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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第1章「エックス・ワールドのはじまりはじまり」

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episode17「キャットチェース」

「`THE FUNCTION "|cat_combat_mode《ネコ・戦闘モード》" &`」


 THE FUNCTIONが発動されたと同時に、メイクDの目の前にキャットが現れた。


 そのこと自体にレッド・ハット副総統は動揺しない。cdコマンドで距離をとろうとする。


 しかし——


 ピッタリとくっつくようにキャットはメイクDの目の前に現れ続けた。


(これは、ただのcdコマンドではないですだよ)


 彼女のTHE FUNCTION、”|cat_combat_mode《ネコ・戦闘モード》”は近接戦を得意とする彼女にとって敗北となる要因を排除する。


 彼女にとって最も厄介なのが遠距離攻撃だ。近づこうにも、このゲームにはcdコマンド(瞬間移動)があるため、距離を取られながらジリ貧で負けてしまう。


 そこで、彼女はこのTHE FUNCTIONを発明した。


 このゲームでは、どんなプレイヤーもコマンドを発動する直前に”これからどんなコマンドを発動するのか”という思考を読み取ることができる。彼女は0.1秒単位で敵の思考をcatし続け、cdコマンドのみを抽出。座標含めて同じcdコマンドをフルオートで発動するように設計した。


「相手の思考を読む」→「相手が出すcdコマンドを検知する」→「自分も同じcdコマンドを打つ」。


 これを繰り返すことで、彼女は強制的に近接戦闘に持ち込むことができた。


 THE FUNCTIONの能力に気づけていないメイクDはcdコマンドを発動し続けた。しかし、猫耳女との距離は変わらない。さらに、キャットはcdコマンドを手動で発動する必要がないため、余分な時間を近接攻撃に回すことができる。結果、メイクDはmkdir(オリジナル)コマンドを発動する余裕がなかった。


 しかし、彼は一人ではない。


「`cd [~12 ~3 ~4]`

 `for i in {1..3}; do cp [~ ~ ~-1]/M4_carbine.obj [~{i} ~ ~-1]/; done`」


 キャットの後ろにコピーが現れた。彼女の背後には4丁のアサルトライフルが構えられていて、今まさに引き金を引こうとして——


「`for i in {1..3}; do sl -F &; done`」


 下からうねり上がるように汽車が迫ってくる。コピーはcdコマンドで回避を余儀なくされた。


(なるほど。彼女を前衛に。後ろからSLがサポートする作戦、ですね♪ でも、それじゃ、さっきと同じですだよ)


 彼の考えは間違っていない。事実、デビアン側の編成はムーブがキャットに変わっただけだった。キャットはムーブよりもダメージを与えてくるが、決定打というほどの威力は出ていない。


(勝てますですよ)


 勝利のために、副総統がギアを一つ上げる。

 繰り出したキャットの拳を払いのけると、腹式呼吸で重心を下す。


 丹田に力を込めて、渾身の突きを放つ!


 中国人が拳法をマスターしてることは格闘ゲームではお馴染みだが、こちらも準中国産。拳法の一つや二つ、料理修行の合間を縫って修得済みである。精密なコマンド操作だけが副総統である所以ではない。


 直撃すれば、骨折どころか内臓も潰れかねない一撃(ゲーム内の話)。


 だが、キャットも甘くない。体をよじり、拳を避ける。それでもメイクDの発勁は、半径10センチメートル圏内の気圧を変動させ、直撃していない物体にも若干のダメージを与える。衝撃波というやつだ。


 キャットは唇を歪ませた。


 それでも、退く事なくむしろ攻撃の勢いを増す。拳2つと脚2本に尻尾1本。さらに道中で拾った剣一本と銃二丁を駆使して間髪入れずに畳み掛ける。その勢いはダメージを勘付かせないためか、はたまた後輩の前で見せる意地か。


 メイクDは彼女の攻撃を受け流しながら、計4発の発勁を打った。しかし、キャットはその全てを躱わす。


(ウチの発勁をここまで避けるヤツは初めてですだよ)


 メイクDの頭に疑問符が浮かぶ。


 ——なぜ?


 実は、”|cat_combat_mode《ネコ・戦闘モード》”にはもう一つ能力がある。


 それが、相手の攻撃の先読み。


 前述の通り、キャットは関数の発動中に相手の思考を読み続ける。そこにはどんなコマンドを使うか、どんな技を使うか、といった攻撃に関する情報も含まれている。彼女はそれらの情報を本能とも呼べるスピードで読み取り、回避行動ないしは攻撃手段の変更を行なっている。一朝一夕ではできない、キャットのみができる芸当である。


 これら以外にも”|cat_combat_mode《ネコ・戦闘モード》”には能力がある。


 例えば——


 キャットが銃を後ろに向けて撃った。


 メイクDは目を見張る。自分とは真反対への発砲。銃口の先には、

 コピーがいた。


 白髪の少女は思わぬ攻撃に反応が遅れた。

 銃弾が肩を貫く。


「…………っ!」


 コピーの表情が歪む。


 ”|cat_combat_mode《ネコ・戦闘モード》”が読み取る思考はメイクDだけではない。キャットを中心とした半径100メートル以内にいる敵の思考を全て取得することができる。このことにより、彼女は一対多数での戦闘も可能としている。


 ほかにも索敵や、フルオートkillコマンドなど、近接戦闘で確実に勝つための機能が盛り込まれているが、残りを彼女が使うことはない。なぜなら——


 使う前に決着がついたからだ。


「`for i in {1..10}; do cp [~-5 ~-10 ~-3]/M198.obj [~{i} ~ ~-1]/; done`」


 コピーは榴弾砲を10門、自身の背後に出現させた。1門だけでも迫力のある砲塔が10門も並ぶと、もはや圧巻だ。


 榴弾砲は空中で複製されたため、顕現と同時に落下を始める。しかし、すべての銃口はキャットに狙いを定めていた。


「ニャッ! `cd [~10 ~10 ~10]`」


 キャットはcdコマンドで回避を行うも、距離を見誤った。1ディレクトリを正確に把握している彼女でも、10発の榴弾がどれくらいの爆発を起こすかわからない。半径20メートルの爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。


 加えて、メイクDが使ったcdコマンドに|THE FUNCTION《ネコ・戦闘モード》が反応。フルオートで発動したcdコマンドは、彼女の体を灼熱の地面に叩きつけた。


「ク……ゥ……!」


 うめき声を上げるキャットにメイクDは右手を向けた。


「これでチェックメイトですだよ……」


 しかし、彼はコマンドを発動しない。

 むしろ視線は、一点に釘付けになっていた。


 倒れる敵の奥。前方、100メートル————




 自らの手で閉じ込めたはずの青髪赤眼の少女が立っていた。


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