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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第3章「ANTI ANTI XWorld」

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episode35「狭心症」

スー 2045/06/19 05:40

エプトさん、いまお時間よろしいですか?




エプト 2045/06/19 05:40

大丈夫だよ




スー 2045/06/19 05:40

この度は、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。




エプト 2045/06/19 05:41

謝る必要はない。誰だって失敗はするからね。それをカバーするために仲間はいるんだよ

さすがにルート権限を渡すとは思わなかったけど笑




スー 2045/06/19 05:41

申し訳ありません。




エプト 2045/06/19 05:42

だから大丈夫だって笑

君のことだ。十中八九なにかされたんだろ?


何をされたか聞くつもりはないし、君もそんなことを話すために俺に声をかけたわけじゃないでしょ?




スー 2045/06/19 05:44

はい。

彼と話をして、彼の半生を知りました。


彼は金に異常な執着を抱えており、金があれば全て解決すると思っています。彼の考えを完全に否定するつもりはありません。それどころか、なぜ彼がそのような考えに陥ったのか理解することができるのです。


世界にはたくさんの悲しみがあります。目や耳を塞ぎたくなるような悲しみがたくさんあります。知識として知っていましたが、彼として目の前に現れて心情に変化が生まれたのです。


彼は、裕福な暮らしと絶望的な暮らしを短い間に経験しました。その落差と、マイナスの極致ともいえる現状が、彼にかつての生活を渇望させ、金への固執につながっていると推測します。彼は、絶望から抜け出すために買主の手から逃れて、背水の陣でエックス・ワールドをプレイしています。


ゲームをひとつ諦めて1人の人生が救われるのなら、それでもいいんじゃないか、と私は思ってしまうのです。




エプト 2045/06/19 05:45

無口だった君が、他人を思いやれるようになるなんて、僕は嬉しいよ




スー 2045/06/19 05:45

ありがとうございます。




エプト 2045/06/19 05:49

俺は人の考えを真っ向から否定するのは苦手だ。だから、最終的にどうするかは君次第だけど、


俺としては、ゲームはみんなが楽しむものだと思ってる。1人の利益のために存在していいものじゃないと思うんだ。オンラインゲームは特に。


それが明日には死んでしまうような人だとしても、その人には申し訳ないけど、彼のためにみんなの楽しい時間を奪うのは違う。


大なり小なり、誰かの幸せのためにその他大勢が犠牲になるなんておかしいと俺は思うんだ。だから、それを少しでも解消したくて今の仕事をしているってのもある。実現できてる、とは言えないけどね。




エプト 2045/06/19 05:51

それに、これは俺のわがままだが、俺は()()()()()()()()()()()()()()


きっとみんなだって思ってることだし、君自身そう思ってるだろう?




エプト 2045/06/19 05:52

なら、やることは決まってるんじゃないか?




   * * *




 2045年6月19日

 僕はこの日を一生忘れないだろう。


 リムーブという突如現れた異端児。彼が発動したコマンドは、エックス・ワールドを破滅へと導くバースト・ストリームだった。


 崩壊するゲームを止めるため、僕らデビアンとレッド・ハット、本来敵同士の二つが手を組むことになった。


 2大勢力が力を合わせたことで、リムーブの居場所はあっという間に判明。周辺地形も入手して作戦会議はとんとん拍子で進んだ。


 会議が終わって15分後、僕はbinエリアのセントラル・パークにいた。いや、正確には元セントラル・パークだ。彼のコマンドによって更地になったかつての近代都市には、作戦に参加するメンバーだけが集まっていた。


 空を見上げる。空には平時では見ることのできないブラックホールのような穴が時間と共に大きくなっている。そう見えるのは、穴がまだ遠くにあるからで、実際には落ちてきているらしい。あの”巨大ブラックホール”が地表を埋め尽くした時、僕らは敗北する。


「緊張してるの、ポッポくん?」


 隣に立つムーブ先輩が声をかけてきた。いつもの黒いラバースーツに白のプロテクターを装着している。


「まあ、うまくいくかわかりませんし……」


 僕は唇を引き締めた。これから始まる作戦に不安しかない。エックス・ワールドを始めてから2週間のヒヨッ子が提案した作戦。スーを助けたいという一心で必死に絞り出した案に、みんなベットしてくれた。そのことにありがたいと思いつつも、大丈夫なのかなという漠然とした不安もあった。


 そんな僕の心情を察したのだろう。先輩は満面の笑みを浮かべた。


「大丈夫。ポッポくんの思いついた作戦だよ。絶対うまくいくって」

「そうにゃ!」


 後ろからキャットさんが抱きついてきた。僕は「ウワッ」と情けない声を出してしまう。


「リーダーも認めた作戦なんにゃ。自信を持つにゃよ、車掌くん」


 一度はラブホに誘われたキャットさんにハグされるなんて、いつもの僕なら顔を真っ赤にするどころか、鼻血を垂れ流して卒倒しているに違いない。


 けど、当時の僕は不思議と落ち着いていた。きっと、この作戦の中に”スーの救出”が入っていたからだろう。


『みんな、準備はいいか?』


 エプトさんのアナウンスがエリアに響く。異論を挟む人はいない。binエリア含め、エックス・ワールドには作戦に参加する人とサポートする人しかログインしていない。”破滅の呪文”に巻き込まれないように、という配慮からだ。作戦に参加しない人はディスコードの画面共有機能で情勢を見守っている。


 最終確認を終えたエプトさんは時刻を読み上げた。


『標準時2045年6月19日13:31』


 エックス・ワールド消滅まであと1時間を切っていた。


『これより、作戦行動を開始する』

『OK〜。じゃあ、始めようかレッド・ハット諸君』


 陽気な声が響いて、空中に巨大なディスプレイが現れた。ディスプレイはrootエリアの内部を映し出している。


 すでに先遣隊はリムーブの元にたどり着いているようだった。画面の奥にうっすらとではあるが、細身のシルエットを確認できる。


 映像から声が聞こえる。


『火蓋はおじさんが切るからさ、みんなはポッドに合わせて動いてくれ』


 レッド・ハットのリーダー、”赤帽さん”の声だ。


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