる武器がスポーンします。プレイヤーによっては、これらをうまく使って攻撃する人もいます』


 オブジェクトは野良モンスター相手に使ったことがあったので、操作方法はわかっていた。


 銃口を向ける。

 先輩がこちらを振り向く。


 でも————、遅い!


 トリガーを引くまで、時間はかからなかった。


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