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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第3章「ANTI ANTI XWorld」

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episode31「へっくしゅん」

 タッチが愛用する銃はエックス・ワールドの既存オブジェクト”M4_carbine.obj”を()()したものだ。


 エックス・ワールド内のオブジェクトは、ブレンダーなどのCG作成ソフトを用いることで自分専用の武器に作り変えることができる。タッチは、この手法を用いて通常のアサルトライフルではなし得ない長距離射撃とビーム射出を可能にした。


 さらに、画面をズームするプラグインを導入することで、最大5キロメートル先の敵を捕捉することができる。


 精密な長距離射撃に加えて、敵を嘲るような攻撃手法によって、彼はデビアンの本拠地であるbinエリアの防衛を任されている。


(それにしても……)


 タッチは拡大した視界でリムーブを捕捉した。echoコマンドと併用することで彼のメモリ量を測定することができる。


(とんでもないメモリしてやがんな。肉体改造だけでは無理だ。いったい、どれだけのプレイヤーを倒してきたんだ)


 メモリは現実世界の肉体強度と、ゲーム内での実績によって決定する。リムーブのメモリ量は、毎日1時間ジムでトレーニングしているタッチの10倍以上もあった。


(この銃ならあと8回ヘッドショットすりゃあ勝てるくらいか……。rmコマンド相手に? まったく、くしゃみが出ちまうくらい悪い冗談だぜ)


 タッチは苦笑いを浮かべた。


(ま、やるんだけど、さ)


 再びリムーブに照準を定めると、彼と目が合う。


 レッド・ハットを1人で壊滅させた滅殺の使徒。

 その反撃が始まろうとしていた。




   — — —




 滅殺の使徒の反撃は、コマンド1つで終わった。


「`THE FUNCTION “remove dragon”`」


 whileコマンドとechoコマンド、rmコマンドを組み合わせた|THE FUNCTION《必殺技》。


 触れたものをすべて消去する破滅の竜が1キロ離れたタッチめがけて時速60キロメートルで飛んでくる。


「マジかよ。あいつ、俺と同じプラグイン使ってんな」


 タッチは立ち上がると


「`for i in {1..10}; do touch wall{i}.obj; done`」


 目の前に厚さ50cmの白壁を10枚出現させた。


 touchコマンドはエックス・ワールドにおいて物質を生成することができる。しかし、M4_carbine.objなど複雑なオブジェクトを生成することはできず、作れるのはwall.objのような単純なオブジェクトに限られる。それでも彼は遮蔽物としてたくみに配置することで、敵の反撃から回避していた。


 生成した壁の厚さは合計5メートル。これだけの防壁を配備して、自分は後方に下がれば防ぐことができるだろう。


 ——rmコマンドだけなら。


 破滅をもたらす竜は、echoコマンドとwhileコマンドにより指定したプレイヤーが存在する限り追い続ける。どれだけ障害物を設置しようと、竜は全てを破壊して進んでいく。


 タッチが設置した10枚の壁は、発泡スチロールのように砕け散った。


(マジか〜……。敵さん思ったよりやり手だ)


 追加のコマンドを唱える暇は、なかった。




   * * *




 タッチの退場は僕らの想像より100倍早かった。


 リムーブが発動したコマンドはたった一つだったけれども、それが攻略困難なダンジョンのようで、同じようなものがいくつもあると考えると、先ほどまで見えていた勝利への道が消えてしまいそうだった。


 なんてことを考えていると、リムーブが手をこちらに向ける。


「ポッポくん、あぶない!!」


 ムーブ先輩が僕のことを勢いよく押した。僕らは瓦礫の上に一緒に転がり込む。

 先輩のことを見て、表情筋が固まった。


「先輩……腕……」


 先輩の左腕は二の腕から下が切れ味のいい刀で切られたみたいにスッパリとなくなっていた。


「気にしないで。現実じゃないんだから、これくらいでうろたえちゃダメ」


 彼女は険しい表情でリムーブを見上げた。


「それより、たたみかけるよ」


 リムーブの周辺にはデビアンの人たちが集まってきていた。前線にいる人を中心に約20名が彼を取り囲む。


『奴の動きに注意しながら一斉に攻撃するぞ』


 ディスコードから部隊長(副司令官の次に偉い人)のタールさん(だった気がする)の声が聞こえた。彼は簡単でありながらも集まった人に指示を出していく。人々は武器を構えたりコマンドを打つ準備をしたり、戦闘態勢をとった。


 ふと、集まった人たちの中にスーの姿を認めた。彼女は集団から離れた場所で、ボロボロになった紺色の制服を身につけたまま、構えることなく状況を静観していた。


 僕は彼女にディスコードを繋いで指示を仰ごうとした。

 でも、さっきの出来事が頭によぎる。


 きっと彼女はいま、素晴らしい作戦を立案しているに違いない。そこに()()()()()()()()()僕が声をかけたりしたら、邪魔になってしまうだろう。


 なんて考えてると、頭上から声がした。


「あ〜、なんだぁ〜」


 首筋を舐められているような声。リムーブの声だとすぐにわかった。


「そんなところにいたんだぁ〜」


 彼がある場所を見つめていることに気づく。どこを見ているのか確認する2秒前————


『全員、攻撃開始!!』


 味方が一斉攻撃を開始する。ある者は剣で切りかかり、ある者は銃を乱射し、ある者はコマンドを詠唱する。


 ムーブ先輩含め、全員の意識がリムーブに向けられていた。

 みんなが彼の次の挙動に注目していた。


 どこを見ているかなんて気づいていなかった。


 僕を除いて!!


「`THE FUNCTION "remove_all" --exclude sudo`」


 世界が、崩壊した。


 


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