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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第3章「ANTI ANTI XWorld」

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episode28「おしゃかしゃま」

 ここはレッド・ハットの本部があるsbinエリア。


 浮遊する5つの巨大な岩の上には、80階を超える高層ビルが乱立しており、SFとファンタジーが融合したような、独特な雰囲気を醸し出していた。


 一番中央にある岩の、真ん中にある広場。スカーレット・スクエア・ガーデンと呼ばれる場所には多くのレッド・ハット構成員が集まっていた。


 この日は新規プレイヤーのログイン日。エックス・ワールドではシステムの負荷を下げるために、ゲームごとに新規プレイヤーが入れる日を限定している。この世界ゲームで新規プレイヤーがログインできるのは、世界標準時で月曜日の午前9時〜10時と決まっていた。


 次々と新しいプレイヤーがログインしてくる。


 世界の統治には規律が必要だと考える彼らは、コスチュームを赤で統一している。それは新規プレイヤーも例外ではなく、どれだけセンスのある色使いをしていても、メインカラーを赤にさせられた。


 没個性ともいえる方針に異を唱えないのは、彼らがルールに縛れることに一種の快楽を求めているからだろう。


「今回はあまりいないね〜」


 レッド・ハットの総統・通称”ミスター・赤帽”は、10メートル離れたところから新規プレイヤーがログインする様子を眺めていた。多いときには1分に1人の割合でログインしてくるのだが、今は10分に1人くればいい方だ。


 無理はない。すべてのエリアが開放されたゲームでやることといえば、エリアを守るか奪取するかの二択。せっかくフルダイブ型MMORPGをプレイするなら、新規開放エリアを獲得するところから始めたい、というのがゲーマー心理というものだろう。おかげで、ゲームの最後の方——二ヶ月目の下旬に新規でログインするプレイヤーは少ない傾向にあった。


(今回はあっちに軍配が上がるかな〜)


 そんなことを考えていると、また新しいプレイヤーが召喚された。黒フードに身を包み、顔は見えない。フードの中身がどうあれ、服の色は黒から赤になるだろう。レッド・ハットの誰もがそう思った。


「ようこそ、レッド・ハットへ」


 部隊長のマンが新規プレイヤーに近づく。戦闘時には逆バニーを履いていた彼だが、ここではスーツに蝶ネクタイと紳士的な格好をしている。


「これから君と一緒に戦えることを嬉しく思うよ。早速だけど、そのフードの色を赤に変えてもらうことはできるかな? 我々には規則があり……」

「ウルセェヨ————」


 声帯を削ったようなガラガラとした声がしたと思ったら、




 部隊長の右腕が————消えた。




 マンは右腕に違和感を感じ、確認した。

 そこに自分の腕がないと気がついて、目を大きく見開こうとしたとき————


 彼の体は木っ端微塵に消え去った。強制ログアウトを示す青白い光だけが、虚しく天に昇る。


 全員、なにが起きたのか分からなかった。

 わからないうちに、人々は次々と消えていく。


「うわぁ、マジか〜」と呟く総統も例外ではなかった。


 30秒と経たずに、スカーレット・スクエア・ガーデンは崩壊した。


 大量の青白い光を添えながら、オブジェや遊具、迎撃用の兵器は削れ、消滅していく。


 唯一、難を逃れたのは副総統のメイクDだった。マンがログアウトしたことを確認した彼は、真っ先にcdコマンドで中央の“浮島“から離脱していた。本部が襲撃されたとき、態勢をいち早く立て直すために離脱する、というマニュアルに沿った行動だった。


 彼が中央の浮島から離れて3秒後。高層ビルを抱えた巨大な岩は音を立てて崩れ始めた。岩の大きさは高さ1800メートル、幅は最大2000メートルある。それほどの巨岩が、まるで子供が7日間で作った世界のように轟音とともに崩れたのだ。メイクDは息を呑むことしかできなかった。


(いったい何者ですだよ。それより、仲間は……)


 彼は生存者を確認するためにディスコードを開いた。直後、背後に気配を感じる。

 考える時間はなかった。


「`mkdir -m 0……」


 しかし、コマンドを全部唱えることはできなかった。


「`rm [~1 ~0 ~1]`」


 彼よりも短いコマンドによってメイクDの下半身が消失する。


(早いですよ……! それに、このコマンドは……!!)


 だが、考えがまとまる前に上半身も消え去った。




 ————1時間後、sbinエリアは消滅した。




   * * *




 …………最悪だ。


 どんな書き出しにしようか散々迷ったけど、この言葉しかない。


 最悪だ。


 文豪レベルになれば、もっと気の利いたセンテンスの1つや2つを捻り出すのかもしれない。


 でも僕は文豪じゃなくて戦士だ。


 いまは少しでも早く目の前の現実に対処しなければならない。そのためにも過去を整理する必要がある。そうすることで、何か見えてくるかもしれないと思ったからだ。


 “彼“を倒す秘訣と、

 ”彼女”を助け出す秘策が。




——————

mkdirコマンド:指定した場所に定められた権限を付与した空間を作成する。代表的な権限は0番で「完全権限剥奪空間」。

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