表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第1章「エックス・ワールドのはじまりはじまり」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/57

episode13「ドリーマーズ・ハイ」

&(バックグラウンド)コマンドか!)


 レッド・ハットの部隊長、マンは冷静だった。一撃受けただけで今の攻撃が&コマンドとslコマンドを掛け合わせたものであると見破ったのだ。


(であるならば……)

「`jobs &`」


 jobsコマンドは組み込みコマンドの一つで、バックグラウンド含めて全てのコマンドを視覚化させることができる。もちろん、&(バックグラウンド)コマンドと併用することで、jobsコマンドを使用しながら他のコマンドを実行することも可能だ。


 マンがjobsコマンドを実行すると、半透明の蒸気機関車が浮かび上がってきた。3メートルある機関車は煙を上げることも、汽笛を鳴らすこともなく無言で近づいてくる。


「`cd [~ ~10 ~10]`」


 cdコマンドでSLを避ける。この時点で逆バニーの中年男性は勝利への方程式を描き直し始めていた。


(このまま彼の懐に入り、物理で叩きのめす。連れは見たことない少女と副司令官か。不確定要素が多い以上、仕留めた後は距離をとりながら応援が来るのを……)


 ここでミドルエイジの紳士は思考を中断せざるを得なかった。


「`for i in {1..10}; do sl &; done`」


 jobsコマンドを通して見える10台の蒸気機関車。うっすらと見える巨体は、bootエリア全天を覆い尽くし、直感的なcdコマンドによる回避行動を不可能にさせた。


(この量のSL……! ここは一度退避して……)


 しかし、もう遅かった。


「`cd [~10 ~-15 ~-10]`」


 視界の隅にライム色のジャンパーを認めた時には————


「`for i in {1..10}; do sl &; done`」


 上から、背後から、

 無色透明な無言のSLが迫っていた。




   * * *




「よっしゃ!!」


 青白い光を放って消えていく逆バニーを見て、僕はガッツポーズした。

 しかし、ここは上空。


「うわっ」


 翼を持たない僕はドシンと地面に衝突した。ダメージ軽減をつけているからそこまで痛くなかったけど、段差につまづいてしまったような、全会一致の恥ずかしさが芽生える。


「お疲れさま、ポッポくん」


 僕の近くにムーブ先輩が降り立つ。金髪のショートヘアからは笑顔がのぞいていた。


「かっこよかったよ!」

「ありがとうございます」


 差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。


「車掌さん、お疲れさまでした」


 スーも降りてきて労いの言葉をかける。


「相手がmanコマンドとわかった時にはプランBに移行すべきか悩みましたが、manコマンドの穴をついた&(バックグラウンド)コマンド。素晴らしかったです」


 笑みを浮かべる彼女を見て、僕は頭を搔く。


「いやぁ、それほどでも……」

「そうだよ〜。やれって言ったのはあたしなんだからね」


「先輩は何もしてないでしょ」

あたしが出るまでもなかったってことよ〜」


 胸を張る先輩をよそにスーが手を差し出す。握手を求めているのだとわかった。

 僕は嬉しくなって、彼女の手を握ろうとしたそのとき————


「`mkdir [~100 ~0 ~200] -m 0`」




   なにも感じなくなった。




 喋ることができない。見ることもできない。動くこともできない。


 なにより——

 息が、苦しい……。


 まるで口元を塞がれたかのように息ができなくなった。これはダメージ軽減がついていても関係ない。


 僕はみじろぎしようとしたが、動けない。思わずフルダイブ・スーツを脱ごうとしたが、ログアウトしないとできない。でも、ログアウトするための操作ができない……。


 ————死。


 そんな一文字が頭をよぎったとき、僕の体は自由を取り戻した。


 体が動くようになり、周囲の音が聞こえ、見ることができて、息ができるようになった。


「ポッポくん、大丈夫!?」


 久しぶりの酸素をえずきながら吸い込む僕の横に先輩が駆け寄る。彼女の顔には先ほどまでの余裕はなかった。というより、今までで見たことがないほど険しかった。


 スーも僕の隣に立った。


「……これはちょっと予想外ですね。まさか、こんなところにいるなんて……」


 気がつけば、僕は先ほどいた場所から50メートル離れた場所に立っていた。

 なんとか体を落ち着かせて顔を上げると、100メートル先に一人の男を認める。


 赤い帽子に中華風の衣装、金色の髪と琥珀色の瞳。


「誰ですか?」


 僕の問いにスーが重々しく答える。


「メイクD————レッド・ハットの副総統です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ