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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第1章「エックス・ワールドのはじまりはじまり」

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episode12「晴れゆく空」

 ダグラス・ゴウセツ、ゲーム内通称:マンが逆バニーを着ているのは、ひとえに初見の相手を動揺させるためだ。


 中年男性が過激な衣装を着ている、というだけで相手の思考は鈍くなる。その隙をつく戦い方で彼は数々の戦績をあげ、レッド・ハットの部隊長まで上り詰めた。


「決して趣味ではない」とは本人談であるが、真実はわからない。


 しかし、彼の強みは衣装の過激さだけではない。


 一つはメモリ量。週5でジムに通う彼の肉体は、現実のフィジカルが反映されるエックス・ワールドにおいて絶大な数値を叩き出す。この莫大なメモリを根拠にkillコマンドなどメモリ消費が激しい強力な組み込みコマンドを使用する。オリジナル・コマンドが戦闘向きではない代わりに、組み込みコマンドを駆使して戦うキャットと同じタイプだ。


 しかし、彼のオリジナル・コマンド、”manコマンド”も無視できない。


 ”man”コマンドは指定した相手のコマンドの詳細情報を表示させたり、コマンドの検索を行うことができる。


 すなわち、逆バニーで初見殺しを行う彼に、()()()()()()()()()()


(なるほど。slコマンドですか……面白いですね)


 視界に表示されたコマンドの実行結果を見ながらマンは口髭を撫でた。


(killコマンド以外の制約を受けないSLを召喚する。しかし、SLは真っ直ぐに進んだり飛んだりするだけで、軌道を自在に操ることはできない。当たれば強力ですが、当たらなければ意味がない。killコマンドで消しながらフィジカルで叩き込めば問題ないですね)


 マンは拳を握りしめて戦闘の構えをとった。彼の頭には勝利へのイメージがはっきりと浮かんでいた。


 しかし、戦闘態勢になった直後————




「`sl &`」




 ()()()()()がマンを轢き飛ばした。


 ひっくり返ったマンは自身のメモリを確認した。先刻まで100%近くあったメモリが、もう三分の一しかない!


 マンは慌てて振り返った。

 そして目を剥いた。




(ぶ、部隊員のほとんどが全滅している!?)




 自分と同じ見えない塊にやられたのか、強制ログアウトを示す青白い光が直線状に灯っていた。


「い、いったい……なにが……」


 混乱しながらも部隊長である彼は冷静だった。


(我らがやられたのは間違いなくslコマンドだった。しかし”&”なんてオプション、なかったはず……

 !? まさか、あの”&”は————)




   * * *




『彼は……manコマンドを使います』


 スーのか細い声がディスコードから聞こえてくる。ゲーム内の彼女は顔を覆ったままだった。作戦中だというのは分かっていたが、真っ赤になった顔を隠している彼女を見て、可愛いと思ってしまった。


 だが、次の言葉で正気に戻される。


『ですので、車掌さんのコマンド(能力)はもうばれてしまっているでしょう』


 心臓が嫌な脈の打ち方をする。今回の作戦のキーマンは僕だった。対知名度インパクトが最も大きい僕のコマンドで初見殺しするはずが、手の内がバレてしまっては意味がない。僕のコマンドは強力ではあるが、同時に対策もされやすかった。


 そうなると、プランB。ムーブ先輩を前衛に置いた殲滅戦に作戦はシフトする。


 しかし、ふと疑問が浮かんだ。


『manコマンドで出力される情報って、slコマンドの使い方だけしか載ってないんだよね』

『そうですね。どのコマンドにもマニュアルという使用方法が記された文書があります。manコマンドはそこにアクセスすることができるコマンドです』


『ってことは、”バックグラウンドSL”の存在はまだ知らないんじゃないかな』

『なるほど〜』


 ムーブ先輩は近くに落ちていたハンドガンを二丁、mvコマンドで引き寄せた。


『”バックグラウンドSL”はslコマンドのマニュアルには書かれていない。それでいて()()()()()()()()()。ポッポくん、”実行なき者に成功なし”だよ。まずは撃ってみよう!』


「はい!」


 僕は右手を前に出して唱えた。


「`sl &`」


 組み込みコマンドの一種である&(バックグラウンド)コマンドは、実行するコマンドを”世界の裏側(バックグラウンド)”で実行させるコマンドだ。たとえば、僕のslコマンドは一度発動すると機関車が消えるまで他のコマンドを使うことはできない。けれども、&コマンド(これ)を使うことでSLが走っている間も別のコマンドを使用することができる。


 それだけじゃない。


 バックグラウンドで実行されるコマンドは”通常の視覚”では認知することができないんだ。言うなれば、”透明なSL”がエックス・ワールドを跋扈することになる。


 果たして、結果は予想通りのものだった。

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