episode23「前前前世」
「もしかして……ムーブ先輩?」
僕が尋ねると、彼女はニッと笑った。
「そういう君はポッポくんだね。思ったよりもアバターまんまでびっくりした〜」
彼女は僕から一歩離れると手を後ろに組んだ。
「改めまして、私の名前は氷川利千といいます。よろしくね」
「と、豊田……輝です。……よろしくお願いします」
「それにしても、アバターまんまだね〜」
ムーブ先輩は感心したように僕の顔をまじまじと見た。エックス・ワールド内のアバターはかなり自由に作ることができる。僕はめんどくさかったので自分の顔を再現したけど(それはボタンひとつでできる)、中にはタッチのように…………
そうか、なんで気づかなかったんだろう……。
「ムーブ先輩こそ、アバターそっくりですよ」
「そうでもないよ〜。ゲーム内では、体型をもうちょっとスラ〜ってさせてるから」
そうか? と僕は先輩の体を見た。制服の上からでもくびれがわかるほど、引き締まった体をしてる。
「あっ、また変な目で見てる〜」
意地悪な笑みを浮かべる先輩。僕は慌てて両手を前に出す。
「ち、違います……」
そのとき、建物の入り口にいたタッチが「もう中に入れるぞ〜」と言ってきたので、会場に入ることにした。建物の中は外と違い、リフォームしたばかりの木目調の階段が続いていた。
階段を上っている途中で先輩が口を開く。
「ポッポくん、あとはファッションセンスだね〜。それさえクリアすれば、ゲームと同じいい男になれるよ!」
「ほ、本当ですか?」
僕は自分の服装を確認した。オレンジのパーカーに青のインナーシャツ、紺のジーパン。全部ユニクロ製で、買ってくれたのはお母さんだ。
ムーブ先輩は「うんうん」と頷いた。
「絶対なれるよ。今度、服とか買いに行こう。キャットさんも誘ってゲームのコスチューム決めたときみたいに手伝ってあげるから!」
エックス・ワールドの衣装もムーブ先輩とキャットさんにチョイスしてもらったことを思い出した僕は無意識に身震いした。理由はここでは書かないでおこう。僕の尊厳に関わるから……。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です」僕は口を真一文字にして答えた。
そういう先輩は学生服を着ていた。白のブラウスに紺のスカートと、よくみるセーラー服だ。
あれ? とここで疑問に思う。今日は日曜日。
「先輩は、学生服なんですか?」
「うん。私は今日、仕事があったからね」
仕事で……、制服?
はてなマークが顔に出ていたのだろう。
「私、こう見えて社長やってるんだよ。高校生社長っていうブランドは今しか使えないからさ。メディアに出るときは必ず制服を着て行くようにしてるんだ。そしたら相手も喜ぶし」
あとで知ったことなのだが、ムーブ先輩こと氷川利千は中学生の頃から起業を始め、高校2年のときに開発したスマホアプリが若年層を中心に日本で爆発的な人気を博した(なんなら僕もインストールしていた)。その人気ぶりから、アメリカの雑誌が選出する「世界を変える若者100選」に選ばれるほどのとんでもない人だった。
そんなことを当時の僕は露知らず、最上階にある会場に到着した。
木目調の床に青や白のカラフルな壁紙。中央にはケータリングが置かれたローテーブルが並び、それを囲むようにソファが配置されていた。初めてこういう場所に来た僕は「おお〜」と歓声を上げる。
部屋にはすでに幹事の人が数人いた。そのうちの一人、代表っぽい男性が口を開く。
「みんな、よく来てくれたね。ひとまず自由に座ってくれ」
男性は外国人らしく、彫りの深い顔に大渕メガネをかけている。茶髪に青い瞳、そしてガタイのいい体はいかにも西洋人っぽい……
————あれ?
声が出ない。
まさか、まさかこんなところで出会えるなんて。
だって、銀河何個分の果てにいると思っていたから。
なのに————。
男性がこちらを向く。
「やあ、アキラ。会えるのを楽しみにしていたよ」
白い整った歯を見せて笑みを浮かべるのは、間違いなく昨日の夜、オンラインで会話した————
ブライアン・ペレンスだった!
「改めまして、デビアンのリーダー、エプトことブライアン・ペレンスだ」




