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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第3章「ANTI ANTI XWorld」

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episode39「DARMA GRAND PRIX」

(まずったなぁ……)


 リムーブは舌打ちした。


 スーを奪われることは想定外だった。root(管理者)権限を取得した時点で彼女は用済みだったが、彼女を倒せば敵は総出でリムーブに襲いかかってくることは目に見えていた。ログアウトした状態では貢献ポイントは付与されない。ならば、敵が勝つための手札をちらつかせつつ、エックス・ワールド(世界)が崩壊するまでいなそうと当初考えていた。


 しかし、肝心の”切り札”が敵の手に渡ってしまった。ギリギリで放った竜も不発に終わった。


 ”敗北”が言葉にならず潜在意識の中でちらつく。


 リムーブは右頬を痙攣させた。


(どこだぁ〜? 順当に考えればbinだがぁ……どのみちこのエリアには用はないなぁ)


 リムーブはcdコマンドを使って離脱しようとした。


 しかし、ミスター赤帽が距離を詰めてくる。振り下ろされるビーム・サーベルを彼は躱さざるを得ない。


「そんな簡単には行かせないよ〜」


 四方からは光線銃と煙幕。目の前にはビーム・サーベルを持ったプレイヤーと十数体のポッド。cdコマンドを打つ余裕がない。


 エリアを跨いだ移動には”/(ルート)エリア”という特殊なエリアを通過する必要がある。”/(ルート)エリア”は全てのエリアの中継地点であり、いまミスター赤帽たちがいるrootエリアとは別のエリアであることに注意したい。


 通常、cdコマンドは「cd」と唱えた後に手元のホログラムキーボードで座標系を入力しないといけない。座標系は基本的に「[x座標 y座標 z座標]」と型が決まっており、エックス・ワールドのプレイヤーの多くは「cd」と唱えた時点でこの座標系も自動で表示できるようにcompleteコマンドを用いて設定してある(completeコマンドは組み込みコマンドの一種。コマンドを素早く入力するための設定ができる)。


 しかし、”/(ルート)エリア”を通過する場合は、座標系を使わずにディレクトリパス("/bin"で表される形式)を記入しないといけない。例えば、binエリアに移動するためには、「`cd /bin/[x座標 y座標 z座標]`」と入力する必要があるのだ。そのため多くのプレイヤーは、エリアを跨ぐ際には「cd」と唱えて座標系まで表示させてから、一度座標系を消して行き先を入力しないといけなかった。リムーブも例外ではない。


 リムーブはこの操作に1秒以上の猶予が必要だった。キャットのように熟練したプレイヤーであれば、もっと短い時間で入力することが可能だが、彼はゲーム初心者でコマンドの入力に慣れていなかった。


(あぁ〜……クソッ……!)


 焦りは募るばかり。


 敵は今にも致命傷となる一撃を打ってくるかもしれない、という不安。

 これに負けたら自分は破滅だ、という強迫観念。


 それらが積み重なった結果、彼は一つの賭けに出た。


 リムーブは前に向かって地面を蹴った。行手にはミスター赤帽がいる。

 ミスター赤帽はビーム・サーベルを握る。


 リムーブも剣を振り上げる。

 そのまま刃を交えるフリをして————


「グ……ゥ……」


 彼はミスター赤帽の攻撃を()()()受けた。


 己の覚悟を示すため、ダメージ軽減はつけていない。肩にビーム・サーベルが食い込む痛みに耐えながら、彼はコマンドを実行した。


「`cd /bin/[10 10 10]`」


 果たして、彼の目論見は成功した。


 傷を負うことと引き換えに無我夢中で移動した先はbinエリア。図らずもスーたちがいる場所だった。


(どこだぁ……どこにいる……っ!)


 彼は慣れない手つきで望遠プラグインを起動させると、手当たり次第ズームしてスーのことを探す。


 10秒と経たずに彼女の姿を捉えることができた。




 ————リムーブの顔は青ざめた。




 スー・マードックのそばに立つは金髪の少女。


 root(管理者)権限を付与された彼女の白い肌はヒビ割れ、ヒビからは青白い光が漏れている。青と緑のオッドアイは光り瞬き、収まりきらなかったメモリが全身から溢れ出す。


「マァズイ……!」


 リムーブはcdコマンドで彼女の元へ向かおうとした。

 しかし、背後からビーム・サーベルが伸びてくる。


「言ったでしょ、逃さないって!」ミスター赤帽だ。


 リムーブは歯軋りした。勝利を目前に事態が思うように転がらなくなったことに、若さには不釣り合いないも甘いも知ってしまった青年の精神は怒りで弾けそうだった。


 望遠プラグインは、少女——ムーブがコマンドを入力している様子をありありと映し出している。落ち着いた所作で、1文字1文字ミスがないように打ち込む姿は、リムーブの神経を逆撫でさせた。


 世界最終日、消滅の3秒前に笑うのは自分だ! 自分じゃなきゃダメなんだ!


 初めてリムーブが叫び声を上げる。


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