episode15「AADAAKOODAA」
舌打ちをしたメイクDはコピーの事を見た。
「もしかして、私の部屋に侵入してた? でも、鍵はしっかりかけたはずだし……」
彼女はまだ妹からの精神攻撃に顔を真っ赤にしてうずくまっている。
「しかたないです、よ!
`THE FUNCTION "|Sphere_full_authority_deprivation_space《球体完全顕現剥奪空間》" 10`」
自身の半径10メートル以内の空間を完全権限剥奪空間で囲む、メイクDの|THE FUNCTION《必殺技》。空間内の敵は一様に身動きが取れなくなることはもちろん、権限が付与された射出物の通過を拒否するバリアの役割も持つ。
バリアによってムーブの銃弾は防ぐことはできたが、車掌のSLを止めることはできない。彼の蒸気機関車は物質ではないため、コマンドの操作対象外だ。
「む!?」
メイクDは眉を顰めると、隣でしゃがみ込むコピーを担いでcdコマンドで前方に移動した。
『少しは目を覚ましたですか?』
副総統は部下の特性を理解している。彼女が異性恐怖症であることも。部下の目を覚ますために手荒い手段を取らなければならないことを、彼は知っていた。
コピーは最初こそ顔を青くしていたが、すぐ元に戻った。3秒後には自分の足で立てるまで回復した。
『すみません、私としたことが……』
『謝罪は負けたときにしてください♪ でも、ウチの腹の虫は治らないので、妹さんのことああだこうだと聞きますよ♪』
コピーの顔が再び赤らむ。
『そ、それは……』
『嫌なら勝ちますですよ』
メイクDの言葉に彼女は顔を上げた。メイクDの金色の前髪からのぞく琥珀の瞳は、真っ直ぐにコピーを見つめていた。
『……はい!』
コピーは力強く返事した。
— — —
メイクDが副総統まで上り詰めた理由は、彼の空間把握能力の高さによる。
中華料理店の店長になる前、彼は中国人オーナーに見込まれて中国に料理修行という名目で拉致された。そこで麺の打ち方や鍋を振るタイミング、力の加減などを5年間毎日叩き込まれた。
結果、彼は1メートルの長さを直感的に把握できるようになり、1辺1メートルの立方体を標準単位として持つエックス・ワールドにおいて大きなアドバンテージとなった。
「`mkdir [~10 ~2 ~16] -m 2`」
彼の正確無比なコマンドを避けるためには、発動と同時にcdコマンドで避けるか、彼が作り出した空間の権限を上書きするしかない。
そういう意味では、
「`cd [~10 ~5 ~10]`
`mv ./M4_carbine.obj ./RPG7_rocket.obj`」
感覚でcdコマンドを使うムーブは戦いづらい相手だろう。
ムーブは歯を食いしばって、ロケット弾を手でメイクDに投げつける。ゲーム内だからこそできる荒技だ。
しかし、メイクDは一人ではない。
「`for i in {1..2}; do cp ./M4_carbine.obj [~ ~ ~]/M4_carbine{i}.obj; done`」
コピーがアサルトライフル3丁でロケット弾を撃ち落とし、
「`for i in {1..3}; do cp [~ ~ ~-1]/M198.obj [~{i} ~ ~-1]/; done`」
榴弾砲4門で飛び跳ねるウサギを撃墜させる。
砲弾の一発がムーブに当たり、激しく爆発した。
彼女の動きが止まったところでメイクDがコマンドを唱えようとする。
しかし——
「`for i in {1..10}; do sl &; done`」
メイクDの背後で車掌がコマンドを発動する。10台の見えないSLが次々と副総統に向かうが、メイクDはcdコマンドで華麗に回避する。メイクDは戦闘開始時からjobsコマンドを使用していた。
(当たれば大ダメージですが、軌道は直線のみ。ホーミング機能はなさそうですね。まず対処すべきは——)
メイクDはmkdirコマンドをムーブにしか使っていない。理由は、mvコマンドがこの場で唯一、彼の”完全権限剥奪空間”から仲間を救出することができるからだ。slコマンドで救出できないことは、スーが閉じ込められた反応から確認済みだった。
彼の頭に負けるイメージは思い浮かばなかった。
なぜなら————
「`mkdir [~-20 ~13 ~11] -m 0`」
かたや1ミリのズレもないコマンド操作と陽動を兼ね備えたコンビ。
「`mkdir [~-8 ~5 ~7] -m 0`」
かたや避けられる単調な攻撃と、逃げることしかできないコンビ。
勝敗は時間を待たずとも決まった。
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