episode37「05410-(ん)」
rootエリアを埋め尽くしていた1000体のポッドは、一つの関数によって消滅した。
「remove_all_pod。エリア内にあるポッドを全て検出し削除する……。俺が何も対策していないと思ったかぁ〜?」
笑みを浮かべるリムーブにミスター赤帽は首を横に振った。
「いいや。むしろ君こそ、おじさんがこれで泣き寝入りするほどのザコだと思ってるのかい?」
ocコマンドは元々RedHat社が開発・提供するソフトウェア、OpenShift Container Platformを操作するために開発されたコマンドだ。詳細な解説は専門の書籍やサイトに譲るが、ここではこれからの戦いで注目すべき”オート・スケーリング”という機能について簡単に説明しておく。
オート・スケーリングとは、ポッドを自動的に修復させる機能である。OpenShiftは作成した軍隊内で兵士が破壊されたことを検知すると、自動的に新しい兵士を生成して再配備する。これは機能の一つであり、軍隊を展開した時点で適用される。そのため、ポッドを復活させるためのコマンドをいちいち実行する必要はなく、ミスター赤帽のメモリが続く限り全自動で行われる。
ミスター赤帽のメモリは、リムーブの10倍ある。1000の軍勢が復活する余力は十分だ。
彼の背後で砕け散ったポッドは次々と再生成され、10秒も経たないうちに1000の軍勢は元通り整列し直した。
リムーブは歯軋りする。
「だったら、何度も使うだけ! `while True; do THE FUNCTION "remove_all_pod" &; done`」
whileコマンドと組み合わせた関数の無限発動。リムーブはポッドを削除する関数はremove_all_podしか持っていないため、whileコマンドと併用することにより、永続性を確保した。
しかし処理の重さから関数は1秒ごとにしか発動されない。1秒あればミスター赤帽の軍隊は100近いポッドを再作成して攻撃を仕掛けることができる。
「チッ!」
リムーブはcdコマンドで後退を余儀なくさせられた。反撃しようとするものの、自身が発動している関数に首を絞められる。
リムーブを攻撃するポッドは1秒ごとにremove_all_podによって破壊される。このとき再作成されるポッドはrootエリア内のランダムな位置にスポーンする。これがリムーブにとっては1秒ごとに別方角から攻撃を受けることと等しい状況になってしまっていた。
足元に置いていたスーを連れていく余裕すらない。
「予定通りスードゥーを確保したよ〜。今からそっちに送るね」
ミスター赤帽は目配せして部下の1人、ドッカーに指示を出した。ドッカーは頷いてスーに手を伸ばすと————
「うわっ」
部下の声にミスター赤帽は振り向いた。ミスター赤帽と一緒にポッドの設計を担っている腹心の腕は綺麗に切断されていたのだ。
リムーブも無策で離れたわけではない。
彼女の周囲1ディレクトリ以内の侵入物を検知し、rmコマンドが発動するように関数を事前にセットしていたのだ。
『メイクD、いけそうかな〜?』
ミスター赤帽は副総統のメイクDにディスコードを繋いだ。空間系の能力で真っ先に思い浮かんだのが彼だったからだ。
中華かぶれのカナダ人は言う。
『ウチのコマンドじゃ、ディレクトリを作った瞬間に消されるます。mvコマンドなら可能かもですよ』
『ムーブは今回の作戦の要だ。申し訳ないが、現時点で彼女を前線に出すことはできない』別チャンネルからエプトの声が聞こえた。
『そうだよね〜。なんかいい案はないかな〜』
呑気な声を出しながらも、ミスター赤帽は真剣に考えていた。
(運搬系のコマンドならレッド・ハットにもいるが、みんなサポートメンバーだ。ここに呼んで果たして満足に動けるかどうか)
彼の考える通り、rootエリアでは熾烈な戦いが繰り広げられていた。エリアの至る所でポッドが生成されてはリムーブを攻撃し、1秒後には破壊される。リムーブは攻撃を避けるため四方八方に動きながら、隙あらばrmコマンドを打とうとする。それを部下が光線銃やビーム・サーベルで阻止する。前線に慣れていないメンバーをここに投入することは良策とは言い難かった。
そのとき
『僕が行きます』
ディコードで1人の少年が手を挙げた。ミスターからすればリムーブと同じ初心者の域を出ないプレイヤー。だが、今回の作戦の立案者である彼に老練のプレイヤーは一定の信頼を寄せていた。
ミスター赤帽は笑みを浮かべた。
『いいよ、こっちに来て』
* * *
作戦立案者は本部で待機するのが鉄則だ。作戦に不測の事態が生じたときに、すぐ指示を出せるようにするためだ。
けど、スーの周囲に張り巡らされた関数の特性を聞いたとき、bootエリアで彼女を助けた時のことが思い浮かんだんだ。
slコマンドのオプションa。
あれならどんなに空間に制約があろうと救出することができる。
思った時には口が動いていた。少し考えれば僕以外にも適任がいることぐらいわかるだろう。
でも、我慢できなかった。
他でもない、僕が起こしに行きたかったんだ!
周囲の反応は好意的だった。
「無理するなよ」出発前にエプトさんが声をかけてくれた。
「ヤツのコマンドは一発で致命傷になりうる。少しでも身の危険を感じたら撤退するんだ」
「わかりました」
僕は小さく頷くとcdコマンドを発動した。
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