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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第3章「ANTI ANTI XWorld」

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episode32「白日」

「`THE FUNCTION "remove_all" --exclude sudo`」


 彼と彼女以外、半径1000メートルにわたるプレイヤーを含めた全ての物質が消滅した。


 わずか2秒で行われた所業。逃れられた者はいない。


 彼に襲いかかっていたプレイヤー21名、物陰で様子を伺っていたプレイヤー9名、長距離射撃を試みていたプレイヤー3名。


 全員、例外なく青白い光と化した。


 残ったのはリムーブと、

 左足を失った彼女スーと、


 彼女の前に立つ僕だけ。


「アレェ〜、みんな消したつもりだったんだけどなぁ〜」


 舐めるような口調でリムーブが口を開く。僕は何も言わない。

 いや、言えなかった。


「あっ、そっかぁ〜。彼女のいるディレクトリは消滅しないから、同じディレクトリに入っちゃえば生き延びれるのかぁ〜」


 ここで彼は笑った。初めて見る彼の笑顔は、にちゃぁとしていて率直に言うなら気持ち悪かった。


「まぁ、その状態でどうすんのって感じだけどねぇ〜」


 笑みを浮かべたまま、憐れむような目で僕のことを見る。


 彼女の前に移動したとき、僕は咄嗟に手を前に出した。だから無事だったんだろう。


 一部を除いて。


 両手は消し飛び、両足のつま先と膝の一部が欠けていた。ダメージ軽減はつけていたけど、痛かった。断末魔を上げるほどではなくても、患部を針でチクチクされているような、嫌な感じがした。


 加えて、切断面から出血しているかのようにメモリが流れ出ていた。回復薬はない。強制ログアウトするのも時間の問題だった。


 僕は後ろで倒れるスーを見た。左足が消えた彼女は、なくなった足を庇うようにうずくまっている。その表情は、とても痛そうで、辛そうで————


 僕の心に火をつけた。


(勝つんだ、ここから!!)


 僕は逆転への鍵を探し始めた。


 今までにないくらい頭は回転し、胸の奥底から普段感じることのない正のエネルギーが溢れ出した。


 あれを人は”勇気”と呼ぶんだと思う。


 この時の僕は人生のなかで一番のパフォーマンスだったと言っても過言ではない。身体的には満身創痍だったけれども、短い時間ではあったけれども、確信をもって言えることだ。




 たとえ、結果が”敗北”だったとしても…………。




 人生最高の状態でも勝てない存在はいる。たった一言で世界を消すことができる相手であれば、なおさら。


「`rm -f [~3 0.1 ~-0.5 0.1 ~ 0.1]`」


 コマンドが唱えられた直後、僕の右足がなくなった。四肢のうち、三つを失った僕は膝をついた。痛みで顔が歪む。


「うざいよぉ〜、その眼ぇ〜」


 リムーブが、こちらに歩いてきた。


「自分が主人公のような、その眼ぇ〜。

 ……ケヒッ、ムリ、無理なんだよぉ〜。

 ……誰も、誰も俺のコマンドを避けられない」


 ヤツは僕の横を通り過ぎようとした。ここを突破したら、ヤツはスーの元へ辿り着いてしまう。なぜ彼女のことを狙うかわからないけど、絶対阻止しなければならない。


(動け……動け、動け、動け、動け!!)


 僕は顔を上げようとした。


 しかし————


「`rm -f [~ 0.1 ~-0.5 0.1 ~0.1 0.1]`」


 通りすがりざまに、ヤツはコマンドを一つ唱えた。


 胸に衝撃が走る。


 焼けるように、痛い。

 吐き気を感じる。


 力が、抜けていく————。


 僕は自分の胸を見た。




 胸にはポッカリ穴が空いていた。




 僕が地面に倒れ込むと同時に、リムーブはスーの体を持ち上げた。彼女は多少抵抗していたが、痛みのせいか動きが鈍い。


「や、やめ……ろ…………」


 リアルではないにせよ、胸に穴が空いたんだ。こればっかしは、ダメージ軽減がついていたとしても強烈な痛みを発した。呼吸ができなくなるくらいに。いっそのこと、ダメージ軽減がなかったら、僕は楽に意識を失っていたかもしれない。


 視界には「心拍が不安定です。スーツを脱いでください。あと23秒で強制的にスーツから排出されます」と大きく表示されていて、2人の姿が見えない。


 けど、声だけは聞こえていた。


「教えといてやるぅ。俺の名前はムハンマド・ロビン。エックス・ワールドを破壊する存在だぁ。ちゃんと伝えるんだぞぉ〜」


 そうして彼の気配は消えた。誰もいなくなったbinエリアに乾いた風が吹く。


「待……て……っ」


 動こうとしたが、一言が限界だった。


 視界のカウントダウンが0になり、僕はフルダイブ・スーツから飛び出すように排出させられた。




   — — —




 1時間が経ち、こうやって状況を整理できるまで落ち着いた。


 でも、心の奥底にまで達した傷はすぐに治らない。四肢を失ったことによるショックもそうだけど————


 …………スーを、守れなかった。


 僕があのとき彼女の話を聞いていれば、彼女に反論しなければ、ディスコードを繋げておけば、


 もっと、力があれば…………。


 結局、僕は1人では何にもできない存在なんだ。その無力さをまざまざと思い知らされた時間だった。




 でも、ここで諦めるつもりはない。


 もうすぐデビアンのディスコードで会議が始まる。


 考えるんだ。


 今までの喜びを嘘に変えて差し出してでも見つけるんだ。


 ヤツに勝つ方法と、

 彼女を救う方法、そして——

 エックス・ワールドを守る方法を。




   * * *




 root(ルート)エリア。


「アレェ〜? 俺のこと見えてるぅ〜?」


 洞窟の壁際に座るスー・マードックは何も言わず、目の前に立つリムーブを見つめていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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